第40話アリスの真の姿

 さて、アリスが連れて行かれたのはいいとして。

 なぜか俺までお偉かたさんのところにまで来るように連絡が来た。


 契約のことについて話したいと。


 反乱軍拠点という意味だけではなく、シーアは西側随一の大都市だ。

 ここまでの大都市になると前線のギスギスした緊張感は少なく、むしろ戦乱の特需でかなり賑わっている。


 シーア到着時にスペランツァで上から見た景色は圧巻だった。

 あの絶景を見られる立場の者はそうはいないだろう。


 車で別棟に移動する中、警護用の新型のデータ型魔導機も見える。

 シーアを護っているのはエリート集団の第1部隊だ。


 ほとんど戦場には出てこないが、ゲームでは旧都ラクトの戦いの後、この本拠地シーアが強襲を受ける。


 そのときは第1部隊と第5部隊がなんとか敵を撃退するのだ。


 第1部隊の方がエリートで新機体が多いが、第5部隊は歴戦の勇であり、旧都ラクト戦後義勇兵を含めた多種多様の機体の混成部隊で、マークレストみたいとまでは言わないが、特殊な魔導機がゴロゴロと。


 その第5部隊が戦局を変える事態に発展していく。

 いずれそいつらとも戦ってみたいものだ。


 さて連れて来られた場所は、参謀室。

 そこには反乱軍の首魁しゅかいが目白押し。


 こんなところにただの傭兵を呼ぶなんて、理由といえばポンコツ皇女のことしかあり得まい。


「彼がそうです、将軍。

 私たちを救出し、道中私の師匠となってくれました」


 中央のロマンスグレーの壮年の美丈夫が総大将のロドリット将軍だろう。

 なるほど、軍の重鎮らしい威圧感がある。


 だが、それよりも俺は別のことで自らの目を疑った。


 そこにはたおやかな笑みを浮かべ、されど高貴さと気高さを持ち真っ直ぐに立つ皇女がいた。


 やはり、あの姿は世を忍ぶ仮の姿か。

 一度、わざとか問いかけたときは上手く誤魔化されたが、やはりこちらが真の姿だったか。


 俺の本当の目的にまで気取られはしていないはずだ。

 現在においてアリスたちに不利益はもたらしていないからだ。


 だが、そこまで騙し切る知謀に胆力。

 どれを取っても油断できるものではない。


 もしも、皇女が全てを気づき、自らさえも道具に使い俺を手駒にすべく策を練っていたとすれば、アリスの直感力は予知能力と大差がないのではないかと考えられる。


 現状において、俺のゲームの知識を使えばこの内乱は間違いなく反乱軍の勝利で終わるだろう。

 それも圧倒的に。


 されどその際にゲーム通り、3人の誰か……主にアリスの犠牲は必要になるだろうが。


 それだけ旧都ラクトにおける政府軍の罠は深く恐ろしいものであり、それを抜け出すのにアリスの乗ったマークレストの暴走は必要不可欠な戦力といえた。


 劣勢の反乱軍を勝たすことよりも、主人公であるはずの彼女たちの生存の方がずっと困難なのだ。


 つまり、皇女が自らを餌に反乱軍の勝利に全てを捧げていたとしても、俺はそれにそのままやすやすと乗らされてはいけないのである。


 勝利の鍵が自身の命にあるならば、皇女が迷うわけがないのだ。

 事実、3人娘はそうやって死んでいったのだ。

 もしくは……それを超えてでも生きたいと思わせるか。


 その奇妙な相反する状態をアンビバレッジといったか。


 誰よりも3人娘を戦い倒そうと思うが故に、彼女らを救わねばならないとはいっそ愉快ではある。


 それら一切を表情には出さず、静かに敬礼をする。

 傭兵であれど、多少の礼節ぐらいある。


 さて、将軍はなんというか。

 その前に皇女はキリリとした表情のまま言葉を続けた。


「彼は私の将来の旦那様です」


 それでも俺は自らの思考に引かれ、全ては深い思惑の中かと思いかけた。

 俺の能力に気づいて完全に囲い込むつもりなのだと。


 しかし周りの絶句したような反応。


 それに時間が経つごとに増すアリスのドヤ顔と自信ありげに胸を張る姿を見るまでは。


 やっぱりポンコツが本性かよ!!!!


 その視線がクララとセラの分を除き、一斉にこちらを向く。


「……冤罪えんざいです」

「ええっ!?」


 なぜか直立に身体を伸ばし、器用に驚くアリス。

 こいつ……、既成事実がないのに既成事実をつけようというのか!


 やっていることは無茶苦茶なのに、あまりにポンコツな反応のせいで憎めないのが余計に腹ただしい。

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