第73話旧都ラクトの戦いの終結
マークレストは静かにその制御をアリスに捧げた。
いまや黄金の魔導力の光は無駄に放たれることなく、マークレスト自身を包むようにその周りでゆらめいている。
それは戦場に舞い降りた神のような存在感を示す。
ここから敵に囲まれた中で、無事に囲みから突破しなければならない。
それも今も逃げずに踏みとどまっているスペランツァ含む味方ごと。
普通ならそんなのは不可能だ。
だが、マークレストとパイロットが共鳴したとき。
そのときだけ発動する必殺技が存在した。
そして、これはゲームの中では使われていない。
存在こそ示されていたが使わなかったのか、そもそも使えなかったのか。
遠い伝説の中の始祖の時代。
世界の人の認識を変える恐ろしい装置があったという。
それは人々からかつて叡智の塔と呼ばれ、邪神を生み出すエネルギーを操ったという。
歴史学者がこぞって研究してもきっと解明されることのない遠い歴史。
そのエネルギーとは長き時代を経て、魔導力と呼ばれた。
……全ては
その故事に
その発動のために俺は魔導機ハーバルトからマークレストにその全エネルギーを注ぎ込む。
俺が魔導力をアリスに注ぎ込んだように。
魔導機の魔導エネルギー変換装置。
オカルトマシーンマークレストとそれを基にした魔導機ハーバルトは本来、あり得ないリンクを果たす。
それはサラ博士により魔導機ハーバルトにつけられた魔導共感システムの応用。
それがいま一つにシンクロする。
その必殺技のことを魔導共感システムを通じて、テレパシーのようにアリスから伝わってくる。
だが、それがいまなぜ使えるようになったのか。
その発動条件もわからぬまま。
もしかするとアリスにはその発動条件がわかっているのかもしれない。
俺の魔導力と魔導機ハーバルトのエネルギーがマークレストに注がれ、それを使うエネルギーとなり、ついに発動する。
究極の技。
通信を繋ぐとアリスの顔が映し出される。
そのアリスに向けてニヤリと笑ってやる。
「気合入れろや、アリス!!!」
「はい! 師匠!」
モニター上のアリスの目が金色に光り、金の髪が魔導力の余波で輝きたなびく。
その瞬間。
全ての音が消失する。
代わりに深く腹のそこから響くような重低音が戦場の全ての人に届く。
ドンッと空気が鳴動した。
『ひっさぁぁぁあああああああああああああああつ! タワー・オブ・ワールドウィズダム!!」
その叫びと共に戦場の見渡す限りが光に包まれる。
実はこれが本当にサラ博士が言っていた合体技なのかは知らない。
いや、おそらく違うのだろう。
そもそもセラ博士でさえ、魔導認証のうえでのマークレストとの魔導力リンクを想定していたかどうか。
ハーバルトから注がれるのはエネルギーと俺の魔導力ではあるが、必殺技の起動元はあくまでマークレストとアリスだ。
放たれた光はまるでアリスの心が導いたかのような温かい光だった。
それに包まれながら、俺はその光の中心地に向けて呟く。
「……やれば出来るじゃねぇか、アリス」
その光は不思議な光であった。
直接、誰かを害す光ではない。
だが、魔導力をエネルギーとする武器や移動が一切できなくなった。
まるで魔導力の供給が一時的に絶たれて、エネルギー不足に陥ったかのように。
その戦場全域に通じるはずのない通信が各自の魔導機に限らず、あらゆる通信機にある人の言葉が届く。
それは。
「ジークフリード・アリスレア・マークレスト第1皇子の名において命ずる。旧都ラクトにおけるこれ以上の戦闘行為を禁止する。各自、戦闘を行うことなく帰るべき場所に帰れ。繰り返す。ジークフリード・アリスレア・マークレスト第1皇子の名において……」
それは政府軍にとって従う必要のない命令であろう。
ただこの戦場にいる者誰もが、その声の主が世間に知られている性別と異なるにも関わらず、その言葉を発する者が誰であるかを頭ではなく心で理解した。
帝国の第1皇子ジークフリードその人であることを。
やがて政府軍から大きく緩やかに撤退行動を開始した。
それはきっと他ならぬ将軍リュカオンの指示であろう。
少し遅れて反乱軍も移動を始める。
争うことなく、互いの帰るべき場所へと。
こうして、旧都ラクトの戦いは静かに、その幕を下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます