第64話スペランツァへの帰投
回収したクララが移動の間中、ボケた顔で俺を眺めているので、思わず何度か大丈夫かと確かめてしまった。
「先生って、ほんとに私の……私たちの先生、ですよねぇ……」
しまいにはどこかのポンコツ皇女と同じようなことをほざき出した。
「マジで……大丈夫か?」
クララ以外は全滅かと思われたが、マークレストが出た後のハンガーに降りた輸送機にも潜入組2人が乗り込めたらしい。
それでも他は……さすがにダメだったようだ。
「そんな顔されると落ちつかねぇんだが?」
「そんな顔ってどんな顔ですか?」
俺の魔導機ハーバルトは2人乗りも考えられていたのか、コックピット内部がやや広くクララが一緒に乗っても身動きが取れないということはない。
以前もアリスのガンマ型魔導機を俺が破壊してマルットが手に入るまで一緒に乗っていたこともある。
それで今はクララが俺と一緒に乗っているのだが、後ろから覗くようにして
「その
「とっ、
「してただろうが!」
「してません!
先生のえっち!」
えっちとか言われてもなぁ……、いや、いいんだけど。
俺は視線をしっかりと前方に向けて今も起こる戦闘での爆発の合間をかい潜る。
視線は向けている暇はないが、クララの気配だけは感じながら俺は一言だけ告げる。
「無事で良かった」
「ンンッ、そういうところですわよ!?」
いや、なにがだよ!?
会話の内容を考えているほどの余裕はない。
戦闘空域を抜けるのは容易ではないのだ。
輸送機を護衛していたグレイルから通信が入る。
「そっち、クララ少尉が乗っってるんだろ?
敵機の迎撃はこちらに任せ、輸送機の護衛に専念しろ」
グレイルはすぐに近づいてきた敵機に突っ込む。
それを支援するようにセラの銃砲がその敵機に放たれる。
グレイルが相手している敵は3機いるが、上手く立ち回って数の優位を消している。
良い腕だ。
その援護を受けながらも俺は輸送機と並ぶ形で進む。
友軍と敵軍の爆発が連続した花火のようにいくつも音を鳴らす。
実際の花火と違ってめでたくもねぇけどな。
地上は地上で戦車同士、人同士、時には装甲車同士までがぶつかり合う地獄絵図だ。
それらの中をセラとグレイルの活躍があって、どうにか機銃の雨とミサイルを振り撒くスペランツァの姿が視界に入ってきた。
ようやく帰れるというところでクララは俺にそう尋ねる。
「先生一つ教えてください」
「ん?」
「フラッグさんのこと、なぜスパイと?」
フラッグはプロのスパイだ。
あの時点であからさまなスパイの証拠などなかったことだろう。
それは第3部隊の隊員として認められていたあたりからも推測できる。
そのフラッグをなぜスパイと分かったのかといえば……。
「ん、ああ。俺がおまえらの同席に話をふったときに、『プリンセスとの同席を
「……それだけ、ですか?」
「ああ、それだけだ」
空気というか感覚の問題だな。
自然と出てくる言葉の中にほんのわずかな不自然さが存在する。
それがフラッグの『プリンセスとの同席を拒む男はいないさ』の言葉に含まれている。
「えっと、それのどこに……ですか?」
「そう言ったわりに、フラッグはその瞬間までおまえたちに声どころか、目配せ一つしなかったんだ。
こんな美人を前にしてあり得んだろ?」
途端に真っ赤な顔で動揺するクララ。
「からかわないでください!」
「からかってないんだがなぁ〜、ほら、もう着くぞ」
……あのときフラッグは3美姫と呼ばれるほど有名なこいつらに目をくれず、真っ直ぐに俺に声をかけた。
まったく3美姫に興味がないヤツはいない。
男色でもないことはフラッグの視線からもわかった。
それなのにヤツのターゲットは完全に俺だった。
つまりその時点で、そこに俺を探ろうとする意図が存在する。
そこに考えが至れば自ずとその意図も見えてくる。
どこの組織の者かも不明でありながら3美姫を連れ帰り、ブルーコスモを落とし、バーゼル中佐を殺した俺のことを探ろうとするのはコーラルたちだけではない。
その情報がノドから手が出るほどにもっとも欲しいのはどこか。
決まっている政府軍だ。
そこまでたどり着けば俺の怪しいゲーム知識の出番だ。
姿に関するデータはないが、反乱軍に潜入しているという政府特務調査官フランクってのにアタリをつけて、あとはタイミングを見てカマをかけたというわけだ。
取引の約束を守るかは五分五分でそうなれば良いという程度だったが、フラッグは約束を守りクララの回収が間に合った。
その点は感謝をしよう。
次に会ったら敵として殺すけどな。
スペランツァもすでに無傷とはいかず、いくつも煙をあげている箇所まである。
たどり着いたハンガーの中もこれまた戦争状態で、いくつもの怒号と走り回る整備兵たち。
戻ったはしからスペランツァの通信員ハーミットから連絡が入る。
「無事に帰還したばかりで申し訳ありません。
補給完了後、すぐに再出撃をお願いします。
敵主力がこちらにぶつかります、圧倒的に数が足りません」
グレイルとセラも魔導機に乗ったまま補給を受けている。
整備士からタオルと栄養補給ゼリーを受け取り、通信員から現状の説明を受けているはずだ。
俺は整備兵の1人から栄養補給ゼリーを2つ受け取り、片方をクララに放る。
「りょーかい。
聞いたな、クララ。
行くぞ」
クララは放り投げられたその栄養補給ゼリーを両手で、大事に抱え込むようにして意志ある声でそれに応えた。
「はい、先生」
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