第23話ただの敵だよ
さて、ここで先ほどの話だ。
家の本家と分家で反目し合っているが、反乱軍の急な弱体によりハラクロ商会が本家の補佐官に歩み寄る。
ハラクロ商会ゲンナーが強欲であるからこそ、その全てを失っても本家にすり寄ると誰もが想像がつかない。
ただ一点、ゲンナーは命の危機があればその全てを投げ出す性質であることは、言われてしまえば納得するしかない。
ああ、あいつならやりそうだと。
南郡は自治権がある分、政府も容易には入り込めない。
南郡内の勢力の手引きは政府には喉から手が出るほど欲しい存在だ。
ゲンナーの命乞いぐらい受け入れるだろう。
南郡の利権を全て手に入れたい政府軍は時勢を素早く読んで、命乞いをしてきたゲンナーと手を組みハクヒを暗殺を企てる。
表向き政府についているソン家は政府の本家補佐官から呼び出しを受けると断れない。
「確かに表向きとはいえ、政府重役に正式に要請されたら断れねぇ。
政府側に下手にちょっかいを出すと面倒が大きすぎて、その穴は塞いでいなかった。
だが、急な反乱軍の弱体化が起こるような事態があれば、そこまでしてくる可能性は十分にあるか、そうなると……」
ハクヒは笑い飛ばすことなく、俺の忠告を思案する。
これだけなら、まだ可能性だけと断じれたかもしれない。
なので俺はそれに補足するように、それに関わったであろう10人の性格と立場、その結果で起こる行動が政府補佐官とゲンナーにどういった影響を与えたかの情報も告げる。
無論、ゲームの中にそこまで細部の情報はない。
ある程度の人物の性格や立場、その時の状況を総合して、そう判断できるというだけだ。
物事は偶然のように見えて、幾つも重なるともはや必然となる。
ゲンナーが反乱軍の敗北で、どのように命の危機を感じるか。
政府補佐官がなぜソン家を潰すことを優先したか。
風が吹けば桶屋が儲かる、そんな故事ではないが全ては繋がっていく。
そうしてハクヒは自分がそういう状況になった際に、暗殺を防ぎようがないことにも考えが至ったようだ。
「……ちくしょう、言われてみれば確かに存在する穴だ。
しかも、生半可な覚悟では防げない穴ときた」
もちろんその状況下、ソン家も当然、政府がなにか仕掛けてくるのではと警戒はしていた。
そこでタイカがゲンナーの手の者に拐われ惨殺される。
ソン家として、男としてメンツを賭けて、ハクヒはハラクロ商会を潰さなければならなくなった。
そんな中で政府側までも相手にはできない。
だからこそ、ハラクロ商会に手出しをさせないためにも、ハクヒは本家補佐官の呼び出しを断ることはできなかった。
そしてハクヒは殺される。
その全てが最初から政府により描かれた絵図だったのだ。
しばしハクヒは考え込んでいたが、スッと1人の男が部屋に入ってきてハクヒに耳打ちをする。
ハクヒは苦々しく首を横に振ると男は来たとき同様、静かに部屋を出て行った。
そして、ハクヒは俺に言う。
「テメェ……、一体なにもんだ?」
情報の裏付けでもできたのだろう。
部屋に入ってきた男は、俺を始末するかどうか尋ねてハクヒがそれを止めた、というところだろうか。
自らの死の情報を告げられ、ハクヒは殺気を込めて俺を睨んだ。
すべては知り得るはずのない話であり、口に出して言われてしまえば、その可能性は十分あり得る、そんな話だ。
そんなハクヒに俺はニヤリと笑って返す。
「ただの傭兵だよ」
事実だから、他に言いようがあるまい?
殺気さえ伴う威圧。
それを俺は流す。
ハクヒはしばし俺を睨みつけ……。
やがてソファーに身を沈ませ、大きく息を吐いた。
「……情報の貰いすぎだな。
そのグレイルっつーやつのことはこっちで引き受ける。
あんたらは予定通り出港してくれりゃあいい。
ソン家の名に賭けてもいい」
ハクヒが提示してきた条件はかなりの好条件。
「そりゃ、ラッキーだな。
いいのかよ?」
「あんたに借りを作れるならお釣りがくる。
……ったく、あんた何者だよ。
迷子の兵士の保護に、出所の分からない得体の知れない情報、しかも現状を踏まえて随分筋が通っているときた」
何者でもない。
本当にただの傭兵だ。
怪しい研究の手術で変な知識を植え付けられた失敗作に過ぎない。
「言えねぇ。
言わねぇじゃなく、言えねぇと言えばあんたは理解できるだろ?」
勝手に深読みさせる。
ゲームによる未来予測なんて誰が言えるか。
そんなことを言えば、バカにされたと思ってこの場で殺されるわ!
「……なるほどね。
ま、いずれにしてもあんたと繋ぎを持っておくのは悪くねぇ。
今回は貸しだがな」
俺に返す当てなんぞないぞ?
得体のしれない情報を持ち、腕も立つ。
背後になにかあると思うのも無理はない。
ゲームとかいう知識を持っただけのただの野良傭兵なんて想像もできまい。
「反乱軍経由で返すかもな」
そういう言い回しにしておこう。
どうせ遅かれ早かれ、こいつらは反乱軍と手を結ぶことになる。
言ったように、政府軍は是が非でも南郡という豊かな経済圏を手に入れたいのだから、そこにソン家がいては邪魔なのだ。
「あの嬢ちゃんたちはあんたにとってなんだ?」
ハクヒはそれに訝しげに尋ねる。
俺が反乱軍に所属していないことは調べていそうだな。
「ただの敵だよ。
俺は政府軍ではないけどな」
なんだそりゃ、と呆れた様子。
その敵の仲間を取り戻すために交渉しているんだから、呆れられても仕方がない。
「あんたが空いてたら、俺が真っ先に声かけさせてもらうわ」
「そりゃどうも」
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