第78話もう会うことはない
その叫び声と同時にスペランツァの主砲が放たれた。
スペランツァの主砲は反乱軍拠点シーアで同じ空中戦艦ブルーコスモスを貫いたほどの高エネルギービーム砲だ。
それでも。
正直助かった。
ビーム砲ではなく、実弾砲弾であれば弾けないので避けるしかなかった。
それは、できない。
「バーストサーベル」
リミッターを外した状態でサーベルのエネルギーを解放。
魔導機並の大きさのエネルギーをまとうサーベルでそのビーム砲を迎え撃つ。
魔導機を丸々飲み込むビームは轟音過ぎて現実味がない。
それに押し流されてしまえば、命は容易く消えゆく。
刹那のときを何倍にも凝縮した時間の中。
波に押し流されるような感覚を受けながら、ビーム砲のエネルギーをサーベルで少しずつ斜め上方に逸らし、弾き切る。
わずかでもタイミングがズレれば、倒れたマークレストと一緒に弾き切れずにエネルギーの
「なんでなんでなんで!! どうしてアリスさんたちを! あんなに……あんなに!!」
その声はスペランツァ通信員のハーミットの声だった。
通信席から遠隔操作ができたのか、それとも砲台操作室のそばにいたのか。
まぐれではあろうが、セラにも並ぶほどの射撃の正確さだな。
あまり一緒にいるのは見かけなかったが、 歳が近いせいか3人とも仲が良かったのだろう。
そもそも俺が来る以前のことは知らないし、俺が一緒にいた短い時間ではわからないことも多いから当然だな。
気が動転しているせいで、あのままだと倒れたマークレストごと巻き込みかけたことには気づいていないようだが。
だが、これ以上は撃たせるわけにはいかない。
砲台にいたらそのまま爆発に巻き込まれるが、悪く思うなよ。
銃砲を構え砲台を……。
「……ええっと、エラー時の配分条件の指定。クリア! それら条件設定、目的の指定項目、認証は済んだから……」
「……繋がった!」
「アリス、復旧しましたわ!」
俺はちっ、と内心で舌打ちする。
こうなる前に立ち去りたかったが、ハーミットからの横やりがあったことと、ここまで復旧が早いのは想定外だったことが重なった。
倒れたままのマークレスト。
そこからクララとセラに促されたアリスがすうっと大きく息を吸い込む音。
そして。
「ちょっぉおおっと待ったァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「へっ、あれ……? アリス、さん?」
ハーミットの戸惑った声。
以前教えた裏認証でマークレストを復旧させやがったか。
視線を向けるがマークレストはまだ起動していない。
コックピット横の導力パイプと同時に魔導供給路も一緒にぶった斬ったんだが、自分たちの魔導力を通信回路に認証させて、通信だけを復旧したか。
スペランツァから砲撃が来る気配はなくなった。
今度こそ倒れているマークレストごと巻き込んでしまうことに気づいたのだろう。
マークレストが動き出す気配はないが、通信だけで3人娘が相変わらず元気いっぱい無事なのはすぐにわかって、内心ほっとする。
その感情に気付いて苦笑いが浮かんでしまう。
殺さなくて良かったとほっとするのだから我ながらタチが悪い。
そうなのだ。
あの瞬間に出会ったときと同様、コックピット横にある動力パイプを狙った。
そうはいっても弱点が露出してあるわけでもなく、そこを潰すにはその魔導機の構造を熟知したうえで、硬い装甲を突き抜け的確にそこを狙う必要がある。
自分でいうのもなんだが誰にでもできる芸当ではないし、激しく動く戦闘中にそれを行うのはコックピットそのものを狙うより遥かに難しい。
それでも刹那のときの中で、マークレストの攻撃がわずかにでも遅れていなければその余裕は生まれなかっただろう。
そんなわけで、終わってみれば俺にこいつらを殺す気が本当にあったかどうか。
我がことながら、はなはだ疑問に思えてくる。
あれほどこいつらを叩き潰したいと執着していたものが、今はもう何一つ自分の中に見つけられない。
なんのことはない。
俺はただ単純にこいつらと本気で戦いたかっただけなのだ。
いずれにせよ、いつまでもここにいるわけにはいかないし、そうする意味もなくなった。
砲撃がなくなったのをこれ幸いとさっさとこの場を去ろう。
その気配に気づいたのだろう。
アリスが俺に呼びかける。
「どうしても行くんですか?」
「まあな」
ここまでやって、今更なかったことにはできないのだ。
人がいないタイミングを狙ったが、死人が出ていないとも限らないのだ。
「最後にいいですかー?」
「なんだ」
「連れて行ってくれてもいいじゃないですかぁぁああああああああああああああ!」
「先生のばかぁぁああああああああ!」
「……………………クロ師匠の、ばか!」
大泣きして行かないでとか、殺すつもりなら最後に手を出してくれてもいいじゃない、とか。
3人が3人とも置いていかれる子供みたいに泣きじゃくる声。
わかっているのだ。
俺がもうこいつらに会う気がないことを。
これが
泣きながらアリスは問う。
「師匠、政府側ですか?」
「だったらどうする?」
「政府軍につき……」
「違うからヤメロ」
最後まで言わせない。
それはさすがに冗談でもシャレにならん。
「……ませんよ?」
ふふっとアリスが柔らかく笑う声。
だが俺にはわかる。
もしも俺が政府軍だったとしたら。
やる、こいつらはやらかす!
なぜかそんな気がする!
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