第61話旧都ラクトのドンドコ祭り

 旧都ラクトにはドンドコ祭りがある。


 1年の厄を払うため、パジャマを着て「ドンドコォォオオオオオ」と叫び街を練り歩き、酒を浴びせかけるのだ。


「いまなら本当はそういう時期だよな」

「……時節で選んだチョイスがドンドコ祭りなの?」


 出撃前の魔導機から外に広がる広大な旧都ラクトの景色を眺めながら、ふと俺が呟いたのを半分呆れたような声でセラがツッコミを入れる。


「あの祭りはいいぞぉー?

 嫌なことは全部忘れられる。

 俺、記憶ねぇけどな」


 知識だけだが面白そうだと思う。

 その街はいま戦火にさらされようとして祭りなどやっている余裕はない。


 反乱軍は旧都ラクトに侵攻を続けているといっても、直接市街戦を行ったりするわけではない。

 あくまで旧都ラクトに隣接する軍事施設が目標だ。


 ある意味で非戦闘員は巻き込まないという姿勢を貫いているが、本来、それをできるだけの余裕があるわけではない。


 それでもそれを貫くことで大きな時勢の流れを掴むことになるのだが、この段階ではただの不利を受け入れているに過ぎない。


「……知ってます、うるさいだけですよ。

 一応、地元なので」

「ほう、地元だったか」


 直接市街地を攻撃するわけではなくとも、事実として故郷を襲っていることにどういう想いがあるのだろうか。

 別にセラに限った話ではない。


 政府軍も反乱軍も共にこの国に自分の故郷がある。

 それを自ら戦火に巻き込むこともあるのだ。

 それが内乱であり、戦争だ。

「……うん。でも」

「うん?」

「……アリスとクララと参加するならきっと楽しいと思う」


 俺はその未来の可能性を救い出し、それを叩き潰そうとしている。

「そうか」

「……うん」

 だからそれ以上はなにも言えなかった。





 回収班は輸送機1機と護衛魔導機3機で行う。

 可能な限りスペランツァが研究施設に近づき、そこから出撃することになる。

 反乱軍拠点シーア襲撃のブルーコスモが行った要領で高速接近のゴリ押し。


 こちらはそれで撃墜されるわけにはいかないから、第3部隊ホーリックスもそれを補佐してくれる。


「姫の救出に出遅れるなど許さんからな」

 俺たちが待機しているところに、グレイルの搭乗したデータ型魔導機が横に並ぶ。


「遅れたの、むしろお前じゃないか?」

 人員が足りないとコーラルが嘆いていたから、2人で回収班をすることも覚悟していた。


 だが、エースの1人でもあるグレイルが急遽加わることでなんとか3機編成で行動できそうだ。

 本人の志願だというから、ありがたいことではあるが……なぜ俺は食ってかかられてるんだ?


「うるさい! 貴様を姫の白馬の王子様だと俺は認めんからな!」


 白馬の王子様ってなんだよ、白馬のって。

 白馬の王子様ってもう絵本でも見かけない表現だよな。

 たまに古典であるぐらいか?

 絵本を読んだ記憶もないんだがな。


 過去の記憶が無いってマジで不便というか、足元が不確かな気分になるというか、変な感覚に陥りそうになる。


「……グレイルさん、違うよ。

 クロ師匠は私たちのお・師・匠・様。

 もちろん夜のベッドでも」

「ぬぉおおおぉぉぉー!? よよよ、夜もだとぉお!?」

 火に油を注ぐな!?


 正直、この数日でセラとの距離が近くなった感覚はある。

 アリスとクララにくっついてたのが、いまは俺にくっついてる。

 それは良いのか?


 いいや、良くない!

 アリスと同じ暴走状態じゃねぇか。

 クララ、助けてくれ。

 もはや3人の中でお前が1番重要だ、常識人枠として。


 そんな暴走に次ぐ暴走の中、スペランツァが研究施設への道を確保したとコーラルから告げられる。


「ガセネタに踊らせられてんな!

 ポンコツどもをさっさと迎えに行くぞ。

 足手まといになるなよ」

「へっ、えっ、ガセ?

 おい、誰が足手まといだ、こら!?」


 信じかけてたのかよ。

 グレイルは反乱軍エースなはずなのに、俺たちと関わると随分ポンコツになってしまう。

 ポンコツ波動でも出てるのだろうかとすら疑ってしまう。


 それが反乱軍のどこか軍でありながら、自由さを併せ持つ不思議な空気を作っているのだとしたら、まさにポンコツ皇女恐るべしである。

「いいから行くぞ!」


 ごちゃごちゃ言いながらも出撃となると落ち着きを取り戻し、セラもグレイルも出撃する。


 潜入に際し、あの2人を鍛えた以外に大きなことはそれほどできていない。

 なので、回収組が間に合わなければクララはきっと……。


「……さあて、間に合えよ」

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