第11話 須田穂希という少女の話

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 アタシが連と一緒にいる様になったのはいつからだろう。

 物心ついた頃には一緒にいたように思う。家が隣同士で母親同士が大の親友だったというのもあると理由としてある気がする。



 アタシは小さい頃から身長が小さくそれをよく周りの子供たちから揶揄われていた。

 でも、そんな時いつも庇って立ち向かってくれていたのが連だった。

 小さい頃から正義感が強くて向こう見ず、でもまっすぐで優しくて毅然とする所は毅然とするそれは今も変わっていない。あの頃、アタシにとっての一番のヒーローは連だった。いやそれは今も、かな。


 そんな連は特撮が大好きだった。毎週土曜と日曜の朝は特撮の時間。連はその時間が終わるまでTVの前を梃子として動こうとしなかった。昔はアタシも特撮は好きだった、と思う。いつも朝ごはんを急いで食べて隣の連の家まで行って連と一緒に観てたから。

 でも今思えば特撮が観たかったんじゃなく、連とただ一緒にいたかったからだ、そう思う。実際、アタシの家と逆方向で連の家と隣だった綺夏や連の姉の水沙も一緒に観ていたし。2人も目的はアタシと一緒だったと思う。



 アタシ達は一緒のまま成長していった。

 特撮って普通は成長と共に興味が無くなるものだろうと思う。

 アタシも小学校の学年が上がるにつれ、特撮に興味を持たなくなっていた。いやむしろ特撮を疎ましく思う様になっていった。

 連はどんなに学年が上がっても特撮が大好きなままでむしろより深みにハマっていっていった。一生懸命お小遣いを貯めたり親や祖父母にねだって色々な特撮の玩具や本を買っていたし、配信やレンタルでアタシ達が産まれるずっと昔の作品も観る様になっていた。よくいう特撮オタクに小学生の時点で連はなっていた。


 昔は一緒に特撮を観ていたアタシだけどももうその頃には一緒に観る事は無くなっていた。連は特撮を観る時が一番キラキラした目をいつもしていて、アタシ達には引きだせない表情をしていた。アタシはどうやっても特撮に勝てないのかな…?

 そんな事を考える様になってきて特撮はアタシから連を引き離す憎い恋敵の様に感じる様になっていった。


 その気持ちは高校生になった今でも変わらない。多分、他の人からしたら特撮が恋敵なんておかしな話だと思うかもしれないけど、アタシは今も真剣にそう思っている。


 そしてそう思う様になったと同時に自分は連の事がどうしようもなく好きなんだという事に気づいた。

 家が隣同士で同い年だから登下校はいつも一緒、クラスは奇跡的に毎年同じ、物理的な距離は近いのに心理的な距離は遠く感じる、そんな日々がまだ小学生だったアタシにはもどかしかった。



 だから、小学6年生の時に一度だけ連以外の男の子と一緒にいようとした事がある。

 放課後、校舎裏に呼び出されて告白された。アタシの事が好きだって。それでアタシはその告白を受ける事にした。


 理由はアタシが他の男の子と仲良くしている姿を見て連はどう思うかどう反応するかそれが知りたかったから。今思えば人の心を弄ぶ最低の行為だ。でも当時のアタシはそんな事も分からない位連の気を引きたくて必死だった。


 結果は大失敗。連にその事を言ったら「そう」それだけ。しかもその後も態度は全然変わらず。

 話しかけてくる時は普通に話しかけてくるし行き帰りも一緒。連はアタシに彼氏ができても全く気にせず特撮の事ばっかり。

 だから流石に相手の男の子に申し訳なく思えてきてすぐに別れた。後でこの事を知った水沙と綺夏にはこっぴどく怒られたけど。


 結局、アタシは連にとっては特撮以下なんだと思い知らされた。普通はそこで冷めるものかもしれないけどアタシは逆にますます燃えた。絶対に特撮以上の存在になりたい。連を振り向かせたいって…。



