第24話彼女たちがあなたに向けている視線

 俺が席を立つと、いままで黙っていたタイカが進み出た。


 ハクヒも不思議そうにタイカを見つめているので、本人の意思らしい。


「ハクヒを助けてくれてありがとう」

 その声は大きいものではなく、前回の遭遇時とは違い静かな音色で、タイカが女性であることをようやく知った。


「別に?

 暴れる際の詫びのつもりで知ってた情報を提供しただけだ」


 不思議なのはタイカは俺の話を丸々信じたことだ。

 ただの可能性でしかない話なんだが……。


「あんたはもしも俺がグレイルとかいうヤツのことを引き受けなかったら、どうするつもりだったんだ?」


 初めからハクヒの手助けを期待はしていなかったから、引き受けてくれたのはラッキー以外のなんでもないが。


「施設を直接襲撃して、さっさとグレイルって奴を掻っ攫って船に乗せて、俺はそのまま別方向にとんずらしようと思ってたさ」


 だからまあ、それなりどころか。

 まがりなりにも政府の収容施設襲撃なので、かなりの騒ぎにはなっていただろうな。


「なん、だそりゃ……」

 今度こそハクヒはガックリとソファーにもたれて脱力した。


 普通はしないし出来ないだろうが、俺には十分やれる自信があった。


 さすがにそのまま3人娘と船には乗れないだろう。


 なので、3人娘はここでおさらばするつもりで置いてきた。


 旧都ラクトの戦いでの不安はあるが、俺が教えたことを学びとり、苦難を超えてもらえることを信じるのみだ。


 その後、俺が潰すけどよ。


 馴れ合いたいわけでもないし、次会うときに苦難を乗り越えて、戦場で俺を楽しませてくれればそれが何よりの報酬だ。


「……ひとつだけ。

 彼女たちが貴方に向けている目は私がハクヒに向けている目と同じだった」


 タイカはそんな意味ありげな言葉を呟き、またハクヒの後ろに控えた。

 俺は苦笑いで返すしかなかった。


 そりゃ困ったもんだ。


 随分、懐かれたものだが俺は本気のあいつらを潰したいだけなんだからな。






 グレイルはソン家の手で救出されて、反乱軍に後日返還される。


 そんなわけで宿に戻ると。


 クララとセラが手に持った握り飯を味噌汁で流し込んでいて、アリスはよだれを垂らしながら幸せそうに昼寝中。


「てめえら余裕だなぁ〜?」

 俺は部屋に入るなり、真っ直ぐベッドに寝転ぶアリスのほっぺたを引っ張り起こす。


 アリスの頬はびっくりするぐらい滑らかで柔らかかった。

 よく伸びる。


 よだれを垂らして眠りこけていた皇女ではあるが、それでも皇女。

 しかし、クララもセラもそれをとがめることなく、おにぎりとみそ汁を手渡してくる。


「……クロ師匠もおにぎり食べて」

「すぐ動くとなれば食事もままならないでしょうから」


「お、おう」

 俺は握り飯と味噌汁を受け取る。

 握り飯は塩加減が絶妙で中には梅干しが入っており美味かった。


 セラが料理を作ったようだが、意外と料理が得意だったようだ。


 たしかに見た目は清楚でそれっぽいが、アリスたち同様、ポンコツぶりが前面に出過ぎて料理ができるイメージにはならなかった。


 アリスもつねられて文句を言うかと思いきや、すぐに身体を伸ばし言った。

「師匠!

 お待ちしてました、いつでもいけます」


 つまり、こいつらはすぐ出撃できるように準備をしていたというわけだ。

 動き出せば飯も睡眠も取る時間はないかもしれない。


 食えるときに食い、寝られるときに寝る。

 こいつらが正しい。


 握り飯を持ったままで固まっていた俺にアリスは首を傾げて顔を近づける。

 青い瞳が吸い込まれそうなほどに澄んでいる。


「それで師匠いつ出ます?」

「ああ……、もう済んだから休んでていいぞ」


 アリスはガビーンと言いながら、手足をピンと伸ばし目を丸くして驚きを表現する。


 独特な驚き方をするな、わざとだよな?


「えっ!?」

「この短時間で……?」

「済ませたって、まさかクロ師匠。

 クレイルさんを始末しちゃったんじゃ……」


 なんでやねん。

 助けてと言われて始末してくるヤツとか恐ろしすぎるわ。


「んなわけあるか。

 ハクヒに任せたんだよ。

 あいつが引き受けてくれるなら間違いはない」


 3人同時にズザザと身体を引いて、ポーズを取るように驚きを表現する。


 ねえ、キミたちはそのポンコツ具合を練習してるの?

 素で出来ると思えないんだけど、ねえ?


「ハクヒさんが?」

「一体どうして……、よほどの条件でもないとソン家が動くわけが……」

「クロ師匠なにしたんです?」


 なんと言って良いか分からず、お話だけだよ、と俺は真実をそのまま口にして肩をすくめた。

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