第37話軟禁解除

 そこでパッと部屋の明かりがついて、一気に室内が明るくなる。

「なにやってるんです、アリス」

「……眠い」


 昨夜と同じ寝巻き姿のクララとセラがそこにいた。

 俺はいま初めてこいつらがいてくれて良かったと思った。


 24時間の待機任務中のため、こいつらは起床時間除外らしい。

 もっといえば俺は軟禁中のため、勤務シフトとはもっと関係がないらしい。


 そしていまも扉は全開だ。

 軟禁とは室内から出させない監視状態のことではなかったのだろうか。

 仕方ないので自分で扉を閉めた。


「今日の夕方には西方解放軍拠点シーアに到着します。

 それまではお休みください、先生」

「……あとで朝食も持ってくる」


 そう言ってクララもセラもくつろぎモード。


「さすがに早いな」

 戦闘空域から離脱後、通常航行に入ったせいかそのスピードはさすがは空中戦艦。

 戦場への移動スピードは十分に戦略兵器としての効果の高さを証明している。

 だからこそ、この空中戦艦の効果的な配置が戦局を大きく左右させるのだ。


 ところでおまえら、このままこの部屋に居座るつもりか?


 アリスに至ってはすでに惰眠をむさぼっている。


 それから2時間ほど経過しただろうか。

 この部屋は外から監視できるように小窓がついており、扉を開けずとも中が確認できる。


 その小窓から昨日の警備兵のにいちゃんがこちらをのぞいて……絶句したような表情をする。


 俺は苦笑いを浮かべて軽く手を振る。

 室内には皇女と正規兵の娘さんがくつろいでいる。


 皇女ということは知らんだろうが、それでも軟禁中の部屋に正規兵の若い娘が3人も入り込んで、しかもくつろいでいる光景は異様とも言える。


 諦めて俺も初代皇帝が詐欺師と主張する本を読んで時間を過ごす。


 しばらくすると、コーラルがオリバー大尉を伴って部屋にやってきた。

 警備兵のにいちゃんが困って呼んだんだな。


 そして部屋に入るなり、コーラルは膝から崩れた。


 ……コーラル、苦労人だな。


「アリス、ここでなにやってんの?」

「師匠の部屋で休憩中ー」


 ゴロゴロとベッドを完全に占拠したアリスはそうのたまった。


 我が軍のベッドは完全にアリスに占拠されたのだ。


 クララとセラは昨日持ち込んだ変形できるカートテーブルで優雅にお茶を飲んでいる。


 気にせず部屋でくつろぐ3人娘を見て、オリバーも感心したように呟く。


「嬢ちゃんたちがこんなに懐くとは……。

 おまえさん、本当に何者だ?」

「ただの傭兵なんだが……」


 事実である以上、それ以外言いようがない。


「アリス、一体なにがあったの?

 ここまで気を抜いているのは初めてじゃないの?

 いえ、良いことなんでしょうけど……」


 俺はこの状態しか知らんが、今まではこうではなかったらしい。


 一体、なにが彼女をポンコツに変えてしまったというのだ!


「私は運命に出会ってしまったの。

 師匠という運命に!」


 犯人は俺らしい。

 なぜだ!?


 半目でコーラルとオリバーに見られるが、俺は必死に首を横に振る。


 俺は知らんぞ!


 そこでコーラルは大きな大きなため息を吐いて言った。


「クロさん、いまこの瞬間からあなたの軟禁を解きます。

 以後は第5部隊追加人員として行動してください」


 俺の軟禁状態がいまこの瞬間まで続いていたことも驚きではあるが、もう一つ驚きなのがその軟禁が正式に解かれるスピードだ。


「随分早いな。

 拠点シーアには到着してもないだろ?」


 拠点にも戻らずに人物照会が終わったというのは、どうにもおかしい。

 いくらなんでも拠点シーアのデータベースで調査してからだと思うが。


「あなたの身元を保証する人がいましたから」

「それはアリスではなく?」

 コーラルは静かに頷く。


 傭兵に身元を保証する人なんているか?

 俺のいた傭兵団『竜の爪』に俺以外に生き残りでもいたのか。


 ……いるわけがない。

 研究所のデータバンクで俺の過去から調べられるだけ調べたが、それでも生存を示すものはなかったのだ。


 焼け落ちる戦火の街は共に同じ飯を食い、笑い合った家族ともいうべき仲間を容易く奪っていった。

 その記憶すらいまではもう残滓ざんしとしか残っていない。


 力が足りなかったばかりに。

 それでも生きている。

 傭兵にはそれが全てだ。


 いずれにせよ、傭兵からの保証などアテにはなるまい。

 金一つで敵にも味方にもなるのが傭兵なのだから。


「シーアに帰還後、あなたにはその方の診察を受けてもらいます」

「診察?」

「あなたの黒い魔導機ハーバルトの生みの親、と言えばわかるかしら?」


「あ〜、なるほど……」


 それを聞いて俺は納得したが同時に疑問も浮かぶ。

 しかしなんでまたあの人が反乱軍に?


 なにもかも不可解な中、空中戦艦スペランツァはシーアに到着し、俺はそんな思いがけない再会をすることになるのだった。

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