第43話強襲ブルーコスモ
「ぶーぶー、クララだけずるーい。
私も師匠と手繋ぎデートしたーい、むぐむぐ」
大人の手のひらサイズのパンを器用に口にくわえてもぐもぐと食べながら、アリスがしがみ付くように俺の腕を掴む。
その斜め後ろでセラは無言でジーッと俺を見ながら、両手で同じサイズのパンを持ってもぐもぐと。
俺はセラにとって目で見るおかずかなにかだろうか?
食堂でゆっくり食事をしてくれば良いのに、俺たちを追いかけるためにパンだけ持って追いかけてきたらしい。
仕方なしに3人でスペランツァの待機している区画にまで戻る。
スペランツァ乗務員レギュラーメンバーはスペランツァの部屋がそのまま自分の部屋になっている。
長期休暇になれば、拠点のどこかで部屋を用意してくれるが、今回は次の作戦までの補給期間。
その期間だけでも宿を別に取るものもいるが、俺たちはそのままスペランツァの部屋を使っている。
俺は軟禁されていた部屋をそのまま使っている。
スペランツァが見えてきたときに、クララの通信デバイスに連絡が入る。
通信員のハーミットだ。
ポニーテールの可愛らしさのある子で魔導機隊に人気だ。
通信員は可愛い子を配置した方が士気が上がりやすいのはいつの時代も一緒だ。
なお、ポンコツではない。
「所属不明の空中戦艦がこちらに急接近しています。
帰還可能のパイロットは至急出動待機をお願いします!」
所属不明も何も、反乱軍じゃないなら敵一択だろうが。
俺はクララの通信に割り込む。
「通信員、敵空中戦艦の色は何色だ?」
「えっ、えっ?」
俺は早速渡された所属証を見せる。
「第5部隊スペランツァ魔導機部隊所属、クロ中尉だ。
改めて確認するが敵空中戦艦の色は何色だ?」
「色? えっ、色?」
反応が遅い。
それとも知らない顔の中尉だからか。
そもそも色での判定を知らないのか。
多分、全部だな。
「クララ」
クララに説明してもらおうと思い、隣に視線を向ける。
クララは視線だけで俺の意図がわかったらしく、すぐに通信員に呼びかける。
「ハーミット、敵空中戦艦は視認出来て?
出来ていたらその色を教えて」
「えっ、あっ、色は……青っぽい?」
「青……、ブルーコスモか。
政府軍第3部隊強襲型空中戦艦ブルーコスモの可能性大。
スペック、サイズ、能力、所属配置に戦闘経歴に部隊編成、洗いざらい伝えるぞ?
それで検索かけろ。
ヒットした情報は最優先でこの通信デバイスとセラの魔導機にデータを送ってくれ。
それと写真データ。
それから俺はアリスに振り返る。
残ったパンを口いっぱいに入れて、もぐもぐとさせてながら頬を膨らませたアリスに。
「コーラル艦長にスクランブル要請。
出遅れたらここに直撃を受けるぞ」
通常、基地への強襲の場合、基地の即応部隊が対応する。
しかし、俺の想定通りなら即応部隊では対応が間に合わない。
ゲームの知識ではない。
まったく無関係とも言わないが、このタイミングで政府軍第3部隊の強襲はなかった。
ヤツらが仕掛けてくるのはもっと後半。
旧都ラクトの戦いで弱体化した反乱軍の本拠地シーアを強襲するのだ。
もっとも、そのときはもっと本格的なもので第3部隊単独ではなかった。
第3部隊空中戦艦ブルーコスモは強襲型で、奇襲戦法に向いている。
加速力と突進力が高く、ゲームでも拠点シーア攻略において戦況不利とみると大胆にもシーア本部に突っ込むような形で突進し、反対側に抜けて撤退を成功させている。
それを可能にしているのが、空中戦艦にスペックもあるが、第3部隊部隊長ラバー・ロスマイア大佐。
叩き上げの若き獅子で、褐色の肌で野生味溢れる容姿はそのまま苛烈な性格を現している。
その傲慢なまでの自信に合うだけの指揮能力も魔導機乗りとしての腕も一級品。
エリート揃いの第1、第2部隊と違い、実戦により培った精鋭部隊で、ゲームでも最後まで主人公たちの前に立ち塞がり続ける。
そんな精鋭とやり合ってみたかったんだ。
……いいや、喰ってみたかったんだ。
誰にでもあるだろ、あのときもしも俺ならとか、あーでもないこうでもないとか考えることが。
いまがそのときだというだけ。
アリスはパンをごっくんと飲み込み、素早く敬礼を返す。
「あいあいさー」
俺の言葉に迷いもなくアリスは将軍と面会中のはずのコーラルに通信を繋ぐ。
そのことにアリスではなく、クララが驚いて俺を見る。
「えっ、なんでアリスにコーラル艦長との直通通信ができるって知っていたんですか?」
「アリスが部屋でコーラルに通信して話してただろ」
本来、軟禁者の部屋云々以前に艦長との直通回線などない。
「師匠〜、コーラルさんが変わってだって」
「あいよ」
コーラルは多くは問わなかった。
時間がないからちょうど良かった。
「一つだけ教えて。
敵はどこから来たの?」
コーラルの問いは端的だ。
「東だ。
東をまっすぐ渓谷を抜ける。
俺ならそうする」
反乱軍の前線の配置は、旧都ラクトに繋がる北側へ第2、4部隊。
俺たちが通ってきた南側へ通じる地域を第3、5部隊。
その中間部は魔物も蔓延り、人もろくに住まない天然の険しい山脈の要害に阻まれている。
地を通るにも困難であるうえに、上空は鉄壁の監視網。
拠点シーアに接近するには、空中戦艦の幅ギリギリの山脈の間を突破するしかないが、それには卓越した操縦技術に魔物を即座に蹴散らす魔導機たちが必要だ。
山肌に接触するだけで終わり。
そんな豪胆不敵なまねを仕掛けて、相手の不意をつくことができる。
政府軍ラバー大佐率いる第3ブルーコスモ部隊は、そういう連中だ。
だからこそ、喰いがいがある。
「まさか?
……いえ、いまはそれを問うときではなかったわね。
スクランブルを許可します」
疑問は残りながらも決断は迷わない。
有能だな。
「助かる。
ああ、それと……」
俺はついでとばかりにいくつかの準備を頼んだ。
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