第31話営倉行き
実際に空中戦艦の中に入ったのは初めてだ。
ゲームではその能力しか示されていないので、その内部構造を見るのも初めてで思った以上に広く感じる。
マークレスト帝国が誇る15隻の空中戦艦は国家的な軍事資産とも言えるものだ。
宇宙にも適用可能なその空中戦艦は現在、政府軍8隻に反乱軍5隻に分かれている。
2隻については解体中で、どちらの所属でもない。
強いていうならば、政府側になるだろうが実戦で使える状況ではない。
空中戦艦は通常時、魔導機50機、航空機とヘリ合わせて10機、戦車や装甲車10台を搭載して作戦行動を行う。
飛行可能な機体も多いので、やはり魔導機が勝負を大きく分ける。
部隊としては1部隊魔導機100機編成でそれを作戦に合わせてローテーションを行う。
戦場の主流が魔導機である以上、それを収容・整備が可能な移動戦艦の需要は計り知れない。
旧都ラクトの作戦では、その空中戦艦4機魔導機400を動員しての大作戦だった。
その貴重な戦略兵器にそう簡単に信用できない者を乗せるわけにはいかない。
当たり前だが、俺がアリスたちを拾った経緯を話せば疑われないわけがない。
逆に怪し過ぎて密偵であることは考えづらいだろうが、それでも重要拠点でもある戦艦スペランツァの中を自由にさせて良いほど信用できるわけはない。
結果だけをいえば、俺は身辺調査が済むまでは監視付きで部屋に軟禁状態になるそうだ。
捕虜などを軟禁するための部屋、つまり営倉行きだ。
それだけ俺は怪しすぎるというわけだ。
そりゃそうだ。
今回も含め、特務隊をあっさり退けたことが、逆に特務隊の仲間の可能性もあるからだ。
それだけ最新機であるデータ型で編成された特務隊を単騎で退けることはあり得ないことだ。
実際のところ単騎ってわけではなかったが、現場を見た者もこの場にはいないので証拠はどこにもない。
アリスたちに手を出さなかったことも状況証拠としてはよくない。
皇女と知らないはずなのに、見目の良い3人の誘惑を跳ね退けること自体が、男色ではない普通の男ではあり得ない。
……ポンコツどもの実態を知れば、どうみても面倒ごとにしか思えんだろうが。
銃持ちの警備兵が艦長コーラルと共に格納ドッグにて駆け寄って来て、キリリとしつつもどこか申し訳なさそうにそう告げた。
それでもアリスたちを拾ってここまで連れて来たことは深く感謝をされた。
それはそれ、これはこれである。
そしてアリスたちにこれまでの経緯を確認する中で、とあるポンコツ皇女が突然宣ったことがますます俺の立場を微妙にした。
「私は運命に出会いました」
「ア、アリス……、貴女ずいぶんテンション高いわね?」
元からずっとこのテンションだと思っていたがどうやら違うらしい。
ゲームではそこまで描写はしないせいで気づかなかった。
いっそ薬物で従わせていることすら疑われかけた。
むしろなんでこんなに俺を慕っているのか、俺の方が知りたいわ!!
クララとセラもそれに同意するように何度も首を縦に振っている。
頭を振りすぎてセラがへなへなと崩れ落ちる。
慌ててそれを支えようとクララが駆け寄って、そのままセラごとアリスに突進して3人一緒に転がったりしている。
そっと目を逸らしたら、同じように目を逸らしたコーラルと目が合った。
「……どうやら世話になったようね」
「……すっごく世話した」
俺は情感たっぷりにそう答えた。
「この娘たちもここまでポンコツじゃなかったはずなのに、ちょっと疲労が溜まりすぎているのでしょうね」
「なん、だと……?」
やはり俺はとんでもないことをしてしまったのか。
俺は心の中で両手両膝をつくほどに深く反省した。
こいつらが真人間になる機会を失わせてしまったのだ。
……いや、計画通りだ。
魔導機は精神に作用する。
変に真面目なやつより実は適度にユーモアあふれたやつの方がとんでもない実力を発揮したりするものだ。
前向きに考えよう。
「だ、大丈夫?
そうよね、貴方も東側の支配域の中をここまであの娘たちを連れて来てくれたのだもの。
疲れていないはずはないわよね……。
衛生兵!
彼を医務室へ!」
いいえ、俺の疲労はあんたらの皇女たちのせいです。
到着までは豪華一等室でゆっくりしてたから、そこまで疲労は溜まっていない、はず……。
心の中だけで項垂れているつもりだったが、あまりの真実に本当に両手両膝を床につけてしまっていたらしい。
気苦労という意味なら思いっきり感じていたが。
大丈夫、計算通り、多分。
「師匠ぉぉおおお!
死なないでぇええええ!
貴方との子供がまだ産まれてないのよ!」
「先生、いつのまに……」
「さすがクロ師匠、手の早さも一流……」
おまえら、黙ってろ!
あとアリス、肉体関係ないんだから俺との子は永遠に産まれないわ!
それはともかく俺は医務室で簡単に健康診断を受けた後、異常なしということで営倉用の部屋で軟禁されることとなった。
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