第10話 ものは考えよう

「う~ん、良いんじゃないかなぁ」



 は?アタシは綺夏の言っている事が理解できなかった。

水沙の方に顔をやると水沙も綺夏の真意を測りかねない顔をしていた。



「何言ってんのよ!綺夏!」



 アタシはまた綺夏に対して叫んだ。

 アタシ達から連が離れてしまうかもしれない非常事態なのに何を綺夏はそんなに落ち着いていられるのか意味が分からない。



「まぁ穂希、落ち着きなって。確かにわたしも連ちゃんが離れていってしまう不安が無いわけじゃないから」

「だったら――」

「とりあえずこれを見なよ」



 綺夏がアタシの前に自分のスマホを見せた。

 スマホに映っているのは連が入団したアクションチームの公式HPのアクター紹介のページだった。そこには入団したばかりの連の項目もあった。

 格好良くポーズを決める連、笑顔を見せる連、様になる立ち姿をしている連…。

 いつも見ているはずの連がこうして見ると全く違う印象を受ける。

 ヤバい…。滅茶苦茶格好いい…。改めて惚れ直しちゃうじゃない……。



「どうもここはただヒーローショーをやるだけって訳じゃないみたい。他にも色んなイベントや映像のスタントの仕事なんかも受け持っているそれなりに規模の大きい事務所らしい。こんなアクター紹介ページまである位だから、所属しているメンバーも単なる裏方じゃなく役者としてアピールしていく狙いもあると思う」



 …?

 綺夏の言っている意味がよく分からない。実は規模の大きい事務所だからどうしたというの?



「綺夏?それってどういう?」



 水沙もやはりまだ綺夏の言いたい事が分かってないらしい。



「要は連ちゃんは私達に近い世界の人間になったって事だよ。わたし達もイベントやライブなんかで色々な場所を回る事が多い。ひょっとしたら連ちゃんと仕事先が同じになる事もあるかもしれないし、連ちゃんと同じ仕事ができるかもしれない」

「綺夏はむしろ連くんがアクションチームに入ったのはチャンスだって言いたい訳?」

「そ。連ちゃんが観客としてじゃなく一緒に仕事をする仲間になれば、もっと連ちゃんといられる可能性が高いって事。それに特撮オタクの連ちゃんの事だからその仕事をそう簡単に辞めるとは思えない。このまま高校を卒業して、大学に行って社会人になってしまう方が離れて行ってしまう可能性が高い。なら芸能界とも繋がりがあるアクションチームにずっと在籍してくれる方がわたし達にとっても長い目で見たら都合が良いって訳」



 「ま、わたしはどんな事があっても連ちゃんと離れる気は無いけどね」と付け加え綺夏はふふんと鼻を鳴らした。


 そうか、そういう考え方もあるんだ。

 アタシは目から鱗が落ちる思いだった。

 確かに連も大人になっていけばアタシは死んでも嫌だけど連との関係も変わらざるを得ないかもしれない。でも綺夏の言う様にアクションチームに入って仕事を続けていけばいつかアタシ達とも一緒に仕事をする日が来るかもしれない。アタシは改めて綺夏に感服した。



「そっか…。そういう考え方もあるんだ……」

「そだよ。ものは考えようってね」



 アタシは納得し椅子に腰を掛けた。

 さっきまでの怒りが綺夏の言葉で大分落ち着いた様だった。



「ところで水沙。連ちゃんってもうそのショーの本番は出てるの?」



 綺夏からの問いかけに水沙はハッとした表情になりすぐに悔しそうな表情になった。


「それが…、今日なのよ……。連くんのデビュー……」



 えっ今日っ!?

 いくら何でもいきなり過ぎるでしょ。

 というかそういう事なら連も連でアタシに言いなさいよ…。その場にいない連に少し苛立ちを向けた。



「いきなり過ぎない?」



 綺夏も流石に驚いた様な反応を見せる。



「そうなの。本当にいきなり。連くんのデビュー観たかったなぁ」

「もっと早く言ってくれれば収録キャンセルして観に行ったのになぁ…」



 2人が明らかに肩を落としている。

 恐らく私もそうだろう。

ったく、連のバカ!今度会ったらとっちめてやろう。



「それにしてもこの連ちゃん、格好いいなぁ…。可愛いイメージしかなかったからちょっと新鮮かも。保存しよっと」



 綺夏はスマホを操作して連の画像を保存していた。先程とは一転、その表情はうっとりとしている。


 そんな綺夏に吊られてアタシと水沙も自分のスマホを取り出して連の画像をプロデューサー兼マネージャーの江田洋子えだようこさんがいい加減にしろと来るまで堪能し、保存した。



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