第44話喰らう
繰り返すが、ゲームではなかった展開だ。
旧都ラクトへ確実に反乱軍を誘うためには、反乱軍に精神的な余裕を無くさせなければならない。
そうすることで北の反乱時に、今こそ反撃の刻と反乱軍に思わせ、旧都ラクトに誘い込むのだ。
人はうっぷんが溜まると、それを晴らしたいと思い冷静な判断を失くす。
ギャンブルとか特にそうだよな、戦争もギャンブルみたいなもんだし。
ゲームなら、特務隊が南側をかき乱し、第5部隊のみならず、第3部隊にもそれなりに被害が出たはずだ。
だが、見かけ上は第5部隊に被害は出させても、事実上、特務隊は撃退されている。
ましてや第3部隊には被害らしい被害はないまま。
そこで政府軍はなんらかの手段で反乱軍の余裕をなくさせる必要が出た。
そこで歴戦の勇である第3部隊が大胆にも反乱軍拠点シーアへの強襲を仕掛けて、反乱軍を焦らせようとしたのだ。
……とまあ、それが俺の想定だ。
まず外れていないだろう。
そのための、要は一撃離脱戦法だ。
それで旧都ラクトで反乱軍は焦り追い詰められ、苦境を脱するために3人娘はその命を捨てる。
……だから。
「させねぇよ」
ラバー大佐とブルーコスモ、おまえらはここで俺が喰う。
スペランツァに戻り、そのままハンガーへ直行。
パイロットスーツは着ている間はない。
黒い魔導機に乗り込み、エネルギーゲージを確認。
「さすが補給は完璧だな」
これこそが軍に所属する最大のメリットだ。
追加のエネルギーパックまではないが、いまはこれで十分。
「リミッター解除」
リミッターを外し、全エネルギーを放出モードに切り替える。
当然、連続した戦闘が想定される場合は絶対に使えない。
文字通りリミッターを外し、エネルギーをすべて使い切る代わりにその性能を跳ね上げる。
この魔導機独自の隠し機能だ。
「アリス、クララ、セラ。
さっき話した通りだ。
特にセラ、頼んだぞ」
「……ガッテン承知」
話しながらも計器をぱちぱちといじる。
整備したてから俺好みのチューナップに近づける。
「アリスは慣れない機体だ、クララしっかりサポート頼む」
「わかりましたわ」
「あいあいさー、師匠!」
スペランツァの射出ブースターに乗る。
勝負はさほど長くはかからない。
向こうも一撃に賭けているのだから。
「……いくぞ」
「「「了解」」」
急加速で飛び出す。
すでにスクランブルで基地から飛び出したシーア守備隊の航空機、さらには守備隊の魔導機が次々に撃墜されていくのが見えた。
「あそこか」
俺はフットレバーを全開で踏み込む。
その加速は気を抜けば、意識を失ってしまうもの。
だが、この瞬間がたまらない。
最初に反応したのは、ラバー大佐のデータ型カスタム。
指揮官用の特殊改造をしたエース機だ。
ゆえに反応が早い。
状況を理解する前であろうに銃口をこちらに向ける。
「さすがだな、だが!」
「なっ!?
