第9話 そんなの聞いてない

 お待たせしました。ヒロイン3人全員登場します。


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「何よ、それっ!そんなの聞いてないっ!!」



 アタシ、須田穂希すだほまれは思わず机を叩いて立ち上がった。

 ここはTV局の中の楽屋。音楽番組の収録後、私達「ディーヴァ」の3人がここにいた。



 収録前、水沙から収録後、2人に聞いてほしい話があると言われたのだ。


 水沙からアタシ達に聞いてほしい話なんて一つしかない。

 アタシ達の大切な人、水沙の弟で幼馴染の桐生連に関する事だ。

 その時点で何か嫌な予感はしていた。アタシは隣にいた綺夏の眉がぴくっとしていたのを見逃さなかった。恐らくアタシも同じ反応をしていたから。



 だからアタシは収録をキチンとこなしながらも内心は気が気じゃなかった。

水沙は何を言うつもりなんだろう?連がひょっとしてアタシ達の前からいなくなってしまうんじゃないか…。そんな不安を抱えていた。



 そして収録後、アタシ達は楽屋にいた。そして水沙が話を切り出した。



「あのね話っていうのは連くんの事なんだけど…。連くん、アクションチームに入団したの」

「…っ!?」



 アタシは内心衝撃を受けた。連がアクションチームに入団…?特撮オタクだけどインドア派な連が…?正直、水沙の話を受け止められない。



「どういう事?」



 綺夏が水沙に尋ねた。



「私も改めてお母さんから教えてもらったんだけど、入学式の日に募集の広告を見かけて、それでその日の内に面接をして即入団が決まったらしいの。それからは毎週月曜日、火曜日、木曜日の夜は練習とかミーティングで行っていて…。これから日曜日もショーの仕事で1日中家に居るっていう事はほとんど無くなるみたい…」



 え…何よそれ…。

 アタシは絶句した。アタシ達は忙しい。滅茶苦茶忙しい。そんな中での心の支えが連だった。連は特撮オタクで基本特撮優先だけどアタシ達の事もちゃんと気にしてくれて、応援してくれた。大切な大切な人。

 でもやっぱり連は特撮オタクで特撮オタクがアクションチームに入ってヒーローショーの仕事なんて始めたらもうアタシ達の事なんてどうでもよくなるかもしれない。もうアタシ達は見て貰えなくなるかもしれない。

 自分勝手な考えなのは分かってる。勿論連には連の人生がある。でも水沙の話にどうしても「ハイ、そうですか」とは行かなかった。



「何よ、それっ!そんなの聞いてないっ!!」



 気が付いたらアタシは机を叩いて立ち上がっていた。



「水沙も何で止めないのよ!連は根っからの特撮オタクよ!アイツがそんな世界に入ったらもうアタシ達の事なんてどうでもよくなるに決まってる!」

「それは私だってやって欲しくなかった。連くんが私達の事を見てくれなくなるかもしれないって思って怖かった嫌だった。でも、連くんの姉として連くんを応援してあげたいっていうのも気持ちとしてあるの。私達がアイドルとして活動しているのを連くんが応援してくれる様に私も連くんを応援したい、これも本当なの」

「それはそうだけど、やっぱりアタシは連とこのまますれ違う事になるのは嫌。どうしても嫌」



 凄くアタシは自分勝手な事を言っているのは理解できる。水沙の反応が正しいのは分かる。でも、アタシは完全に連が特撮にとられちゃう気がしてどうしても納得できなかった。



「連ちゃんが所属しているチームってどこなの?」



 それまで黙っていた綺夏がそんな事を聞いてきた。そんな事を聞いて何になるのだろう?アタシは綺夏がよく分からなかった。



「えっと、確か…ロッソアクションメンバーズ、だったと思う」

「ロッソアクションメンバーズ…」



 名前を聞いた綺夏は机の上に置いてあったスマホをいじりだした。一体何を始めたというのだろう。アタシは苛立った。



「何、悠長にスマホいじってんのよ!綺夏は嫌じゃないの!?」



 こんな事言ったってどうにもならないのについ綺夏にキツい口調で言ってしまう。

 連がアタシ達から離れて行ってしまっていくかもしれない不安で全然自分の感情がコントロールできない。



「う~ん、良いんじゃないかなぁ」



スマホに目を落としながら言った綺夏の言葉をアタシは受け止められなかった。



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