第22話ハクヒの未来
通常ならソン家の屋敷に行って、ハクヒに会いたいと言ったとことで会えるわけがない。
そこは便利なゲーム知識。
ハクヒに繋ぎをとるための符牒を知っていたりする。
大いに怪しまれたが、つい先日にハクヒ仲介のアルバイトをした際に出会ったハクヒの部下と接触できたことで、ハクヒの部屋にまで無事通された。
ソファーにふんぞりかえるハクヒを前に俺は早速本題を話す。
「この町で騒ぎを起こすが見逃してもらえないか?
代わりといってはなんだが情報を渡す。
あんたの生死に関わる情報だ」
「言ってみろ。
下らない情報なら責任を取らせる」
友好的だった関係もどこへやら、端的にそんな話をしたせいでハクヒは当然の如く苛立ちを見せた。
部屋にいるのは直立不動で油断なくハクヒのそばに控えるタイカだけだが、部屋の周りに人が隠れている気配がする。
ま、そりゃそうだ。
ソン家の長男だ。
命の危機など1度や2度ではあるまい。
それを跳ね除けてきた自負もあるハクヒはそれを挑発に感じたのだ。
そこで少し先の未来、ハクヒが殺される際の背景を予測と情報として示す。
「数ヶ月は先だが、ある状況になった場合。
あんたはその脅威を退けられずに殺される可能性がある」
「続きを」
「ハラクロ商会の商会長ゲンナーは当然知っているな?
あいつが政府のエンド補佐官と本家と分家の関係であることは?」
ハラクロ商会はこの南郡で幅を利かせている大商会だ。
元は中央の貴族の分家だったが、東側にある本家と折り合いが悪く、事実上対立している。
「当然、知っている。
本家のエンド補佐官とは対立関係にあるから、ハラクロ商会は秘密裏に西側に支援を回して本家の足を引っ張ろうとしている」
同時に南郡の勢力も伸ばしたいために、ソン家とも張り合っている。
当然、警戒する相手ではあるが単独ならどうとでもなる。
「その前提が崩れたら?」
ハクヒは呆れるようにソファーに沈み込む。
「おいおい……、話にならん。
ゲンナーの欲深さは筋金入りだ。
今更、本家に取り入ったところで肝心の商会さえもぶん取られかねないのに、本家にすり寄る真似をするはずがねぇ」
「数ヶ月内で反乱軍が壊滅に近い被害を受けたら?」
「……なにか動きがあったのか?」
逆にハクヒは身を乗り出す。
政府軍の動きは南郡のソン家も他人事ではない。
東と西のバランスがあってこその南郡の自治だ。
どちらか……主に東に傾けば、その自治が取り上げられる可能性は高い。
「さすがに現時点ではっきりとした動きがあればわかるだろ?
だがまあ、そうだなぁ……」
俺はメモ用紙を取り出し簡易な地図を書く。
「旧都ラクトに秘密裏にエネルギーが集められている。
同時に新型魔導機も。
あくまで研究ということで、逆に軍事施設は見かけ上、次第に手薄になっている。
……あくまで仮に、だが」
俺はアリスたちがオカルトマシーンを手に入れ、同時に2人が死亡する戦いについて説明する。
反乱軍は旧都ラクトに乗り込めれば、帝都ホクケイまでは僅かに300kmであり首元を押さえることができる。
だから反乱軍はそこが喉から手が出るほどに欲しい。
ラクトの奪取を反乱軍の優先目標に指定しているほどだ。
それを利用し反乱軍主力を誘い出し、北部の都市ジョウトに隠していた部隊と挟み込む。
大河の北側に追い詰めてすり潰す。
簡単にいうと旧都ラクトを囮に北と西から物量による波状攻撃と、逃げた先で更なる伏兵を用意しているということだ。
局地戦などの戦術レベルでは歴史上まれにみるが、これが各大都市規模にまで広げた戦略レベルではまずみられない。
これだけで政府軍がいかに優秀かわかるというものだ。
動きは僅かながらすでに着々と準備が進められているが、これがそのための大規模作戦の前振りだとは誰にも想定がつかないことだろう。
「急激に戦力比が崩れるなら確かにゲンナーも予想につかない動きをしてもおかしくはない、か。
可能性ってわりには随分具体的だな?
政府軍の参謀にでもなった方がいいんじゃねぇか。
それに反乱軍とは早いところ縁を切った方が得策か?」
ハクヒが俺の意図を探るようにそんなことを呟く。
今度は逆に俺がソファーにゆっくりともたれ、自信満々に言い放つ。
「いや?
それでも反乱軍が勝つんじゃねぇの?」
俺の言葉にハクヒはわけがわからないと顔をしかめ、タイカもわずかに興味深げに俺を眺める。
その戦いにおいて、アリスが暴走させたオカルトマシーンのおかげで反乱軍はわずかにできた西南への道を突破し、辛うじてその命運を繋げる。
しかし部隊の第2、第3、第4が壊滅。
本拠地シーアを守っていた第1と寄せ集めの第5部隊のみになり、勢力は半分以下となってしまう。
それを引き金に政府軍の暴走は加速。
結果だけでいえば、帝都決戦にて反乱軍が民衆の力を結集し政府軍を撃ち破るのだから、戦争というのは本当にわからない。
アリスが命懸けで乗ったオカルトマシーンが反乱軍の運命を変えた。
本来なら旧都ラクトの研究所に隠されていたオカルトマシーンは戦闘には使えないはずだった。
なぜなら帝室に認められた者だけが操縦できる、そんな魔導機だったから。
まさか反乱軍の旗頭のはずのアリス皇女自身が、危険な旧都ラクトへの新型魔導機奪取作戦のために潜入を試みるとは夢にも思わなかっただろう。
そのオカルトマシーンの名はマークレスト。
マークレスト帝国の最終決戦用魔導機である。
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