5「ヲタクってこういうとこある」

「いや、しないけど、」

 危なかった。今ギリギリのところで耐えた気がする。

 ネットの検索ページに「二重 整形」と打ち込み終わる前に正気を取り戻した。私はそのページを消去──しようとして止まる。

 別にしないけれど、目だったらやりやすいのかな。と、やっぱり諦めきれなかったのか仰向けに寝転びながら、そんな事を思う。別にやるつもりは無いから、全くもって調べる意味などないのだけれど。まぁ、単純に授業に集中したいからというのが理由である。あとは純粋な好奇心。

 今日はこれのせいで集中できなかったのだから、じっくり調べてしまおうと思った。きっと調べたら満足して、授業に集中できるはず。

 心の中で、そう言い訳をした。


 そして整形は絶対にしないぞ、なんて気持ちを強く持ちながら相場を調べていく。

 トップページに出てきたサイトに書かれた二重の手術は、安いもので一万円以下からできるようだった。勿論、施術の仕方によるみたいだが。

「安い……」

 思わず手の力が緩んで、顔の上にスマホを落としそうになる。そして、目が飛び出るかと思うくらい目を見開く。だって、それにしたって、こんなお小遣い程度の値段でできるなんて思ってもいなかったから。──とはいえ、安すぎるのも怖いけれど。

 さらに調べていると、高いもので三十万円程する施術もあるようだった。


 私は、もなかちゃんのクローンのようになった自分を想像して、また恐怖する。何度想像しても慣れないものだ。(普通はそんな想像をしないのだが)

「もなかちゃんは、二重のタレ目で大きいよね……」

 でも、私がするなら……あ、いや、しない。しないけれど。まず二重にしてタレ目にして、それから大きくしないといけない。絶対しないけれど。でも値段だけは気になって調べてみた。


 切開の方が半永久的に二重をキープできるからいいのかもしれないが、値段がとんでもなく高い。さっき見た三十万円のコースもそうだ。

 だから比較的簡易で低コストな埋没法の二重施術を確認する。

 それが二万九千八百円、タレ目は二十万円、大きくするのに三十万円。目だけで、合計五十二万九千八百円もする。恐ろしいのが、もしかしたら片目でこれの可能性もあるということだ。

 こうやって全部しようとすると、とても高い。それに、後の痛みや腫れのことが気がかりだ。とはいっても、二重くらいだったら学生の私でもできそうだな……なんて思った。

「あ、学割あるじゃん」

 って何を考えているんだ。整形はしない。そう決めたじゃないか。


 でも、いつもだって二重にするためにテープを貼っているしと思い直す。何だかそれも二重整形もさして変わらないような気がしてきたのだ。

 どうせなら、毎年夏にあるもなかちゃんのライブに合わせてしたい。でもまだ日程すら出ていないし、悩みどころである。それにライブに合わせるのであれば、グッズを買うことも考えながらバイト代と相談しなくてはならない。


 ここまで考えて、ハッとした。

 自分の意思の弱さに、ため息をつく。

「はぁ……これだからヲタクは……」


 そう言いながらも、まだ画面を閉じようとはしなかった。

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