第27話反乱軍第5部隊への強襲
いっそ疲労感すら感じる豪華な船旅も残り1日という距離まで来た。
思えば、ただ青い空と青い水面、それに
豪華でフカフカなソファーもそう思うと名残惜しい。
そういっても全行程たった2日なので愛着が湧くほどではないが。
5、6人は寝られそうな広いベッドは3人が使い、俺は断固としてソファーを使った。
それでも十分ベッドとして機能する豪華なものだったが。
個別のベッドではなく、広くでかいベッド1つが置いてある部屋に、俺たち4人を放り込んだハクヒには機会があれば復讐しようと誓った。
「明日には港に着いてそこから陸路だが、反乱軍第5部隊は強襲を受けていて余裕がない。
今のうちに準備をしっかり済ませておくぞ」
西側に近づいたことで戦場はグッと近くなった。
いずれにせよ、ゆっくりとできるのもここまでだ。
「いえっさー!」
「へっ?」
「えっ!」
俺の呼びかけに、椅子に腰掛けモグモグとパンを口に突っ込みながらもアリスは素早く敬礼で返す。
クララとセラは口にパンを突っ込んでいた最中だったせいか、俺の言葉への反応が遅れたようだ。
それはともかく。
「おいこら、誰が上官だ」
サーとは上官を意味する。
軍隊でのおはようございます、みたいな定型分だが。
アリスは可愛く小首を傾げて不思議そうな顔をする。
「イエス、アイマム?」
「誰が母さんだ」
マムは女の上官を意味するだけだが、なんだかお母さんと言ってそうな雰囲気だから突っ込んだ。
言い返されたアリスは突然、もじもじと恥ずかしそうにしてさらに言った。
「じゃあ……ご主人様」
「誰がじゃァァアアアアア!!!
仮にも皇女ならお前が上官だろうという意味だ!
俺は雇われ傭兵!
そもそも初日の話に戻るが、俺を雇うってことで良いのかよ?」
チグハグ過ぎる会話のやりとりに少しは慣れた気がしてたが、まったくの気のせいだった。
ぶーと可愛く頬を膨らませながら、アリスは腰に手を当てて、ズズイと俺に近寄る。
「雇うかどうかは今更過ぎません?
師匠がいなかったら私たちとっくに死んでますよ?
それと永久就職でお願いします」
「おまえらは俺がいなくてもなんとかしたよ。
あと永久就職は遠慮しとく」
ゲームでは乗り越えられたんだ。
実際でも乗り越えられただろう。
それだけの底力は十分あることは感じている。
「なんでですかー!
早くお嫁にしてくださいよ!」
「雇う雇わないの話じゃねぇのかよ!」
皇女を嫁になんかできるか!
そしておまえにとって大事なのはそれなのか!?
手を出そうとしたら、茹でタコみたいに真っ赤になってモジモジして固まってただろ!
「ちょちょちょっと、先生?
あの、ちょっと待ってください」
「アリスもストップ……」
クララが俺を止め、青い顔だが薬を飲んでだいぶマシになったセラがアリスを止める。
まあ、いつも通りのやりとりなんだが、パターン的にはこの2人も一緒になってバカなことを言ったりしてたはずが、今回はなぜか俺たちを止める。
「どうした?」
「あの、お師匠様。
なんで第5部隊が襲撃されてるってわかるんですか?」
「なんでって、そりゃあ……」
今更かもしれないが聞かれたので、俺は現在の状況とそれに至る過程を説明してやることにした。
そのためにはまず第5部隊の置かれている状況だけではなく、全体の今後の動きについて説明しなければならない。
当然、戦場というのはその場所だけで成り立つものではない。
それゆえに軍というのは機能的に動かなければならない。
まず、第5部隊の配置だが第3部隊と手分けして西南を担当している。
細かく言えば、第1部隊は反乱軍本拠地シーアを守り、第2、第4部隊が旧都ラクトを狙い北側に配置している。
旧都ラクトに正面から進むには、大都市チョウアを越えなければならないが、ここも大都市だけあって旧都ラクト並に堅牢な守りがある。
なので、基本は北方のホクスイ、もしくはチョウアとジョウヒの街の間にある中堅都市カンナから攻め入ることになる。
反乱軍の目標は旧都ラクトである。
なので、南方へは政府軍からの侵入を止めるだけにとどめたい。
さらに反乱軍は近いうちに反攻作戦を計画しており、可能な限り南方から戦力を引き抜きたい。
ゲームでも旧都ラクト侵攻作戦では南方配置だったはずの反乱軍第3部隊、第5部隊も参加している。
なので南方にどれだけの戦力が配置されているか、もしくは旧都ラクトへの反攻作戦の際に南方からの侵入はあるかを調べるために、アリスたちはガーンズ大尉を隊長に強行偵察を行った。
ガーンズ大尉はよほど信用できる人物だったのもあるだろうが、反乱軍における深刻な人手不足ゆえに隠れ皇女であるアリスも出撃したのだろう。
そして生死不明の行方不明。
事情を知っている数少ない人物であるコーラル艦長はさぞ焦ったことだろう。
一兵士扱いでも皇女は皇女。
しかし肝心の強行偵察の情報が不十分。
第5部隊エースの1人、クレイルも連絡が途絶えた。
そんな中、アリスたちが生きている連絡が入る。
なんとか合流を急ぎたい第5部隊は合流を早めるために、危険と判りながら東側に少しでも突出。
さて、そこで政府軍の動きだ。
政府軍も同様に情報を求めている。
そのため中央軍直属の特務部隊が南方にまで出張ってきた。
本当ならその特務部隊が南側の反乱軍を色々と掻き乱す予定だった。
ところが、その特務部隊がちょっとした事故で戦力の4分の1を失ってしまう。
20機中5機な?
確かそれぐらい俺が潰したはず……おっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます