第77話それを貫いた姿はあまりに残酷で

 それでも銃砲とミサイルとレーザーの雨を半円を描くように避けながら、接近し飛び込む。

 アリスの反応速度がその不意打ちを防ぐ。


あらがって見せろよ、主人公!」

「誰が主人公ですか! 私たちは師匠の弟子でヒロインです!」


「俺はただのライバルキャラだ!」


 半ば不意打ちのように飛び込んだのだが、それもマークレストが反応して再度、サーベルで切り結ぶ。

 だから、おまえたちと戦う運命なんだよ。


 ……おっと、ゲームとかいう記憶に引きづられたか。


 記憶というのは厄介だ。

 記憶をなくせば、自分という足下すらも定かではない感覚におちいる。


 帰る場所もなく、帰るべき人もいない。

 空虚な心はどこへ行っていいかもわからない。


 そこにぶち込まれたゲームという記憶は、どうしても自分自身を保つのに必要なものだった。


 主人公に対するライバルとしての執着はそこで生まれた。

 主人公に勝ちたい。

 それは俺自身の傭兵としての本能とも結びつく。

 あいつらを殺して俺の強さを証明したい、と。


「主人公だとか、ライバルだとか! そんなのどうだっていいよ! そこに師匠がいなけりゃ意味ないよ!」


 右に左に激しくサーベルをまじえながらアリスは叫ぶ。


「それじゃあ、困るんだよ! 全てを掴み取り、全てをぶち破る。それこそが主人公だ! そういうおまえたちを俺はぶちのめしたい!」


「ぶちのめすのはベッドの上だけでお願いします!!」

「気が抜けるわ!」


 その言葉をフェイントにして鋭い一撃が来るが、それを後ろに下がり避ける。

 いつものようにその言葉に反応して、僅かでも動きが遅れていれば切り裂かれていた。


「やるな」

 言葉すらも利用するとか、実に俺好みだ。

 いい女になったな。


「……スペランツァに帰るために師匠と旅をしたあの日々は楽しかったです。ただの女の子になれたみたいで」

 アリスの声がどこか震えていた。


「……先生、今からでもやめれませんか?」

 懇願するクララの声も。


「クロ師匠……」

 セラの声も。


「……だったら掴み取れ、自らな。それこそが人だ」


 最初にこいつらを保護したときに考えていた。

 どうしたらこいつらをもっとも美味しく刈り取れるだろうかと。

 ずっと狙っていた。

 全てを備えた主人公と戦える日を。


 俺はなにかが壊れたのだろう。

 だから、こういうときでも笑みが浮かぶ。


 いや、ただこいつらがここまで強く、『育ってくれて』嬉しいのかもしれない。

 師匠として。


 それは相反する2つの感情のはずだが、俺の中ではなんら矛盾していない。


「やるしかないよ、2人とも。師匠を……クロを欲しいよね?」

「ええ、どうしても欲しいですわ」

「……うん、クロ欲しい」


 マークレストから旧都ラクトのときのような金色の光がゆっくりと立ち昇る。


 さあ、かかってこい主人公ども。

 その力でゲームすらも超えて未来を手にしろ。


 ライバルはライバルである。

 主人公とずっと一緒にはいられない。


 さあ、俺を超えてゆけ。

 その先にしかトゥルーエンドは存在しない。


 ……だが、その未来は与えない。


 何故なら、俺はお前たちを絶対に誰にも譲らないからだ。

 俺が全て喰らって見せる。

 その命さえも。


 マークレストは3人の能力を組み合わせてその真価を発揮する魔導機だ。


 アリスがその直感力で最善を選び取り不意打ちを防ぎ、クララがその技量でマークレストの動きを3人の思い通りに動かし、セラがその射撃能力で相手を撃ち落とす。


 その3人が全魔導力を一点に集中。

 タワー・オブ・ワールドウィズダムではない。


 発動条件は知らないが、あの非必殺技はエネルギーを全て奪うが実弾兵器は有効だ。

 あれによって魔導力を全て使ってしまえば、隙だらけのこいつらを確実に殺せる。

 アリスもそれをわかっている。


 身構えたマークレストの腕の先に魔導力の光が幾重にも重なり収縮されていく。

 3人娘の力が組み合わさったときに使える最強必殺技。


 俺もそれを真正面から迎え撃つ。

 その最強の一撃を超えてこそ俺の宿願に至る。


「ひっさぁぁぁああああああああああああああつ!!!!! バーストノヴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 わずかに。

 マークレストの黄金の光を放ったその一撃は、コックピットを避けていた。

 その刹那にも満たないわずかなズレ。


 それが全てをわけた。


 次の瞬間、ハーバルトのサーベルがマークレストをその背まで貫いた。

 そして、マークレストの一撃は虚空に突き出された。


 そういえば、殺さないと死ぬぜ、と。

 言い忘れてたな。


 それで何かが変わったわけではないけれど。


 背まで貫かれたマークレストは両眼の青い光が消え、がしゃりと力無く支えを失い地面に崩れ落ちた。


 終わりの感覚はなかった。

 もう断末魔の声も聞こえない。

 代わりに俺たち以外の他の誰かが絶叫した。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る