 でもアタシに彼氏ができても無反応なのにどうすればいいか分からないまま、小学校を卒業して中学生になった。


 中学生になっても連は相変わらずどころか益々特撮オタク振りに拍車がかかっていた。


 それに対してアタシ達は特に進展なしのただの幼馴染のまま。アタシは連の彼女になりたいのに…。


 しかも成長するにつれ水沙も綺夏も連への恋心を隠さずアピールするようになっていた。2人は連とは親戚、水沙に至っては実の姉弟だけどそんなの関係なしとばかりに。アタシも体は身長はともかく、胸やお尻は成長して女子中学生の平均よりは大きくなったけどそれ以上にあの2人の成長は凄かった。だからアタシは焦った。同姓から見ても魅力的な2人に言い寄られたらあの連ですら堕ちてしまうかもしれない、禁断の一線を超えてしまうかもしれない。水沙も綺夏もアタシにとっては大切な幼馴染で親友であるけど連の事になると話は別。絶対にあの2人にも取られたくない。


 でも、連は異常なまでの鉄壁振りを発揮していた。アタシのアピールだけでなく、あの2人のアピールすら全てスルーし続けていたのだ。


 当時中3だったけど大人顔負けのスタイルの水沙が女の子にとって大切な部分が見えるかもしれない位際どい水着をとか言って連に見せつけてアピールしてるのに、当の連は面倒臭そうに一瞥しただけですぐにTVの方を向いて顔色一つ変えずにそんなエロ過ぎる水沙をガン無視して「地球の悪ネオショッカー!ライダー部隊が相手だ!ここ大好き!輝け!8人ライダー!!」と叫びながら特撮を観ていたのは余りの水沙の滑りっぷりに流石のアタシも水沙が可愛そうになった。


 学校の帰り道、綺夏がわざとそれなりに大きく育っていた胸を後ろから連に押し付けた時だって連は無反応でというか全然気づいてなくてむしろその日解禁されたらしい特撮の新情報を「ウルトラの新作来たーっ!!7月が楽しみだぜ!!」とスマホで発見してそっちで盛り上がっていた。自分に気付かず一人盛り上がる連に綺夏もちょっと涙目になっていた。



 そんな悶々としていた中1の夏に転機が訪れた。



「あなた達、アイドルになってみない?」



 繁華街を水沙、綺夏と3人で歩いていた時にスカウトされたのだ。スカウトした人は江田洋子えだようこさん。今のアタシ達のプロデューサー兼マネージャー。


 正直、アタシ達にまさかそんな話が来るとは思わなかったから最初は戸惑った。信じていいものかとも思った。でも洋子さんは「すぐにとは言わない。また気が向いたら連絡してほしい」と名刺を渡してその場を立ち去った。



「これはチャンスじゃないかなと思う」



 洋子さんと別れた後、どうしようか?と考える為に入ったカフェでそう水沙が切り出した。



「私達が芸能界にデビューして凄いアイドルになる。そうしたら連くんも私達を見なおして振り向いてくれるかもしれない」



 水沙のこの意見にアタシと綺夏はその手があったかとなった。近くにいた幼馴染達がアイドルになる、思春期男子にとってそんな美味しい話はない。

 連だって男だ。アタシ達がアイドルになればちょっとは見る目は変わるかもしれない。



これに賭けよう――!!



 その後、水沙から洋子さんに連絡を取り、正式にプロダクションに入りアタシ達は厳しいレッスンの末、「ディーヴァ」としてデビュー。

 洋子さんのプロデュース力もあって結成3年という正に瞬く間にアリーナライブすら成功させるアイドルになった。

 これも全ては連に振り向いてもらう為。本末転倒な話だけど連と一緒の時間が減ったのは残念だけど仕方ない。


 だから連がアクションチームに入ってヒーローショーに夢中になったとしても絶対負けない、負けたくない。

 絶対に連をアタシに振り向かせて見せるから!


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