第2章お師匠様は旦那様❤️

第84話プロローグ、ジョウヨウの街

 ジョウヨウの街はマークレスト帝国の中央部に位置する。


 雑多な街で区画整理された旧都ラクトとも他の大都市とも違う。


 大都市でありながら魔物の襲撃も多く、それを目当てに多くの傭兵やハンター、様々な交易の拠点にもなっていて、そこにいる多種多様な人々はマークレスト帝国でも随一だ。

 中には街専門のハンターまで存在している。


 俺も傭兵時代にこの街に出入りしていたようだが、本来記憶のない俺がここにいるのはどんな繋がりがあるかわからないので警戒が必要だ。


 俺のことだから密かに誰かの恨みを買っていることも十分考えられる。


 しかし、ここには政府軍もいれば反乱軍も他国の者さえいて、さらにそこに独自の研究組織まで入り組んで、さながら闇鍋のような街だ。


 俺1人にかかる因縁などこの街は元より全てを内包ないほうしている。


 今更、俺のようなねずみが潜り込んだところで万を超えるねずみが1匹増えただけという有様だ。


 この街はかつてカストロ公爵家と呼ばれる一族が統治してきた。

 この地の統制官は表向きの爵位制度が廃止された現在もその一族が勤め、ジョウヨウの街を事実上支配している。


 どの時代でも独自の路線を貫いてきたことでも有名だ。

 そのカストロ一族は帝室への忠誠心は随一であるとも言われている。


 西に反乱軍拠点シーア。

 北東部に政府軍拠点というかマークレスト帝国帝都ホクケイ。

 北に旧都ラクトやチョウア、それと同等の巨大都市キョヨウ。

 東南部にコカやケンギョウがある。


 マークレスト中央部でありながら、様々な人々が入り込むのは当然理由がある。

 南部を流れる広大な大河の流れは南郡の海と直接繋がり、ジョウヨウの南側も他国との間に他に大きな街もない。


 北東のホクケイや大都市郡に繋がるだけではなく、政府側ではもっともシーアに近い大都市でもある。


 それでいて内乱の最前線になっていないのはそのカストロ一族が関係している。

 政府の中でも一目置かれている彼らは、この内乱に直接関与はしていない。


 政府軍に属しながら、一種の中立──緩衝地帯の役割をになっている


 人によっては日和見ひよりみだとか、優柔不断だとか陰口を叩くが、その実力が決してあなどれないものであることは数年前に起きた自動型魔導機暴走事件の件でも明らかだ。


 この事件で対応に右往左往した政府軍を横目に、独自の有志組織と中央軍をまとめ上げ、騒動を解決に導いたのがカストロ一族なのだ。


 そんな一族がジョウヨウの街を統治していることが、さらにこの街の混沌具合を表しているとも言えるわけだが。


 そして、元々高かったジョウヨウの価値がここにきてさらに高まっている。

 その要因は、北部反乱から始まる旧都ラクトの戦いの影響が大きい。


 今までは北部から旧都ラクトに流れていた交易ルートが断絶。

 北部と旧都ラクトラインの直通を迂回してジョウヨウを経由するルートを通るようになった。


 そんなわけで闇鍋はさらに拡大し大鍋にまで発展している。

 その中に反乱軍の旗頭である皇女殿下が1匹紛れ込んでも気づかれないほどに。


 それでもそんなジョウヨウの街も政府側である。


 よく反乱軍と政府軍の勢力差は2分の1だとか3分の1だとか言われるが、経済と人口密度で比べればそれはもはやギャグだ。


 超ど田舎と大都会との差を比べているようなものだ。


 ただ元精鋭第3師団が母体の反乱軍は軍事力としては、その程度には政府軍に比肩しうるということだ。


 そんなわけで本来であれば時間は政府軍の味方だ。

 だが、それには現在のマークレスト帝国が宰相クーゼンの傀儡政権であることが影響する。

 その屋台骨は決して強固ではない。


 マークレスト帝国は女王の存在を認めているので、継承順位における正統性でいけばジークフリード第1皇子──つまりアリスを旗頭とする反乱軍にわずかながら分がある。


 それでも、今まではそのアリスが旗頭でありながら表立って出てきていなかった。


 昨日お世話になった酒場で晩飯を4人で囲みながら、俺はいま初めて旗頭にならなかったその理由をアリスから聞かされている。


 この酒場は無口でクールなバーテンダーの格好のマスターが、頭にねじりはちまきを巻いた静かに客を見守っている。


 この店の1番のおすすめは香り立つ焼き鳥であり、肉体労働を終えた戦士たちが日々の疲れを癒すために焼き鳥串にかぶりつき、冷たいビールでその身体を潤すのだ。

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