第33話夜襲
「夜襲ですか?」
アリスが真剣な顔で問い返す。
「その様子だとコーラル艦長以下、誰も気づいていないようだな。
至急、コーラル艦長に連絡を取り警戒にあたった方がいい」
無警戒で夜襲を掛けられれば、最悪、撃沈の可能性がある。
素早くアリスは動き、部屋に備え付けられていたパネルを操作し
「コーラルさん、急ぎ!」
……っていうか、この部屋から直通で艦長たちのいる
「先生、夜襲は間違いないのですか?」
クララの言葉に俺は頷く。
それを聞いて不安そうな様子のセラ。
「コーラルさん、すぐ来るって」
艦長が直々にこっちに来てくれるのかよ。
アリスたちがそのまま報告に行けばいいだけなんだがな。
「師匠のありがたいお言葉を直接、
「待たんかい。
俺はどんなお偉いさんなんだよ!」
アリスは実に不思議そうに首を傾げる。
「えっ、私たちのお師匠様ですけど?」
俺はここに来るまで何度も聞いた言葉を再度聞いて、なんとも力が抜ける感覚がする。
正式な皇女の師匠ともなれば、それなりの地位といえなくもないかもしれないが、アリスは一兵士扱いのはずでもあるし、事実はただのライバルキャラでしかない。
こいつはなんでこんなに俺へ絶対の信頼を置いているんだ。
すぐに扉が開いて、艦長コーラルとおかっぱ黒髪の副官ルーマリア、それに魔導機乗りのオリバー大尉とコルスヴァン中尉だったか。
オリバー大尉は魔導機隊の隊長で無精髭の不良中年で、ごつめの緑色のデルタ型改のパイロット。
コルスヴァンはグレイルとタッグを組んでいる青い指揮官機のパイロットだ。
「アリス!
なんでここに……」
コーラルは急いで来たらしく、荒い息を吐きつつ俺を見て驚きで目を見張っている。
さすがに軟禁しているはずの俺のところへ来ているのは艦長了承済みではなかったか。
「そんなことより特務隊による夜襲が来ます。
すぐに準備を」
そう告げたアリスは凛としていて、皇女と言われても通じるナニカを持っていた。
アリスの言葉にコーラルは真剣な顔で問い返す。
「……直感?」
それはからかったり、馬鹿にしたりする響きは一切ない。
まるでただの直感にそれほどの精度があるかのような。
だが、反対にアリスは苦笑しながら首を横に振る。
「直感は未来予知じゃないから、そういうことまではわからないよ」
それから俺を振り返りいつものアリスの表情に戻る。
そして、小首を傾げる。
「師匠、なんで夜襲が来るの?」
俺に全振りかよ……。
全員の視線が俺に向く。
副官のルーマリアなどはあからさまに不審げな顔をする。
そりゃそうだ。
飯の最中だったんだが、他の誰も夜襲に気づいていないなら急いだ方が良いのは確かだ。
俺はため息を吐いて、その問いに答える。
「特務隊とバーゼル中佐は自業自得ではあるが追い詰められているんだよ。
いまのところ南側の西方直近まで出張って貴重な特務隊の部下まで減らして、自分の魔導機は腕を斬られて」
「腕を切ったのは先生ですけどね」
ニコニコと嬉しそうにクララが付け加える。
非難しているのではなく、特務隊の隊長バーゼル中佐を追い詰めた俺の成果が弟子として嬉しいんだと。
こいつもなんだかんだで俺を信用しすぎだ。
「続きを」
コーラルは警戒をしながらも話の先を促す。
俺の存在が怪しくても話を聞くということだ。
「なので、ヤツはどうあっても手柄を持ち帰らないと自分の立場がやばい。
そこに政府軍でも最大の攻撃目標でもある空中戦艦が姿を見せたんだ。
これを撃沈できれば、負債は帳消しどころかお釣りが来る」
特務隊だけでそれができれば出世は間違いないだろう。
バーゼル中佐率いる特務隊は、当初は南側配置の反乱軍をかき乱して遊ぶ程度の気持ちだっただろうが、完全に引けない状況に追い詰められてしまったのだ。
なお、ゲームでは特務隊による夜襲は行われていない。
西と東の境目にある村々を襲って、それを反乱軍の責任かのように喧伝していたはずだ。
何個目かの村でそれを俺がたまたま偶然防いだせいでこんなことになっているとは今更だ。
特務隊の代わりにマドック大尉率いる西方守備軍が執拗にアリスたち3人娘を追ってきていたが、スペランツァ合流時に撃退されて撤退しているためこちらも夜襲は行われていない。
なので、主に俺のせいであることは言わないでおこう。
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