第29話ちょっとエリート部隊がムカついたので

 さて、ゲームだと3人のうち2人が死亡して、残った1人と死んだ2人の魂が乗り移ったオカルト魔導機マークレストが活躍することになる。


 しかしながら当たり前だが、魂の状態より3人が生きてマークレストに乗り込んだ方が強い。


 艦船などは様々な計器や操作があるので多数の人員が必要だが、本来は各自反応が違うのだから、魔導機を複数で扱えば素早い動きは出来ない。


 複座式などの航空機もあるが、それとは違い魔導機で複数乗りできる。


 それを可能にするのが複数のパイロットを1つの脳として扱う魔導同調システムだ。


 簡単にいうと脳の働きのようなものだ。


 人の身体は直感を司る大脳基底だいのうきていや運動を司る小脳、思考や感情を司る大脳辺縁系だいのうへんえんけいなどがある。


 だから直感力に優れたアリスが回避を、操作技術の高いクララが魔導機の操作を、集中力が優れたセラが射撃を担当する。


 ゲームでは、マークレストで魂を取り込み他2人の能力を適用できるが、それは生きている1人に大きな負荷がかかっていた。


 なので最終決戦後、残った1人も戦う力を失い第5部隊から去っていくことになる。


 いずれにせよ、俺が戦いたいのは最強状態のこいつらだ。


 はっきり言えば、ゲーム後半のこいつらよりも今の俺の方が圧倒的に強い。


 ゲームの記憶がある俺は魔導機の全武器に魔導機の動きなどのありとあらゆる知識があり、それを利用できる。


 特務隊データ型に囲まれても、武器の射程や機動がわかっていればどうとでもできた。


 ゆえにゲームを超えた最強のこいつらと戦いたい俺は、俺の都合で3人には生きていてもらわないと困るのだ。


 俺が殺すその日まで。


 さて、クララとセラを怯えさせてしまった情報についてだが、俺はゲーム以外のことで誤魔化すことにした。


「俺がそういう情報を持っているのは、ちょっとした伝手つてで仕入れたからだ」


「だから先生、その伝手ってなんですか!?

 敵ですか、敵なんですよね!?

 降参しますぅー」


あまりに混乱しているせいか、泣きながら土下座しだした。

 降参すんなよ。

 クララは普段はしっかりしてるから、一度追い詰められると崩れるの早ぇえな。


 セラはすすり泣きつつアリスに宥められながら、恨めしそうにこちらを見ている。


 アリスがよしよしとあやしているが、アリスがお姉さん風にしているのは初めて見た。


「おまえらを俺が襲撃したとき、政府軍のやつらと間違えたと言っただろ?

 ちょうどその特務隊20機に絡まれて、5機ほどぶっ潰して逃げてたところだったからだ。

 そのついでに色々と情報をぶん取ったというわけだ。

 はっはっは」


 わざとらしく笑っておいたが、3人は表情をストンとなくし目をぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「えっと……どうした?」

 なぜそんな反応を示す?


 さっきまではクララとセラを慰める側だったアリスがおそるおそる尋ねてくる。

「あの〜師匠?」

「なんだ?」

「政府軍の特務隊とやり合ったって……なにしたんですか?」


 もっともな質問だ。

 それには俺が研究所を破壊して逃げ出したことから説明しなければならない。


 もちろん、研究所破壊時にはデータ全てを吹っ飛ばしてやったから、俺がやったという証拠は出ていない。


 じゃあ、なんで特務隊とやり合ったかといえば……。


「俺の移動中に妨害してきたからムカついたから潰しただけだ」


 それに尽きる。

 目を見開き、かくんと口を開くポンコツ娘ども。


 特務隊に大人しく従って拘束されて、黒い魔導機のハーバルトから俺が研究所を爆発させたことをバレないとは限らない。


 そもそもが人の話をちゃんと聞いてくれるやつらでもない。


 ゲームでもバーゼル中佐率いる特務隊は中央軍エリート部隊だ。


 しかし同時に後ろ暗いことも平気でやる部隊で、ゲーム登場前には西側との境にある村を見せしめに焼き払ったりしている。


 そこに俺が遭遇したんだから……、うん、仕方ない。

「ただの事故だ、はっはっは」


 とりあえず俺は笑って誤魔化そうとしてみた。


 はっはっは……、あー、だめかな?


「なななななななな……」

 3人の中で1番の常識人と見込んでいるクララが『な』を七つ。

 ダジャレかな?


 計算なら意外と頭が良いかな、間違った方向に。


「なにやってるのですかァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 クララの叫び声で出会いのころを思い出す。

 あのとき叫んだのはアリスだったけど。

 あれから大して時間は経っていないのに遠い昔のよう……でもないな。


 あとアリス、さっきまで同じように驚いてたのに腕組みしながら私はわかってました、みたいな顔をするのをやめろ。


 隣にいるセラなんて青い顔して……あっ、倒れた。


 倒れた先がベッドでなによりだ。


 なーんてそんなこんなを話しながら、船は目的地に着き俺たちは一路、スペランツァへの合流へ向かうのだった。

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