第66話最前線

「グレイル!

 こちらから突破して敵の後背に回り込む」

「気に食わんがそちらは頼んだぞ!

 各機集結せよ、敵前線を食い止める」


 前線に俺たちがたどり着くまでに、大きく時間が経ったわけではない。

 それでもすでに撤退命令が全軍に通達された。

 北方の反乱軍が壊滅したのだ。


 それにより多数の政府軍がこちらにのみ銃口を向けてくる。

 すでに多数の敵魔導機隊が前面に展開している。


 その数は3大隊300機はいるのではないだろうか。

 スペランツァとホーリックスの魔導機部隊を含めてもこちらは60機残っているかどうか。


 市街戦は現代における攻城戦だ。

 潤沢な補給を持つ軍隊を正面からぶつかるのだ。

 その戦力は文字通り3倍は必要としよう。


 残念ながら状況は真逆で下手をすれば敵はこちらの5倍近く。

 相手の圧力を防ぎ切ることなどまずできようはずもない。


 反乱軍は本当なら北方の反乱勢力と高い士気と数で旧都ラクトを追い込むはずだった。

 それは政府軍の予定通り壊滅となったわけだ。


 事ここに至れば反乱軍に勝ち目どころか撤退もままならない。


 グレイルが臨時ながらよく魔導機隊をまとめているが、数の差がありすぎる。


 崩れかけた味方数機を庇うように1機が敵の前に躍り出て盾になる。


 数十の銃砲が一斉にその魔導機に襲いかかり、幾つもの煙をあげながらそれでも敵の中に突っ込んでいき消えた。


 その機体は愛嬌のあるそばかすで赤髪の女の機体だった。

 仲間を大切にする彼女らしい、そう思った。


 反乱軍はそんな圧倒的な数の相手を味方の献身的な犠牲によって辛うじて堪えていた。


 敵の地上部隊もジリジリと反撃しながら接近。

 まだ最終段階に入っていない状況でこれだ。

 ここに押し返されたところに伏兵として横合いから、さらなる追加の大隊が突っ込んで来る手筈のはずだ。


 そうなる前に敵を一度でも押し返す。

 そのわずかに押し返したタイミングで理路整然と撤退する。

 それしか第3部隊ホーリックスと第5部隊スペランツァが生き残る術はない。


「クララ!」

「はい!」

 敵機を迂回しながら後背を回り込もうとするが、そこにもすでに敵が展開している。

 俺と並走するように飛ぶクララが前に出るように前進し、サーベルを2本振りかざす。


 銀色のデータ型魔導機が接触と同時に2刀のサーベルを振り抜き、2機を縦と横に真っ二つに切り裂いた。

 わずかな無音のあと、爆発が2つ。


「……良い腕だ」

「先生の指導のたまものですわ」

 その言い方はどこかなまめかしい。


 さらに接近してくる魔導機の一機が放たれた銃砲に狙撃されたように爆砕する。

「……私の腕もクロ師匠仕込み」

「おまえのは天然だ」

 セラが狙撃したのだ。


 さら狙撃後の隙を突こうと接近した敵に逆にセラの魔導機は加速して距離を詰めて、そのまま敵をサーベルで切り払う。

 ゲームのときにはあった隙はもう存在しない。


「……ぶー。私のものはクロ師匠のもの」

「違ぇよ」

「……早くクロ師匠のものにして」

「先生、私も……」


 おまえもか、クララ……。


 ミサイルをかいくぐり、ときにはサーベルで切り払い、加速しながら敵の背後へ。


 たった3機。

 たった3機だけで敵をかいくぐり敵の後背へと迫る。


 もちろん数は力であり3機でできることは限られている。

 後背にも数十の敵が待ち構えている。

 だが、それをひっくり返す手は必ず存在する。


「見えた、指揮官機!」


 指揮官である名将リュカオンを討つ。

 ゴッテゴテのカスタム超特注魔導機で想像を絶する強さを持ってるけどよ!


 俺たちはさらに加速しリュカオンとその近衛魔導機隊に肉薄する。


 戦場は良い。

 命懸けの中、何を成したいか、どう生きたいかなんてなにも関係がない。


 死ねばそこで全てが終わる。

 実にシンプルだ。

 そこで得られる生き残り勝利した後の余韻はなににも代え難い。

 生きている。

 ただそのことのために殺し合うのだ。


 全てが終わり、生き残った後はより生を感じることは本能が求めることだ。

 ゆえに生命の本能である3大欲求から逃れることは不可能だ。


 ちらっと目を向ける外部モニターにまるで慕うようについてくる2機。

 ……さすがに今度は危ないか?


 誘惑などしなくてもベッドに引きづり込んでしまうかもしれない。

 それを拒否することはないだろう。


 自らのくだらない思考に思わず苦笑いが浮かぶ。

 ……すべては生き残ってからの話だ。


 どれほど誰かを守ろうと戦っても、死した者にはその後を歩む権利は与えられない。


 生き残った者だけが勝利者なのだから。

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