第69話最強という野望の果てに
「皇女殿下。わたしめは赦せないのです。あのマークレスト帝国が諸外国から
ここにはいない宰相クーゼンは苦悶するアリスに朗々と語る。
人はどこかで誰かに認められたい。
それゆえに己の野望を語る言葉が止まらない。
「……知った、ことか、あぐぐっ!」
アリスの様子に構わず、クーゼンは楽しそうに語り続ける。
「マークレスト帝国は最強なのです。
祖アレス・マークレストが
15分の1でも十分な超大国なんだが、クーゼンの野心はそこでは収まらなかった。
しっかし、興奮してんなぁ!
こっちはまるで余裕がないというのに。
角度を幾度も変えて踊り狂うような加速を繰り返すマークレストに、ついていくのが精一杯だ。
「あぐっ!?」
アリスは今も魔導力を吸われ続ける。
このままだとゲームと同様にその命の火種も消えてしまう。
なのに、今もマークレストは軌道を止めることなく、魔導力の光の帯を放ち踊るように空を飛び、幾つものレーザー砲とミサイルで戦場を荒らしている。
クララとセラは前線を脱出できただろうか?
この隙にスペランツァも撤退を始めているはずだ。
「なのでわたしめは決意したのです!
再び、世界をマークレスト帝国の下に返そうと。もちろん、武力なき言葉など無意味であります。この世は所詮、力こそが原理。
誰もが最強という言葉を求めて最強という言葉に惹かれる。どれほど繰り返そうとも何度でも最強という言葉に酔いしてる。簡単なことなのです、マークレスト帝国も最強であれば良いのです」
悲しいが国と国との関係は太古の時代から変わらない。
多少の理性を持ち得てもそこには力と力の原則が働く。
しかも複雑化し見た目の強さだけでもはなく、ありとあらゆる強さが求められるようになった。
その中で原始に帰るように宰相クーゼンは直接的な力を求めた。
「そう、それが貴女様の直感の力があれば全てが解決するのです! そのマークレストから今もわたくしのところに膨大な解析データが、貴女様の魔導力を通して送られております。それを我が強化された兵士が手にすれば、最強の魔導機部隊が出来上がる!」
戦場における第六感……直感力を強化し、超反応を有する兵士。
それはさぞかし恐ろしい部隊が出来上がることだろう。
そのためにアリスとマークレストの膨大なデータが通信リソースの全てを使って送られている。
だから通信が全く使えないのだ。
俺からクララやセラ、それにスペランツァ、試しにグレイルにも通信を試みてみたが、全く通じない。
この辺り一帯の全てのリソースを使ってデータを送っているのだ。
アリス自身の魔導力と共に。
マークレストはその解析装置とするために、この旧都ラクトの研究施設で改造されていたということか。
……全ての物事には理由がある。
これはゲーム知識という存在すら怪しいものであろうと、そこには何らかの理由が存在するのだ。
「真実を意味する貴女様のお名前からアルテイア計画と名付けさせて頂きました。全ては貴女様から始まるのです、アリスレア皇女殿下!」
あの研究所はそのための1つだったということか。
脳をいじくることで人為的にアリスの直感力を再現しようとした。
しかし、それは不幸な事故により
アルテイア計画の全てがあの研究所にあったわけではないことはわかっている。
あの研究所のデータバンクを盗んだ際にアルテイア計画の真相のことは見つからなかったからだ。
それでも、あの研究所で何がしたかったのかは十分に想像はつく。
何者にも負けぬ超戦士の誕生。
それは野心を抱える者の必ず行き着くところだ。
人はどこまでも最強という名の幻想を追い求める。
しっかし苦しんでる女の前でよくもまあ、好き勝手言いやがる。
……決めた。
こいつは絶対に俺が殺す。
「私は……アリス、だ。
ただの……師匠の……女だよ」
おい、なぜそこで俺のことを言う。
口調からアリスがニヤリと笑っているだろう気配がする。
まあ、それで意地を張れるなら、なんにでも利用すればいい。
「……皇女殿下ともあろう者が行きずりの傭兵とやらに
クーゼンはマークレスト帝国皇帝一族を
アリスの力はそこに引き継がれた女神の力だと言う。
ゆえに信仰のようなものを抱いているが、それゆえにアリスの生まれが気に食わなかったのだろう。
始祖の詐欺本が本当なら始祖はスラム生まれらしいけどな。
最後にクーゼンが
「……では、最期に皇女殿下。わたくしのために反乱軍を組織いただき、ありがとうございました。無駄な努力でしたな?」
「「殺す!」」
俺とアリスの言葉が重なる。
それを最後にブツッとクーゼンとの通信が途切れた。
そして、次の瞬間。
一際激しい魔導力がマークレストから
同時にアリスの絶叫が響いた。
「ああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああっあああっっっっっあああああああああああああああああああ!?」
「アリス!!!」
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