第76話ハーバルトVSマークレスト

 その言葉に合図にしてサーベルでマークレストに切り掛かる。


「いきなり!? 欲望のままに襲いかかるのはベッドの中だけにしてくださーい!」


 マークレストがサーベルで迎え撃ち、アリスがいつもの調子でそんなふうに言った。


 半ば不意打ちに近かったが、アリスの反応速度の高さゆえにしっかりと反応して受け止めている。


 相結んだ両者だったが、サーベルを滑らすようにずらしながらマークレストが俺の側面に回ってきたのを、脚部ブースターを全力放出して距離を置く。

 その技量の高さはクララの腕前によるものだろう。


「……ベッドの中に一緒に行くのは先生限定ですよ?」

 そこに今度はクララが寂しげにそう口にする。

 3人の中で1番真面目なクララが言うと妙な説得力を持ってしまう。


 ぐっつ、精神攻撃か。

 地味に効く。


 わかっているからだ。

 俺が3人を殺したあと、どれほどの後悔を抱えるかを。

 それでも、その後悔すらも抱えても俺が俺であることを曲げられないのだ。


「……ぶー、クロ師匠がクララが言ったことに精神ダメージを受けている。釈然しゃくぜんとしない」


 わずかに距離をおいただけでマークレストの銃砲が数瞬まで俺がいた場所を貫く。

 遠距離戦もそうだが、近接戦において正確無比な射撃はなにより恐ろしい。

 避ける時間が与えられないからだ。


 防ぐには最初からどこに射撃が来るか予測しておかなければ、こんなふうに避け切ることは不可能だ。


「……腕をあげたな」

「先生が自分で鍛えておいてなに言ってるんですの!」

「……まだベッドで鍛えてもらってない」

「そうだー! 我々は弟子として師匠にベッドで手取り足取り教えてもらう権利を主張する! 師匠は弟子をベッドで教え込む義務を果たせー」


「そんな師匠と弟子いないからな!?」


 こいつらは強くなった。

 ゲームのときよりも圧倒的に。


 ただでさえ、マークレストはゲームにおいても最強クラスの魔導機だ。

 それでもこの黒い魔導機ハーバルトもそれに劣る機体ではない。


 今更だがゲームには黒い魔導機ハーバルトは未登場であり、俺がマークレストと戦ったときは政府軍提供のデルタ型特殊機に乗っていた。


 もちろんそのときもパーソナルカラーは黒だったわけだが。

 スペックに大差はないのかもしれないが、この黒い魔導機の方がしっくり来ている。


 俺はミサイルを数発、上に向けて発射する。

 直接的に狙うわけではないので、アリスたちはその意図が分からず数瞬、動きを止める。


 そこを右に動きながら銃砲を放つが、それはセラが銃砲で合わせて弾き返す。

 とんでもない芸当を見せてきやがった。


 それでも俺は動きを止めることなく、急加速してサーベルで切り掛かる。


「おまえらも厄介なヤツに目をつけられたもんだなぁ!」

「厄介な人を好きになったんです!」


 マークレストがそれを受け止めたが、すぐに受け止めた反動を利用して後ろに下がる。

 その下がったはずの場所にミサイルが着弾。


 そこまでの動きを予測してミサイルを着弾地点に放ったのだが、マークレストに大したダメージを与えられていない。

 硬いな、おい。


 薄い金の魔導力の幕がマークレストを覆っているから、それがダメージを軽減するのだろう。


 お返しとばかりにマークレストは高出力レーザーを雨のように降り注ぐ。

 ミサイルの爆煙が残ったままの中で、俺はリミッターを解除して前後左右に移動し、それをかいくぐるように避ける。


「なんであれを避けられるんですの!?」

 クララが驚きの声をあげる。

 マークレストの機動を担当しているクララだからこそ、俺の動きの異常性がわかるのだろう。


 高速で降り注ぐレーザーはリミッターを解除しなければ避けれるものではない。


 もっとも、まずリミッターを解除したハーバルトの機動にかかるGに、普通のやつが耐えられるかは別だがな。


 そのスピードは向こうから見れば、分身して避けているとすら見えるかもしれない。


「俺はな。

 最初からおまえらの敵だったんだよ」


「知ってるよ! 師匠は最初のとき以外は嘘をついていないもんね」


 銃砲とサーベルを駆使して、またマークレストに接近するがさせまいとセラが銃砲で威嚇する。


 ときどき急所を狙うようにレーザーとミサイルが俺に降り注ぐ。

 なかなか近づけさせてくれない。


「未来で3人子供がいると言ったのも嘘だぞ」


「それは本当にしてもらうからいいもん!」

「待って! それは私たち3人で1人ずつなのか、3人で3人ずつなのかでだいぶ変わりますわよ!?」

「……野球チーム決定。チーム名は師弟子作ししょうとこづくリーズで」


「ネーミングセンスがひでぇな、おい」


 それは俺を殺して、生き残れた場合の条件だ。

 最初はなっから不可能なんだよ。

 残念だがお前たちとの未来はない。


 どうせ俺の中は空っぽだからな。

 くだらないゲームの記憶のほかに過去のことなんざ、これっぽっちも覚えていないんだ。


 俺が知っているのは、研究所のデータに残った俺の記録だけ。

 随分調べてあげられたのか、俺がしゃべったのか、そんなのもわからないけれど。


 まあ、なんだ。

 ゲームの知識を得るっていうのに代償がそれっぽっちなんだからマシだろ?

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