第17話 改めてデート
「ねぇ~ねぇ~れんちゃん」
「うん」
「あやかといっしょにあそぼうよ~」
「うん」
「ずっとてれびばっかりみてないでさ~」
「うん」
「もういいよ!れんちゃんのばか!」
「うん」
幼い頃を思い出していた。
わたしは早く一緒に遊びたかったけど連ちゃんはTVで特撮を観るのが最優先。それがわたしには寂しくて悲しくてでもやっぱり連ちゃんの傍を離れるのは嫌で複雑な顔で一緒にTVを観るそんな日々が続いた。
それでもある程度観終わったら「じゃああそぼうか!」と言って一緒に遊んでくれるのだけど。
だけど年月が流れてわたしがアイドルになって売れていって、連ちゃんは特撮オタクとして深みにはまっていって一緒に遊ぶ機会は減っていった。勿論、連ちゃんの家に特に用も無いのに行ったりしてなるべく会う様にはしていたけど。ただそれでも遊ぶ機会が減るのは仕方のない事だけど、やっぱり寂しい。
それに今、連ちゃんはアクションチームに所属してショーに出演するスーツアクターになった。
勿論前向きに捉えていたつもりではあったんだけど、それも実はただの強がりだったんじゃないかとそう思えてくる。
特撮は連ちゃんの人格形成にも多大な影響を及ぼしている。連ちゃんが正義感が強くて向こう見ずだけどまっすぐで律儀で優しいのは間違いなく特撮ヒーローの影響だ。連ちゃんに何より大切なのはわたしじゃなくて特撮。
ほら今も現にああやって楽しそうに…楽しそうに……
「あれ?」
目から涙が零れる。やっぱり寂しいんだ。わたしは手を離したくなくても連ちゃんは特撮を前にするとあっさりわたしの手を離す。それがたまらなく寂しい…。
「アヤ…!アヤ…!」
気が付いたら連ちゃんが申し訳無さそうに立っていた。
「ごめんアヤ!俺、アヤの気持ち考えずに自分勝手にしてしまった!」
手を合わせて頭を下げる連ちゃん。周りは何事かと見ている。流石にこれはマズいかな…。
「ちょっと連ちゃん…。良いよそこまでしなくても…」
「良くないよ!だってアヤ泣いてるし!俺が勝手に玩具売り場に行ったから…」
「わたしは大丈夫。連ちゃんがわたしより特撮を優先するなんていつもの事だし」
わたしは涙を拭いて務めて笑顔を見せた。確かに連ちゃんがわたしは放っておいて玩具を見に行ったのは悲しい。
でもちゃんと連ちゃんはわたしに気付いて戻ってきてくれた。もうそれだけで良い。チョロいと言われればそれまでだけど最後は必ずわたしの所に来てくれる。それで十分。
「でも…」
連ちゃんはまだ納得していない顔をしている。
「だから気にしないで。ほら、それより色々見て回ろう。時間が勿体ないよ」
わたしは連ちゃんを無理やり納得させて連れ立った。今日は折角のデートなんだから悲しい気持ちより楽しい気持ちでずっといたい。
そしてその後、わたし達は色々なお店を見て回った。連ちゃんといると安心とドキドキを同時に感じる。やっぱりわたしは連ちゃんが好きなんだ…。
連ちゃんの方を横目でチラっと見る。連ちゃんもそれなりに楽しそう。良かった。わたしといるのがつまらないと思われていたどうしようと不安になったがそれも杞憂な様だった。
その後、わたし達はモール内のカフェにいた。モールの通路側の席に座る。
わたしはエスプレッソのフラペチーノ、連ちゃんはオレンジジュース。連ちゃんは大の甘党で未だにコーヒーが飲めない。本当にそういう所は昔から変わらない。
「そういえば連ちゃん、ゴールデンウィークの予定ってどうなってるの?」
「あぁゴールデンかぁ…」
「5月5日のライブ、どうかな?一応関係者席は用意してあるけど」
5月5日は穂希の誕生日。
だから毎年、5月5日は穂希の生誕祭記念も兼ねてゴールデンウィークのライブを行っている。
最初は小さなライブハウスだったけど人気が鰻登りで上がっていって今年はそれなりに大きなホールでやるのが決定している。
今日、わたしはオフになったけど、ここ最近はライブに向けてリハに余念が無い。
それに連ちゃんは毎回来てくれていた。だからヒーローショーの仕事を始めたとしても今年も来てくれている、そう考えていた。
でも、連ちゃんの顔はまた申し訳無さそうになって…。えっ、まさか……
「ごめん、今年は行けない」
「えっ……」
わたしはその言葉に衝撃を受けた。来てくれると思ったのに…。
でも何となくそんな予感はしていた。連ちゃんはわたし達より特撮をとるだろうって…。
「ゴールデンは毎年、猫の手も借りたい位の忙しさみたいなんだ。それで俺もゴールデンは毎日現場に入る事になってる。わざわざ関係者席を用意してもらってるのに本当にすまない」
また頭を下げる連ちゃん。
「分かった。連ちゃんの方も大変みたいだね。でも、後でちゃんと水沙と穂希にも行けないって言っておきなよ。穂希は怒ると思うけど」
「そうだね…」
何となく気まずくてお互い下を向いてしまう。何度も言う様に連ちゃんがアクションチームに入団してヒーローショーをやる事をわたしは前向きに捉えているつもりだった。
でも、いざこうやってわたし達を引き離す存在にヒーローショーがなっていると思うとやっぱり恨めしい。
そんな時だった。
「あれ~?リュウくんじゃん」
連ちゃんが誰かに声をかけられた。
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