第65話戦場への再出撃
俺たちの出撃直前。
魔導機に乗り込もうとする俺たちの横をトリスがタンカで運ばれていく。
トロワがそれに縋りつき半狂乱になっているのを衛生兵に取り押さえられている。
それはあいつらだけの光景ではない。
残骸と化した魔導機もいくつも転がっている。
腕を失った魔導機がそれでも出撃しようとして整備兵が大声で静止する声。
今まさに煙をあげて、コックピットから助け出される人。
「前線の人が足りないので救援お願いします。
両名の魔導機には増加ブースターと追加エネルギーパックを取り付けてます、活用してください」
通信員のハーミットから再度通信でそう言ってきた。
クララのデルタ型魔導機は銀色に塗装され、微弱だがビームコーティングまでされている。
増加ブースターは例のパーチカルブースターの正規品で、これで最前線に突っ込めということだ。
エネルギーパックはバリアに使うも良し、武器のチャージに使うも良し、状況に合わせせて使えるが一度限りの使い捨てだ。
それでも切り札ができるのはずいぶん助かる。
安価なものではないので、ここぞというときにしか使うわけにはいかない。
ブルーコスモがこれをガン積みで特攻してきたが、ここぞという奇策だったのもあるが政府軍の方が物資が潤沢なのも大きい。
政府軍は各指揮官級に配備されているのだ。
そのあと、コーラルからも通信が入った。
「クロ、クララ、聞こえてる?
第2部隊と第5部隊が襲撃を受けたわ。
現状は不明、でも状況はかなり悪いわ。
そこにきて敵の主力との接触よ。
正直、まったく手が足りていないわ」
その通信は秘匿回線で繋げてきた。
その秘匿回線の通り大っぴらに話せない内容だ。
計器をいじりながらコーラルに返す。
「今後はどうするつもりだ?」
「第2部隊と第5部隊の状況はあなたが見込んだ通り、すでに壊乱状態らしいわ。
だから流石に、ここから旧都ラクトを占拠できるとか、頭が浮かれたりはしてないわ。
おそらく撤退……でしょうね。
だけど、前線が主力にぶつかっている今それを通達すれば……」
「即座に全面壊走だろうな」
主力に対して踏みとどまる戦力が必要だ。
しかるのちにその部隊はそのまま士気を維持したまま、もっとも危険な
それを第3部隊ホーリックスからも魔導機は出るが、主戦力は第5部隊スペランツァのみで行おうというのだろう。
それでも全軍の半数は失うし、ゲームにおいては3人娘のうち2人も失う。
それですらマークレストが暴走してまで敵を食い止めたおかげ、でもあるが。
「それと前線でマークレストが暴れてくれているけど通信が繋がらないわ」
マークレストは政府軍から奪取したばかりだ。
あのポンコツ皇女が回線がどれかわからずに右往左往しているか、連絡するのを忘れているか。
いまも最前線で踏ん張っているのならその余裕もないか。
「前線に着いたらマークレストとの通信を試みて。
それと前線部隊の状況確認と可能ならあなたかグレイルに前線指揮を頼むわ」
「オリバー大尉はどうした?」
「彼は……撃墜されたわ」
「そうか」
通りで色々と俺に頼み事をするわけだ。
ゲームでオリバー大尉がここで死んだという描写はない。
しれっと生き残っていたはずだ。
……もっともゲームは特定のユニット以外は撃墜されても次のシナリオでは何事もなく復活していたが。
静かに、深く息を吐く。
「部隊を率いるのはグレイルの方が向いている。
俺は雇われの猟犬だ、敵を喰い破る方が向いてるよ」
多少、指揮ができようとそれでまともな部隊運用ができるわけではない。
隊長はまず信頼されねば始まらないのだ。
どこまでいっても俺は部外者でまともな部隊指揮を任せたければ、内部でエースとして人脈を勝ち取っているグレイルの方がずっと人がついてくる。
初手から俺に信頼を寄せてくる3人娘がおかしいのだ。
「……ええ、そうね。
グレイルに任せることにするわ」
それと、と俺は付け加える。
「……撃墜されたからといって死んだとは限らない。
戦闘終了後の残務処理は全部ヤツに丸投げしてやれ」
言葉だけの気休めだ。
オリバー大尉がゲームで生きていたからどうだというのだ。
現実においてはなんの保証にもならん。
ましてや、いまこの追い詰められた今この場にいないのではな。
それでも……、すべてが確定されない今だからこそ、今を生きるものの心の希望にもなるのだ。
たとえそれが慰めであろうとも、生き残るためにはどんな支えでも利用するべきなのだ。
「……ええ、ええ、そうね!
だから……、頼んだわよ?」
「
補給完了と発出準備が整ったことを整備兵が示す。
「聞いたな、クララ。
面倒な書類仕事は後でおサボり中のオリバー大尉に押しつけて、俺たちは全力で槍働だ。イケるな?」
隣で静かに俺たちの話を聞いていたクララは真っ直ぐな瞳で俺を見つめ、微笑みを浮かべ頷く。
「もちろんです、先生」
そこで同じく魔導機の補給を終えたセラが通信に割り込んでくる。
「……クララ。師匠は私たちに手を出すのを我慢しているだけ。
……押していこう」
「本当ですか、先生!?」
クララが静かな雰囲気を一転させ、目をキラキラさせて俺に確認してくる。
「……セラ」
「……事実を言ったまで。早く手を出せ、クロ師匠」
「そうです!」
「ああ、もういいからさっさとアリスを迎えに行くぞ!」
「はい、先生! アリスも一緒に3人でお願いします!」
「……ん、私たちは桃色の誓いの同士。いまこそ迎えに行って誓いを果たそう」
これで3人揃うとまた面倒だなぁ……。
だがまあいい、こいつらが落ち込んでたりシリアスしてるなんざ似合わねぇ。
それに魔導機という不可思議な乗り物は調子に乗っている方がその力を発揮するものなのだ。
だから、これで良い。
「あほなこと言ってないで行くぞ、クララ、セラ!」
「はい、先生!」
「……オーケー、クロ師匠」
待ってろ、アリス。
いま行くからな。
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