第4話 「幼き日々 ゆり出征」

実は、あの頃のことを今はもうよく覚えていない。

寝物語にユリに聞かされることで、今日は確かに思い出していたのだが、あの楽しかった日々は遠いかなたで、僕の手にはもう何も存在しなことだけを思い知らされる。

ユリの手が僕の髪を梳く、そのリズムに合わせて鼓動がなる。静かな夜、皆が恐怖に怯える夜、こうして気楽に寝ていていいのだろうか?

ああ、本当にあの頃は良かった。結局僕のウンチは麻里に捨てられ、翌日、麻里のウンチを無理やり食わされて泣かされた・・・・、あの優しかった麻里はもうここにはいない。

絵里、ああ、絵里、絵里、彼女も僕のもとを去ってしまった。それを悲しむのは、臣民として失格だとは分かっている。しかし、絵里絵里絵里、母替わりだった絵里、母さん・・・・・

ただ、ユリだけは、まだ、傍にいてくれた。彼女も明日、出征する。

僕は本当に一人になる。

孤独は怖い、いや、孤独を愛している、いや、違う、相反する感情が僕を混乱させる。

人類共通の敵として現れたPAKKOMANNは、カシュガルへ初めて落下した、人類に似た生命体だ。彼らは全ての物質を食らいつくす。ドイツ帝国は、ついに、大英帝国と休戦し、共同戦線を張ることになったが、既に時は遅かった。

人民を犠牲にする、核による、焦土作戦は、ドイツ本国に近づいている。かの帝国は、遠からず崩壊するだろう、米帝はどうだ?彼らは既に大陸を焦土として東部の要塞に籠っている。

我が大日本帝国は、焦土作戦をとれなかった。結果として、版図たる、大東亜共栄圏は浸食されつつある。

朝鮮半島が落ちたのが一昨日のことだ。

大半の男子は、既に特攻攻撃により死に絶え、帝国上層部は、女子学徒の出陣を決定した。

父の遺言を思い出そう。僕にはやらなければならない事がある。そう、早く子供を作り、そして、死ぬ。

父はそう言った。一番に死ねと。

だが・・・・涙があふれ出す。

まだ、私は出征可能年齢に達していない。

精子は精子バンクに預けた。

後は、立派に死ぬだけなのに。

絵里、無事でいてくれ。

麻里・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆり

ユリは静かに寝ている。

僕は彼女を起こさないようにベッドを立った。

屋敷が本当に静かだ。

冷蔵庫を開けてユリ特性のネクタルを一口口に含む。芳醇なる味が口の中いっぱいに広がった。

タッパーを開けてゴキブリを一匹つまみ、口に入れる。

吐き出したくなる思いを、胃の蠕動を必死で抑えて飲み込む。

「はぁ・・・・」

本当に静かな夜だ。

風呂にでも入って寝るか・・・・・

屋敷には温泉が引かれている、白濁したその湯を思い浮かべる。

気が進まない・・・・・

僕は、エントランスを抜け、玄関をあけ、夜の世界へと足を踏み出すことにした。

昔、エロ本を探しに行った時以来かな・・・・・

この田舎にはコンビニも存在しない

あるのは小さな雑貨屋だけである

「はははははっ」一応領都なのにな・・・・・・

本土に転封されたとはいえ、この磯上町は、本当に・・・・・・

古郷は既に存在しない、父に連れて行ってもらった新京は、PAKKOMANNに蹂躙された。

収斂進化、生物の進化には、明らかに意思が介在する。

同じ炭素系生物とはいえ、その、化学的構成は、全く違う生物が、この地球という惑星を丸ごと食いつぶそうとしている。

彼らとのコミュニケーションは不可能とされていて、彼らに真面な知性があるかどうかも分からないのに、その姿は人のソレだ

PAKKOMANNに恋したというような馬鹿話も存在するが・・・

食われたい奴は早く死ねよ・・・・、俺はまだ・・・・・・・・・死にたくない・・・・・・・・・・・ゆり・・・

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