第79話指輪用意して待ってろ、です
「……先生、また会えますか」
まだ会おうとするか、と苦笑いしてしまう。
「傭兵と皇女、それにお貴族様と……美人の平民。たまに物語でもあるひとときの出逢いと別れってやつだ」
そしてそれぞれの道を生き2度と交わらない。
「先生は意外とその手の物語の本が好きですよね」
意外とってなんだよ、本はイイものだ。
「……私だけ立場が問題なくて迷ったよね?」
いいんだよ、全部が全部ただの口実なんだから。
「傭兵と女たちの1夜の交わりがまだですよ、師匠」
アリスはまだそれを言うか。
傭兵が皇女に手を出すとか1番あかんやつだろうが。
「そうだったな……って言うわけねぇだろ」
……正直、何度か危なかったけど。
「……どこ行くんですか?」
「さあな、おまえらが殺したくなるほどイイ女になったら、また会いに来てやるよ」
それは余計な一言だったかもしれない。
最後だと思うと、なんて言っていいかわからなくなるな。
そろそろ行くか。
「……指輪用意して持ってろ、です」
それでもアリスは強い意思がこもった声でそう返してきた。
「言ってろ。
じゃあな……楽しかったぜ。死ぬなよ?」
主人公なんだから。
最後の言葉は口には出さなかった。
主人公とかゲームだとか、ライバルだとか、こだわっていたのは俺だけだから。
「師匠に抱かれるまで死にません」
「じゃあ、永遠に生きてるな」
「ねえ、師匠……」
「あん?」
「愛してます」
それには返事を返さずに、俺は口の端を
「……ははは、あはははははははは!!」
お騒がせな黒い魔導機が空の向こうに飛び立った後、アリスたち3人は笑い出す。
置いて行かれたことが余程ショックだったのだろう。
それをコーラルはスペランツァで聞いていた。
それを聞きながらコーラルは砲台操作室にいたハーミットに指示を出す。
「……もういいわ。ハーミット帰って来なさい」
「……はい」
先程、スペランツァ主砲発射の指示を出したのはコーラルだ。
ハーミットがそこにいたのは偶然だ。
事が起こる少し前に定期点検として、砲台操作室の通信機の様子をチェックしに行ってもらっていただけだ。
素人のハーミットが主砲を的確に当てられるとはまったく思っていなかった。
倒れたマークレストを回収するのに威嚇になれば良いと思った程度だ。
その間に魔導機隊が出撃できるように準備を進めていたのだ。
コーラルは黒い魔導機が去った空をシートに深く沈みこみながら眺めた。
アリスたち3人は生きていた。
しかも主砲が放たれたとき、黒い魔導機はご丁寧に無防備なマークレストを全力で守って見せた。
「なんなのよ、もう……」
本人なりの何かがあったのだろうが、こちらには理由はわからないままだった。
ただ単にアリスたちに対して命懸けの修行をつけさせただけなのか。
報告をあげさせたが人的被害はなし。
ボコボコにされたグレイルも無事が確認されている。
スペランツァの駆動部含め、物的被害はそれなりに大きいが。
あの元傭兵とアリスたちと男女の関係になっていなかったのは良かったといえるかもしれないが、アリス自身が最後の最後に皆の前で公開告白してしまった。
旧都ラクトの戦いで皇女であることをバラしてしまったアリスが、である。
「これ、ロドリット将軍たちになんて言って報告したらいいのよ……」
副官のルーマリアが痛ましげな表情でコーラルを見ている。
そんなコーラルの悩みをよそに3人は笑っている。
やがて笑い声が止み……。
そして。
3人は同時に叫んだ。
「勝ったぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「なんでよぉお!?」
アリスたちの突然の勝利宣言にコーラルは思わずツッコミを入れてしまったが、それはこの場の全員の気持ちを代弁していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます