第53話師匠、お別れなのです

 旧都ラクトへの侵攻のためのブリーフィング前。

 並べられた椅子の一つに腰かけ、その俺の横に3人が並んで座る。


 俺の隣にアリス、それからクララ、セラの順番。

 いや、いいんだけどよ?


 旧都ラクトの作戦説明がこれから行われる。

 ここでようやく一般兵士にまで旧都ラクトへ侵攻のための詳細な作戦が伝えられた。


 大まかな侵攻は北と中央からの2正面侵攻。

 旧都ラクトの守備軍を半包囲で叩く作戦だ。


 ……んで、まあこれが罠なんだけどな。


 まず北側の勢いよく進む混成部隊こんせいぶたいが、潜り込んだ政府軍工作部隊により混乱部隊こんらんぶたいに早変わり。

 どこの誰ともわからん北方の群衆反乱勢力には工作員が入り込み放題なうえに、元より政府軍の工作なんだからやりたい放題だよな。


 混乱部隊となった反乱軍第2部隊と第4部隊は、そこに政府軍の伏兵部隊にさらにかき乱されて混乱が壊乱かいらんに変わって終了のお知らせ。


 旧都ラクト侵攻作戦は開始早々に反乱軍の戦力が半減。

 残った第3部隊、第5部隊は止まることができずに突出。

 隠れていた政府軍部隊に逆半包囲でボコボコにされるというわけだ。


 もはや戦う前から負けている。

 しかも繰り返すが、反乱軍は北の民衆反乱勢力を受け入れた……受け入れざるを得ない時点で、この戦略から抜け出す術がない。


 これを仕掛けたのは大した戦略家だ。

 おそらく政府軍務卿ラーン伯爵の手腕だろう。

 戦場には将軍の1人リュカオンが出てきているだろう。

 ヤツも名将と呼ばれる存在だ。


 それに俺が始末したバーゼル中佐並のエース級も何人も。

 全くもって、反乱軍に比べて政府軍は人材が豊富だ。

 体制側なので当然だが。


 内乱が起こっている国の政府が弱い、とはよく勘違いされる話だが、その国で1番強いから政府側なのだ。

 反乱軍はどこまでいっても挑戦者でしかない。


 ふと3人を見ると目が合った。

 反乱軍の作戦を聞いて何か思うところでもあったか、俺をじっと見た後に3人で互いの顔を見合った。


 大きな声で話すわけにはいかないためか、身体の前でブロックサインをやり取りし出した。


 シュババと繰り広げられるブロックサイン。

 なにやってるのかわかんねぇ。


 そして随分とやり慣れているから、退屈したら3人でいつもこうして雑談していたことがうかがい知れる。

 話しちゃんと聞けよ。


 それから話がまとまったのか、3人は真剣な顔で頷き合う。

 そして3人を代表してアリスがいつになく真剣な表情で俺に告げる。


「3人で一つのカップヌードルを分け合うことで決定しました」

「なんでそうなった!?」


 思わず声をあげてしまい、作戦を説明していたコーラルにジロリと睨まれた。

「……なにか言いたいことでも?」


 言いたいことはある。

 ポンコツ3人娘に対してだが。


 そもそもろくに話を聞いていなかったのだが……。

 俺は観念したように挙手をしてコーラルに応える。


「北側の反乱勢力の勢いだけで総攻撃をかけるのは危険過ぎないか?」


 あえて誰も言わなかったのか、それとも無言で付き従うのが兵隊の仕事だからか。

 こういうときに意見を言う人間はそう多くない。

 消極的な発言だと尚更だ。


 俺も発言するつもりはなかったが、こうなってはあえてゲームの記憶でも気になっていたことを確認してみたのだ。


 つまり、肝心の罠に突っ込むこいつら自身はどう思っているのかを。

 必勝の作戦と思っていたのなら頭がお花畑過ぎる。


 もっとも北側反乱勢力と行動を共にしている第2部隊と第4部隊の反乱軍幹部の面々は、ゲームでも頭がお花畑だったようだ。

 この作戦を立案したのも彼らだ。


 反対にロドリット将軍やコーラルたちはこの勢いに飲まれることを警戒していた。

 反乱軍も一枚岩とはいかない。


「勢いに乗るのも一つの作戦です。

 民衆の支持のない軍などただの暴力です、今の政府軍のように。

 西方解放軍はそうではありません」


 事実ではある。

 士気の高さはそのまま兵の強さでもある。

 しかし本音としては、烏合の衆を連れてでもその勢いに乗らなければならない、と。


 今のところは罠が仕掛けられているかどうかはコーラルたちには根拠などないのもある。

 繰り返すが、仕掛けられた時点で避けられない罠でもある。


 確かにこの勢いが上手くいけば難攻不落の旧都ラクトを攻略出来たかもしれない。

 その極上の餌を前に『待て』をできる人は多くはない。

 しつけられた犬よりも人はケモノに近いのかもしれない。


「……りょーかい」

 どちらにせよ反乱軍には選択権がない。

 攻める側であるはずなのに、だ。


 それでも勝てる作戦を立てねばならない。

 この作戦ブリーフィングはそのためのものだ。


 そのまま作戦ブリーフィングが進む。

 俺もちょっとした事故で口を挟んだが、今更決まっている作戦案に口出ししたりはする気もない。


 ほどなく作戦ブリーフィングは終了する。


「あとは各自個別にて準備を行う。

 一部を除いて解散」

 コーラルのその一言でざわざわと隊員たちは椅子から立ち上がり部屋から出ていく。


 しかしアリスたち3人娘は立ち上がらない。

 俺が何気なく顔を3人に向けるとアリスが口を開いた。


「師匠、お別れなのです」

 あん?

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