第30話帰還

「そっち、2時の方向だ。

 クララは回り込みすぎるな!

 セラは狙えよ、確実に潰していくぞ。

 アリスは……適当に突っ込め」


 俺たちは山の木々の間から戦場を確認して、その戦場に乱入した。


 モニターの中では空中戦艦スペランツァとそこに強襲をかける西方守備軍と特務隊の魔導機、およそ40機。


 ガンマ型が25機、データ型15機、各1機ずつが指揮官用の特別機だ。

 それなりの戦力といえよう。


 スペランツァ側を護衛する魔導機はガンマ型27機と特殊機体3機で数の上でも劣勢だ。

 上手く援護しないとアリスたちの帰る場所がなくなってしまうという現状だ。


「任せて、クロ師匠」

「言われずとも……!」

「師匠!? 私にだけなんか雑!」


 船の上ではぐだぐだと泣き言を言っていたクララとセラも戦場となると、しっかりと意識を切り替えている。


 おとぼけに見えてもさすがは主人公。

 2人とも立派な兵士ということだ。


 アリスはマルットの装甲と回避力を生かして、突っ込んで相手の中でミサイルぶっ放すのが1番効果的だ。


 今までは弾薬の残量を気にしながらだったが、目と鼻の先に第5部隊旗艦スペレンツァが飛んでいる。


 無事に合流できれば補給はなんとでもなる。


 その肝心の旗艦スペレンツァは西方守備軍と特務隊混成部隊の集中砲火を受けて、絶賛大ピンチだ。


 西方守備軍の指揮官はマドック大尉だろうか。

 意外と堅実に攻めてきている。


 ゲームでもことあるごとに、アリスたちの前に立ち塞がり撃退される。


 優秀なんだろうが貧乏くじを引かされるタイプで、今回も特務隊バーゼル中佐の要請という名の命令で連れてこられたのだろう。


 なので士気は大して高くない。

 特務隊を撃退するか、被害が大きくなれば勝手に撤退するだろう。


「1撃目で1人1機潰す。

 敵が気付いたところで確実にもう1機撃墜で、数は互角になる。

 あとは、余裕だろ?」


 不意打ちで少しでも数を減らす。

 通常、不意打ちであってもそう簡単に魔導機は墜ちたりしないが、それを可能にする技量をアリスたちはすでに持ち得ている。


「いえっさー、師匠!」

「了解です」

「わかった」


 また上官扱いを……いや、なにも考えていないだけかもしれない。


 俺が特務隊をボコボコにした話をアリスたちはあっさり信じた。


 もう少し疑えと言ったが。

「え? でも事実ですよね?」

 そう確信を持って言い返された。


 曰く、師匠ならなんかやってしまいそうだから、だそうだ。


 まあ、事実なんだけどよ。


「なんだ、貴様ら!?

 一体、どこの所属……」


 この後に及んで呼びかけてきた西方守備軍のガンマ型魔導機を銃砲の一撃で吹き飛ばす。

 まずは1機。


「おまえらの敵に決まってんだろ」


 走行しながら3人もついてくる。

 さらに射撃を放つ。

 また1機。


 ぼむぼむとゴムが弾むようにアリスのマルットが先行し、密集していた西方守備軍の中へ。


「な、なんだ、この丸いのは!?」

「マルットです!!」

 その場でサーベルを出して、最接近していた機体を素早く貫く。

 これでガンマ型が3機撃墜。


「ふぁいやぁー!」

 作業用魔導機には思えぬ俊敏な動きに警戒した西方守備軍が距離を取ったところで、一斉にマルットからミサイルが放たれる。


 魔改造作業用魔洞窟マルットの素晴らしいところは、ミサイルなどの兵器規格がどの魔導機とも適合することだ。


 つまりどの兵器も使おうと思えば使える。

 意外とすごい。

 なので、俺たちの機体の残っていたミサイルを全てマルットに積み替えておいた。


 それをいま一斉に放射。


 ドドドと爆裂音が響き、煙が舞う中を隙間を縫うようにしてセラが放った銃砲が敵を貫く。

 3機撃墜はいっているだろう。


 その間に俺とクララはスペレンツァに取りつこうとしていた特務隊の魔導機に、斜めに割り込むようにぶつかる。


 俺は飛び込みサーベルで特務隊データ型を斜め上から斬り裂く。

 上からの強襲に気を取られた魔導機をクララが突進。

 データ型も2機撃墜、と。


 そこでスペレンツァより通信。

 艦長のコーラルか。

 確かゲームでは妙齢の雰囲気のある美女だったな。


「救援感謝する。

 どこの所属のものか!」


 通信は俺に呼びかけたものだが、それを俺は無言でアリスに繋ぎ直す。


「コーラルさぁあああああああああん!

 いま帰りましたァァアアアアアアア!!」


「ア、アリス!?」

 探していた相手がまさかこういう形で戻って来るとは思ってもいなかっただろう。


 アリスもセラもこちらに移動を開始。


 逆に特務隊と西方守備軍は戦力を一瞬で削り取られ混乱中。


 そこをさらに俺は踏み込み、護衛をかいくぐりデータ型指揮官機に接敵、片手をサーベルで斬り落とす。


「その黒い機体、貴様ッ!」

「よお、バーゼル中佐だったか?

 相変わらずせこい点数稼ぎでもしようってか。

 残念だったな」


「クッツ!」

 片腕を斬り取られたバーゼル中佐は他のデータ型に護られつつ後退する。


 俺が追い打ちをかけないとわかると、後ろを向いて全力で逃走を始めた。


「撤退だー、撤退!」


 それを見て第5部隊のガンマ型と交戦していた西方守備軍も、指揮官機マドック大尉の指示で後ろを気にしながら撤退を開始した。


 相変わらず貧乏くじを引く立場のようだ。

 西方守備軍と特務隊が撤退したのを確認して、俺たちは戦艦スペランツァに乗り込む。


「コーラルさぁぁああん!

 私の師匠で旦那様を連れてきましたぁあ!」

「旦那様ぁ!?」

 アリスの戯言にコーラルが即座に反応する。


 誰が旦那様だよ。

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