第52話さらば!鮮烈のフラッグ

 次もすぐに警戒任務があるが、とりあえずいまは警戒任務の直後なので24時間は待機任務になる。


「せっかくだ、ご相伴しょうばんに預かろう」

 こういった戦友との交流は重要だ。

 ちょっとしたところで戦場での連携も違えば、軽口の一言でも交わせるだけで心の持ちようが違う。


 これがクールを気取ってコミュニケーションを怠れば、生き死にの中で冗談混じりの軽口すらスルーされて生き地獄を味わうことになるのだ!


 傭兵稼業は気楽な職業とか思っているヤツがいたら勘違いするなよ!

 生きるために苦手でもコミュニケーションを取る必要があるんだ、キツいんだぞ!?


 まあ、戦友との語らいが嫌いなわけでもないがな。

「ああ、忘れていた。

 こいつらも一緒だがいいか?」


 そこでじーっと俺たちを眺める3人娘をいま思い出したとでもいうように、俺はフラッグに告げた。


「もちろんだ。

 プリンセスとの同席を拒む男はいないさ」

 そう言ってフラッグはフッと笑ってアリスたちにも酒を見せるが。


「私たちはお酒はやめておきますね、お酒弱いので」

 アリスが代表してニコリと笑い酒を断る。


 たしかに出会った初日から勧められるままに酒飲んでエライ醜態を見せたな。

 むしろ、アレがあったから断ってるのか。

 学習能力あったんだな。

 そう考えたことが顔に出たのか、アリスは不満げに俺に頬をぷく〜っと膨らませて見せた。


「そうかい?」

 フラッグは気を悪くしたふうもなく俺のカップに酒を注いでくれる。

 それから注いだカップを持ち上げ、乾杯と一言。


「……良い酒だな」

 ケツアゴ金髪のナイスガイはジャズのなるクールな酒場が似合う顔で寂しげに笑う。

 士官用食堂だけど。


「相棒のシホウが死んじまってな。

 今日はそのとむらいだ。

 ……あんたが倒した特務隊のバーゼルってヤツにやられてな。

 つまりあんたは俺の相棒の仇を取ってくれたヒーロー、というわけだ」


 チンっとビンを鳴らして酒を掲げるフラッグ。

 コレだ、コレだよコレ。

 戦場の一時の戦士の休息、男の世界。


 生きるための刹那の恋人との逢瀬も悪くないが、それよりも男とか女とかいうよりも生死を越えた戦友との語らい。

 コレこそが戦士というものだよ。


 それを机にへばりついて顔を寄せ合い覗くように見てくる3人娘。

「ぬぬぬ、師匠。

 私たちというものがありながら」

「男だ、男の世界だ……」

「これがあの……?

 だから先生は私たちに手を出さなかったというのかしら?」


 やかましい。





 それから数日後。

 偶然というか、必然というかフラッグと出撃が重なった。


 互いの魔導機が出撃し、周囲警戒とご挨拶のようにやってきた敵の強行偵察を相手にする。


 言葉を交わす必要はない。

 魔導機が同士で親指を立てて、ニヤリと笑うだけ。

 きっと向こうもきっと同じように笑っているはずだ。

 フラッグとも立派な戦友だ。


 並んで飛ぶ2体の魔導機。

 それを見守るように後方についた3人娘が乗る3機の魔導機。


 敵機接近の警告アラームと通信が入ったところで、ズドンとフラッグが乗った魔導機が撃墜された!


「ふらぁぁっぐ!」


 その爆煙が消えぬ間にアリスがフラッグを狙撃した強襲魔導機を撃墜する。

 3人が即座に加速して、敵魔導機を連携して追撃。


 強行偵察の敵魔導機はそこからさして粘る事なく、3人に追い返されるように撤退して行った。


 俺は煙をあげて落下するフラッグの魔導機の向こうに、空に爽やかな笑顔でキメたフラッグを幻視した。


 戦場では危険が隣り合わせ。

 昨日巡り会った友も、次の日にはどちらかが死者の列に並ぶ。

 そういうものなのだ。


「……こういうとき、どういう顔をしてよいのかわかりませんわ」

 クララが通信で俺にそう言う。

 それに俺はこう答える。


「笑えばいいんだよ。

 自分が生き残れた、戦場ではそれが全てだ」


 それにセラがポツリと。

「……なぜだろう。クロ師匠がいまそれを言うと、ブラックジョークにしか聞こえない」

「なんでだ!?」

「師匠〜、フラッグさん生きてますよー」


 結論からいえば、フラッグはコックピットへの直撃は免れて、無事に脱出装置が働いてパラシュートで笑顔を浮かべていた。


 このときに怪我を負ったとして、フラッグは後方に下げられることとなったが、それでもなんとか生き延びることができたのだった。

 ……悪運の強いやつだ。

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