第14話 手を繋ぎたい女の子手を繋ぎたくない男の子

 俺達は少し歩いて大型のショッピンクモールに到着した。

 

 確かにアヤの言う通り道中全く「ディーヴァ」の芹野綺夏だと気づかれなかった。髪型と服装だけでそんなに人間は雰囲気が変わるのかとちょっと感心した。



 この大型のショッピングモールは昔から何度も来ている場所だ。

 ここで小さい頃からキャラクターショーを何度も観た。俺もいつかここでショーをするのかな?できたらいいな。俺はそんな事をふと思った。



「連ちゃん?」



 物思いに耽っていた俺を気にしてかアヤが顔を覗き込んでいた。



「どうかしたの?」

「ん?いや何でもない」

「そう…。なら良いや。連ちゃんはこのまま靴を見に行くんだよね。ほら行こ」

「うん。所でアヤ?」

「どうしたの?」

「手、そろそろ離さない?」



 俺とアヤは家からここまでずっと手を繋いでいる。

 一応アイドルなアヤと手を繋いでいるのは何となくファンの人達に申し訳ない気分になってしまう。別に俺は従姉弟であってファンじゃないし。



「連ちゃんはわたしと手を繋ぐのがイヤなの…?」



 アヤはやたら青ざめた顔をしていた。

 イヤというかそこは流石にアイドルとしての自覚を持った方が良いと思う。この後、アヤに気付く人がいるかもしれないし。流石に幼馴染な従姉をスキャンダルに晒すのは嫌だし俺も晒されたくない。


 俺が自分から人前でアヤと手を繋ぐ事があるとすれば、それはサタンゴースを倒す為、黄金の鳥を復活させる必要があるみたいに全銀河の人類たちが手を繋がなければならない宇宙そのものの危機の時だけだろう。



「いやそういう訳じゃなく、一応アヤはアイドルなんだし流石に男と手を繋ぐのはどうかと思う」

「なんだ。そんな事か。そんなの連ちゃんが気にする必要は無いよ。今のわたしはアイドルの芹野綺夏じゃなくて、連ちゃんの従姉で幼馴染の芹野綺夏」

「俺の従姉で幼馴染でも今のアヤはアイドル。やっぱり手を繋いだままはマズい」

「やっぱり連ちゃんは連ちゃんだね。そういう所何も変わらない。でもそこも好き」

「はいはい、ありがとありがと」

「むぅ、本気にしてない。もう良いよ。分かりましたよーだ」



 手を離してくれたのは良いが、急に機嫌が悪くなった気がする。

 アヤは元々何を考えているのかよく分からない所がある。今回もその類だろう。気にした所でしょうがない事は長年の付き合いで流石に分かっている。



「ほら、靴売り場。行くよ」



 そのまま先にスタスタと歩き出した。

 いや靴売り場に用があるのはアヤじゃなくて俺だからね?



 俺は当初の目的通り、靴売り場で靴を購入した。黒に赤いラインの入った運動用靴。特に理由は無いがそれにした。強いて言えば最初に目が付いて値段が手頃だったから。


 それより問題はアヤである。さっきからずっと機嫌が悪い。そんなに手を繋ぎたかったのか?そんなバカな事があるか。



「なぁアヤ。何そんなに怒ってるんだよ」

「べっつに~。怒ってないよ、わたし」

「嘘。アヤ絶対怒ってる。そんなに手を繋ぎたいのか?」



 どうすれば正解か分からないので、仕方なく俺は手を差し出す。

 サタンゴースを倒さなきゃいけない程の事態では無いが、已むを得まい。するとアヤの表情から硬さが取れていった。



「まぁそれだけじゃないんだけど…。まぁ今回はそういう事にしてあげる」



 そういう事ってどういう事?

まぁアヤの機嫌が直ったぽいから良いか。



「靴は買えたね」

「さて、このまま帰「じゃあちょっとこのモールを見て回ろうか」



 俺が帰ろうと言い出すのを遮るようにアヤは予定を決めた。いや勝手に決めるなよ…。

 まぁ毎日仕事で忙しいアヤだ。たまの休みに普通の高校生の休日っぽい事がしたいんだろう。付き合うか…。



 と、思った俺の目にある光景が見えた。


 ショッピングモールによくある玩具売り場だ。今週発売される新作の特撮玩具は無い。ただでもやはり一応来たからには見ておきたい。やはりこういう所で血が騒ぐから俺は根っからの特撮オタクなんだろう。



「ごめん、アヤ!玩具売り場見てくる!」

「あっ…!」



 俺はアヤの手を離し、玩具売り場に向かった。ヨッホホ~イ!!派手に行くぜ!!



「連ちゃん……」



 アヤの悲しげな顔に俺は気づくことなく玩具チェックに勤しんだ。


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