キサマいったい……」
閃光が僅かに逸らした俺の機体の横を掠める。
それと同時にぶつかるように魔導機並のサイズに伸びたサーベルがラバー大佐のデータ型カスタムを貫く。
リミッターを外しエネルギーを注ぎ込みバーストさせ、魔導機サイズに拡大させたサーベル。
「名付けるならバーストサーベルってか?」
これならエネルギーパックを充填し強固なバリアを発する特殊機であろうとも貫ける。
ゲームではこれから何度も主人公たちを苦しめたはずのラバー大佐を乗せたデータ型カスタムが爆散する。
「大佐!?」
「ば、ばかな……」
残されたブルーコスモ所属魔導機が動揺を示す。
空中戦艦から飛び出している魔導機は9機。
それがもっとも機動性の高い9機だろう。
スピード重視で幾分搭載機を減らしていても、おそらく30機は残っていよう。
それもデータ型以上の魔導機だけが。
全員が精鋭なので、動揺も一瞬のことだ。
それらよりもなによりも冷静な判断を下せるラバー大佐が邪魔だった。
俺は反応の遅れた9機をすり抜け、空中戦艦ブルーコスモの
1発だけバズーカを発射する。
強力なバズーカだ。
しかし、空中戦艦はその巨体に合うだけのエネルギーパックを積むことができる。
実弾兵器であっても、そのエネルギーパックにより張られたバリアを貫くのは容易ではない。
バーストサーベルなら貫けるかもしれないが、近接武器が届く艦橋に接近するのも困難なうえに、そもそもそれだけのエネルギーが残っていない。
だが、今回はこれで十分だ。
バリアに阻まれたバズーカの弾丸が破裂すると灰色の煙が空中戦艦ブルーコスモの直接の視界を奪う。
「やれ、セラ!」
スペランツァから射出後、素早く位置取りを終えたセラが通常よりもロングサイズのライフル銃を構えている。
「……任せて」
放たれたのは1発。
ブルーコスモは強襲型戦艦として、レーダーが艦橋のすぐそばにある特殊な型だ。
その小さな1点をセラが遠距離から射撃したのだ。
ここからでもカンと小気味良い音がブルーコスモの艦橋付近から響く。
もっともブルーコスモ乗組員からすれば、カンどころの音ではなく、凄まじい打撃音だろうが傷一つつかない。
同時に特定周波数の波が耳に届く。
音波爆弾をレーダーにピンポイントで直撃させて一時的に反応を無効化したのだ。
並の腕では幸運が重なっても絶対出来ない超絶技巧。
そうはいってもせいぜい数分……5分程度しか保たないが。
それで削り切れるかは賭けだ。
削り切れなければ本拠地襲撃されて逃げられて、反乱軍はいい恥さらし。
今後は士気が劇下がり間違いなしだ。
下を見ると、アリスの乗った重装装備のガンマ型とそれを
重装装備は当然重い。
なので牽引することで少しでも早く持ち場に移動させたのだ。
なんとか射程内に間に合ったようだ。
「アリス!」
「あいあいさー、いっけぇぇええええ!
マルットフルバーストぉぉおおお!!!!」
掛け声と共に重装装備のガンマ型から大量のミサイルと砲撃がブルーコスモに向けて発射される。
乗ってるのマルットじゃねぇし。
炸裂音があたり一面に響く。
それに合わせて俺も銃砲をブルーコスモに向けて放つ。
遅れて基地側からもブルーコスモの1点に向けて砲撃とミサイルが放たれる。
エネルギーパックを大量に積みバリアを張った空中戦艦は強固な空の要塞である。
おそらく相手はこの作戦に対し、過剰なまでにエネルギーパックを積み、その潤沢なエネルギーでバリアを破られぬようにして強襲をかけた。
おそらく今からでも真っ直ぐに基地を突き抜ける形で、全速力で突っ切れば逃げ切れるだろう。
だが、視界が完全に塞がれたとき、人はその勇気ある決断をためらう。
ましてや、その前面にこそ火力は集中されているのだ。
バリアがあろうと命を奪う砲火に向かって突き進むなど、正気ではできないだろう。
なので、空中戦艦ブルーコスモは機動は直線上になり、対空砲火も狙いが定まらない。
レーダーが使えない五分間は。
それでもラバー大佐が生きていれば、突破しえただろう。
それを1番に封じた。
破砕音は続く。
贅沢なエネルギーパックをガン積みしてバリアを張った空中戦艦がいかに強固なのかわかるというものだ。
やがてスペランツァの主砲のビーム砲が閃き、ブルーコスモの艦橋を貫いた。
そこから一気に連鎖するように空中戦艦ブルーコスモはゆっくりと、しかし大量の煙を噴きながら大地に墜ち、轟音と共に
「あばよ」
これで政府軍の空中戦艦は7隻、反乱軍は5隻。
戦力差は縮まった。
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