絶望の日?
全力疾走で家を出て坂を下って5分。普段は歩けば間に合うはずの待ち合わせ場所にこんな全力で向かうのはもうこりごりだ。
いつもの待ち合わせ場所の公園で待ってくれているのは幼馴染のソアラ。彼女もキュベルネーシスに通っているトネールという国のお姫様だ。私とは小さい頃から家族ぐるみの付き合いでずっと一緒に遊んできた。まあ幼馴染的なやつは他にもいるんだけど、ソアラはその中でも特別だ。私の大好きな親友。ザ・お姫様と言わんばかりの眩しい見た目。目はぱっちりしてるし、髪はふわふわしてるし、いい匂いするし、とにかく女の子らしい女の子。守ってあげたくなっちゃうような愛らしさもあって男子からの人気は絶大だ。まあ、ソアラに下心で近付くやつは私が追い払ってるんだけど。そんな可愛いソアラは公園のベンチにちょこんと座って私が来ないかきょろきょろしてる。可愛い。
「ソアラ!遅れてごめんっ!!」
私は一直線にソアラの元へ走り即座に謝った。ソアラは慌てた様子で
「だっ、大丈夫だよ!?そんな遅れてるわけでもないし....ってすごい息切れしてるけど大丈夫...?ちょっと休む....??」
そう言いながらソアラは立ち上がって私をベンチに座らせようとするけど私はいたって大丈夫だ。ちょっと全力で走りすぎただけで。
「だ、大丈夫。ちょっと走りすぎただけだから、というかそうは言っても、時間ギリギリだから行かないと。」
「ほ、ほんとに大丈夫...?具合とか悪くなったらちゃんと言うんだよ...???」
ソアラは心配してくれながらも学校に向かって一緒に歩いてくれる。私は息を整えながら歩くので精一杯だけど。ソアラは優等生だから私のせいで遅刻とか絶対良くない。私も怒られるから本当に良くない。そう思いながら若干ソアラに寄りかかって歩いていると後ろから
「お前、なにソアラによっかかって歩いてんだ。自分で歩け、自分で。」
ああ、この最高にムカつく声の張本人は聞き間違うはずも無い。幼馴染というのも顔を顰めたくなるほど嫌いな腐れ縁のカイトだ。こいつもクラルという国の一応王子様であり、家族ぐるみの付き合いで小さい頃から一緒に遊んでいた。良い思い出は無い。よく物を隠されるわ、泣かされるわ、転ばされるわで散々な思い出しかない。思い出すだけでも腹が立つ。
「ソアラ、大丈夫か?こんなやつそこら辺に捨てておいたっていいんだぞ?」
私がカイトとの嫌な思い出を振り返っている間にカイトは私とソアラを引き剥がし、ソアラの心配をしている。
「はぁ?ちょっとなんで引き剥がすのよ。私は今満身創痍なんですけど??」
「満身創痍って、どうせ家出たのがギリギリでここまで走ってきたはいいものの、久々に全力疾走したせいで体力が....とかだろ。」
「っ、だ、だからなんだっていうのよ。ソアラは私の心配をしてくれてその厚意にありがたく寄り添わせてもらってるだけなんだけど。」
「図星か。というか厚意にありがたく寄り添うってなんだよ。お前がソアラの厚意を利用したの間違いだろ。」
「あー言えばこう言うねほんと!私の全部を否定したいのかな!?」
「ま、まあまあ2人とも落ち着いて....私は別に気にしてないから.....」
私とカイトが顔を合わせるといつもこれ。お互いの揚げ足を取り合ったりして一生言い争っている。こいつのこういうところが本当に気に食わないのだ。さらにもっとムカつくところを言うなれば私にはよく突っかかってくるくせして私以外の女の子には王子様モードとやらで爽やかクールに接してキャーキャー言われていること。意味が分からない。私も一応女の子なんですけど?
「本当?ソアラがミユのことを少しでも引き剥がしたいと思ったら俺、全然力になるからな。」
また嫌なことを思い出している間にありもしないことを吹き込むカイトに負けまいとつかさず反撃をする。
「何言ってんの、そんなことあるわけないでしょ。私とソアラの仲を邪魔する奴は引っ込んでてよね。」
「あーはいはいそうですねー。じゃあ俺先に行くから。後でねソアラ。」
「う、うん。カイトくんまた後で....」
「なんっでソアラには言うのに私には言わないわけ!?同じクラスですけど!?私をなんだとお思いで!?」
「うるさい動物。」
「もはや人間じゃないじゃないの!?」
カイトはあっかんべーみたいなポーズをとった後、あっという間に私たちを追い越して姿が見えなくなった。これであいつが成績優秀なのも腹立つのよねほんと。なんでなのかしら。私にもちょっとくらい分けて欲しいんだけど。
「ミ、ミユ、早く行かないとせっかく間に合うように来たのに遅刻しちゃうよ...?」
怒りのあまり思わず立ち止まってしまっていた私はソアラの声でハッとする。ほんとうにこのままだと間に合わない。まずい。
「ごめん、ソアラ!早く行こう!もう、これで遅れたら全部カイトのせいにしてやるんだから!」
「さすがにカイトくんのせいにするのは難しいんじゃないかな....」
なんて話しながらもうすぐテストが始まるなんてことをすっかり忘れて時間ギリギリに校門をくぐり抜けていった。
教室に滑り込みで間に合った私とソアラはお互い席に着いた。私はテストだということを思い出し絶望すると共に完全にやる気を失っていた。全力疾走とカイトとの言い争いで今日1日の体力全て使い切ったような気分だ。私の体力を奪っていった原因の一つであるカイトは何食わぬ顔をして席に座り教科書を眺めている。心の底から腹が立った。もう家に帰りたい。ゴロゴロしたい。寝たい。そんなことを思っているうちに私の元にはすでにテスト用紙が配られており、先生の「始め。」という声が聞こえたのだった。
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