4「お布団会議」
気がつくと、家にいた。
未だ部屋着にも着替えず、ベッドに座り込んでぼーっとしていた私は「いつ帰ってきたっけ……」と呟いた。
彼女と別れて、イヤホンで曲を聴きながら歩き出したのは覚えてるけれど。
──長い息を吐く。
スマホを見ると、時計はもう七時半を示していた。
「もう、そんな時間だったんだ」
今日はどうも調子が悪い。しなければいけない事をさっさと済まし、早く寝てしまいたい。寝たらきっと、この頭もスッキリしてくれるだろうから。
ゆっくりお風呂で暖まった後は早々と部屋着に着替え、今日着ていた服は洗濯機に投げ入れる。それからご飯も食べず自室に戻り、スマホをベッドの上に放り投げ沈む様に寝転んだ。それから今日のことを考えていた。
なんでだろう、なんでこんなにも心を掻き乱されているのだろう、と。
あの言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。
『もなかちゃんに声似てるよね』
『顔まで変えちゃったら──』
何気ない会話だったのに、これだけは忘れられなかった。
顔を変えるなんて、考えたこともなかった。整形はちょっとだけ抵抗があったから。
確かに私は彼女に近づくために、自信をつけるために、もなかちゃんの様になりたいと思っている。
だから同じ様な格好をして、自分も昔より可愛くなれたような気になって安心していた。けれど、いくら髪を染めたって、同じ服を着たってただの真似でしかないと思ってしまう瞬間がある。そんなどこか冷めた感情は、クローゼットの地味な服と一緒に奥底へ仕舞い込んだつもりだったのに。
そんな中、彼女の一言で「声」という唯一無二の共通点があることに気がついた。気がついてしまった。真似ではない「お揃い」があることに、心の底ではとても喜んでいたのだろう。だからこんなに心を取り乱している。
どうしよう。
眠りたいのに眠れない。
でも、そう、怖いけど……二重の手術はしてみたいな、と思ったことはある。重くて持ち上がりにくい一重の瞼に、毎朝イライラするのが嫌でしょうがなかったから。
ベッドの上に放り投げていたスマホを取り上げた。
ロックを解除し、ボイスメモを開く。録音した音声は、何度聞いてももなかに似ていた。
「うーん、似てる」
整形をしてまで彼女とのお揃いを増やし、クローンの様に全く同じ容姿になった自分の姿を想像して、やっぱり怖くなった。流石にそこまでするのは狂気の沙汰だ。
でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、見てみたいと思った。
この瞬間、怖いもの見たさ、的な感情が私の中に確かにあった。
「……やめよう、考えるの」
だけどもし、整形をするのなら──
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