第85話4人の関係

 少し酒が入っているせいか、名物の焼き鳥片手にアリスは少し饒舌だ。

 酒入ってなくてもこんなだけど。


 しかしまさか、ゲーム通り……かどうかはわからないが、アリスが本当に死んでしまうはずだったとはな。


「そういうわけで私が旗頭になるわけにはいけなかったのですが……、やっぱり知ってたんですね」


 アリスはジト目で俺を見た後に、破顔してニヒヒと照れたように顔を赤くして笑った。

 クララとセラも同じように、やっぱりという顔をして酒を傾ける。


 今日は最初の日と違って2人とも酒の解禁日のようだ。


 なお、この酒は透明でほのかにフルーツの香りのする芳醇な酒で、この店のマスターの自作だ。


 常連客に『マスターさけ』と注文されたのがきっかけで、客に寄り添うマスターがマスターしゅを作り出したとか……冗談だよな?


 とにかく、そんなマスター酒と焼き鳥を味わえば、もうこの店の虜。

 他の店では飲めなくなりそうである。


「やっぱりってなんだよ……。まあ、後で説明してやるよ」

 そう言って酒を傾けて、とりあえず話を誤魔化す。


 まるで最初から最後まで俺が全部分かってて、アリスたちを助けるために一緒にいたような物言いだな。


 ……間違ってねぇけどよ。


「それに! 師匠が私を殺すなら優しくベッドで抱き殺してくださいね❤️」


「よし、わかった。ベッドにいまから行くぞ」

 カンっと飲み干した酒のコップをテーブルに置いて、俺はわざとらしく立ち上がりアリスの手を取る。


「ふぇえ!? えーっっ!? どうしちゃったんですか!? 今までならさっさと寝ろとか流してたじゃないですか!?」


 当然のごとくアリスは真っ赤な顔で動揺を示す。

 そりゃまあ……。

 それに対して俺は憮然ぶぜんとした顔で告げる。


「……嫁なんだから当然だろ」

「ふえ?」

「えっ!?」

「……え?」


 3人が同時に驚きの声をあげて目を丸くする。

「……なんだよ、そういうつもりではなかったってか?」

 少しぶっきらぼうに言い返してしまう。


 3人が俺に求めていた関係は前に言っていた疑似恋愛の延長なのだとしたら、どうにも肩透かしだ。


 いまとなっては俺の感情がそういうドライな関係で済ますことを拒否している。

 俺は乱暴に自分の頭を掻く。


「いえ、そうではなく師匠、結婚してくれる気あったんですか?」

 アリスがそう言うと2人も同意を示して、フンフンと何度も頷く。


「そりゃたしかにハーレムにはなるから、一般的な夫婦ってわけにはいかんだろうけどな……」


 基本的にはマークレス帝国は一夫一婦制だ。

 諸外国の中には一夫多妻や正しい意味でのハーレムなどもあるが、この国では少なくとも2人は書面上は妻というわけにはいかない。


 それでも俺はアリス、クララ、セラの3人ともをいまさら他の男に渡す気にはなれない。


「ハーレム! 師匠、それはどこのどいつですか!」

「まさか、私たちと離れているこの1ヶ月で!?」

「……それなら関係が薄い。サラ博士みたいに愛し合っていた過去の相手とこの街で偶然再会して、実はずっと想い合っていたとかなら強敵」

「「「ぐぬぬ……」」」

 3人が勝手に暴走して勝手に悔しがる。


「おまえら3人のことに決まってんだろ!?」

 半ば疲れ切った気持ちでそう告げる。

 思わず大きな声が出て店内を見回すが、今宵は数人の常連とマスターのみ。


 常連もマスター同様、我関せずと落ち着いた雰囲気で、カランとコップに入った氷を鳴らしながら酒を一口グイッと。

 聞いていないフリをしてくれている。


「私たち、ですか?」

 そう告げられた3人は顔を見合わす。

 そしてクララが首を傾げながらそれに答える。


「たとえば、たとえばですよ? 先生がもう1人いて私と夫婦になるとしたら……」


 俺はクララが言い切る前に断言する。

「そのもう1人が俺自身だろうとおまえたちに手を出そうとするなら迷わず殺す」


「……あれ? クロ師匠って私たちと同じで意外とヤンデレ?」


 アリスが身を乗り出してさらに俺に問いかける。


「じゃあ、じゃあ、あれです。クララとセラが関係を持っていたら?」

「違いますからね!?」

「……寝取り?」

 素早くクララが否定。

 セラも首を傾げる。


 女同士の場合はどうなんだろうな。

 人によるのだろうが、この場合は……。


「……ふむ、その場合は2人とも俺の女だから許容できるか」


 俺の答えにクララは赤い顔で下を向きモジモジする。

 その返事に対してセラは酒が入ったカップを掲げ、深く感銘を受けたと天井を見上げる。


「……クララを寝取ったと思ったら、私ごとクロ師匠に寝取られて、クロ師匠の女にされているから問題はない、と。新しい……」


 結局、どうなんだよ。


 あと、セラ。

 顔色変わらないけど酔ってるよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る