第38話始原の魔導機アルファ

「はいはーい! 師匠教えてくださーい」

「なんだよ?」


 反乱軍拠点到着まで残り2時間を切った。

 逆にこういうときは時間を持て余す。


「結局、マルットってどれぐらいの性能だったんですか?

 私としては特務隊の最新機デルタ型に勝るとも劣らない究極魔導機だったと思っているんです!

 限界さえ来ていなければ、ぐぬぬ……」


 俺の部屋のベッドを占拠して拳を振り上げ、悔しそうに男泣きをするアリス。

 乗っていた当人の言葉とは思えない、実に危険な認識だった。


「……そんなわけねぇだろうが」


 テーブルにお茶を用意して貴族のご令嬢の如く優雅に、本片手にお茶を飲んでいたクララが首を傾げる。

 なお、読んでいる本は俺が貸した詐欺師の本だ。


「そうなのですか?

 私たちが見てもガンマ型よりは出力は出ていたように思うのですが……」

 セラも口にビスケットを突っ込んで、無言で同意を示しコクコクと頷いている。


「瞬間的な出力は、な。

 アレは安定度外視でリミッターを外して、ギリギリまで出力を上げていただけだ。

 一歩間違えば、その場で分解してしまうようなシロモノだ」

「ヒョエッ!? マルットは崩壊寸前だったんですか!?」


 そうは言っても、作業用魔導機は頑丈さがウリだ。

 分解爆発ではなく、突如動かなくなってバラバラになるぐらいだ。

 それでも十分大惨事だが。


 魔導機性能でいえば。


 作業用魔導機(ノーマルマルット)<<越えられないはずの壁<<マルットや傭兵などが使う一般ガンマ型魔導機<軍用ガンマ型魔導機<デルタ型魔導機<カスタムデルタ型≒ハーバルトや特殊機<マークレスト<始原の魔導機アルファだ。


 デルタ型は最新型のため軍用しかない。


 神話の話になるが、始まりのオームが世界を滅ぼそうとしたとき、始まりの女神AI《アイ》は人に味方しアルファ型魔導機を人々に与えた。


 それが魔導機の始まり。

 いまでは伝説の魔獣、始原の魔導機アルファとも言われている。


 そして、それをアルファを元にしたと思われる魔導機ベータが、世界の中心神々の霊峰と呼ばれる山脈から多数発掘された。

 それにより神話が歴史上真実であったことが証明された。


 その魔導機ベータから作られた魔導機がベータ型と名付けられ、現在ガンマ型を経て最新魔導機デルタ型が開発されている。


 神話がどうのと言ったが、女神が本当に居たかどうかなんてのはわからない。

 魔導機アルファが本当はどんな存在だったのかも。


 ともかく魔導機アルファが伝説の魔獣と呼ばれたせいかはわからないが、魔物の素材は魔導機に転用できる。

 よって魔導機乗りは魔物を狩って生計を立てるハンターという職種が成り立つ。

 ドラゴン型やオーガ型などもいるから、魔導機もそれらの素材を利用して多種多様の形状をしている。


 ある意味で軍用機などはその個性を廃して量産型にしているともいえる。


 魔導機の特徴は他にもある。

 魔導機は機械素体を基にしてはいるが、そこに魔物素材を使っているようにオカルトに通じてもいる。


 まだポンコツどもに説明はしないが、マークレストなどもそのオカルトの要素がふんだんに注ぎ込まれている。

 なんだよ、操縦者の魂が一緒に戦ってくれるとか。


 アリスもクララとセラと並んでビスケットをバリバリしながら、俺の説明に耳を傾ける。


 おかしいな、俺は子供たちにおとぎ話をしているだけの気がしてきた。


「先生、続きをお願いします」

「師匠〜、続きー」

「……それで?」

「あー、はいはい」


 魔物ベータより作られた魔導機はそのままベータ魔導機と呼ばれ、元々は型式を表す意味ではなかったのだ。


 それをベータ魔導機を超えたという意味でガンマ型と呼ばれる機体が出始めて、正式に魔道融合炉を使用している魔導機と呼称されるようになった。


 そこから長い間、ガンマ型が魔導機のことを示していたがこの内乱が始まる少し前から、最新機デルタ型が開発されたというところだ。


 ガンマ型とデルタ型を採用しているのはその安定感から主に軍用で、民間においてはその型式の枠には収まってはいない。

 なのでマルットのような魔改造魔導機などが存在するのだ。


「マルットはやっぱり凄かったんです!」

「改造のし過ぎでおかしなことになってたけどな?」


 整備士が首を傾げてたぞ?

 なんでこれでまともに動くんだって。


 ハーバルトは政府の研究所で作られたが、コンセプトとしては実験機であり民間研究所が作製する魔導機に近い。


 始原の魔導機アルファなどからしてそうなのだが、実のところ魔導機にはまだ謎な部分が非常に多い。


 いまだにオーパーツのように遺跡から発掘される魔導機もあり、それも一般の魔導機とは比べ物にならないぐらいの性能を発揮するという。


 一機でも見つかれば一攫千金になるので、研究者に限らず人々は魔導機が眠っている場所を推測している。

 その様子は人々からも大人気で埋蔵魔導機発掘番組や雑誌の特集が組まれたりしている。


 しかしながら、どこで見つかるかはわからず、中には畑から見つかったなんて話もあるぐらいだ。


 夢があふれる話と言いかえてもいいかもしれない。


「発掘! 先生!

 魔導機発掘は儲かりますか!?」

 クララが目を輝かせて挙手をする。


「見つかればな?」

 見つからないから高くで売れるんだぞ?


「……いつかみんなで探しに行きたい」

 セラがポツリと言って、アリスも目を輝かせてウンウンと頷く。


 俺はこいつらと出会って今日までのことを、どこか懐かしむような気分で笑顔を浮かべた。


「気が向けば、な」

 その日はもう永遠に来ないだろうけどな。

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