第5話酒飲んで寝ろ

「私たち、と一括りにするならそうだな」


 反乱軍自体を私たちというならな。

 俺の言葉にセラが目を細め、グルルと黒い小犬が威嚇するように俺を睨み、絞り出したような声で小さく問う。


「……どこで私たちのことを」


 それには殊更に呆れたふうをよそおう。

「おいおい、傭兵ならおまえらの組織にあたりが付かないやつなんかいないぞ?

 いたらよっぽどの間抜けか、ド新人だけだ。

 まあ、おまえらもド新人なんだろうが」


 マークレスト帝国の反乱軍は野盗の集団ではない。

 皇子に追従した政府軍の離反者だ。


 なお、ゲームでは続編の意味でもあったのか、最後まで皇子の姿は出て来ない。

 内乱終結後は反乱軍の幹部主導でマークレスト帝国は共和制に移行する。


 実際はすでに死亡しているんじゃないか、なんて説もある。


 それでも確かなことは反乱軍は今も軍組織としての秩序を保っており、西軍なんて言い方する奴もいる。

 呼称は西方解放軍だそうだ。


 なので、こいつらも初期軍事教育は受けている。


 一応、1世代前とはいえ軍用量産魔導機を与えられている程度には、優秀さが認められているわけだからな。


 だからこそだ。

 民間では1世代前の軍用魔導機など、なかなか手に入らない。


 それが装備が整った中で3機。

 当然、軍関係だと即分かるし、隠れながらの移動な時点で政府軍ではない。


 一般人ならともかく、傭兵も魔物狩り中心のハンターも、魔導機乗りなら疑わないわけがない。


 流石に3人娘もここまで疲れ切っていなければすぐに気づけただろう。


 それと……。

 俺は3つのメモリーカードをテーブルに滑らせる。


「あー……」

「こ、これ!?」

「……やられた。

 私たちの情報を抜いていたなんて」


 アリスが失敗したなぁという表情、クララが素直に驚き、セラが憎々しげに睨む。


 そのメモリーカードは魔導機専用カードで中にはパイロットデータが入っている。

 個人情報の全てが入っているわけではないが、所属や戦闘データにクセ、反応パターンが入っている。


 魔導機は訓練すれば誰にでも乗れる。


 ただし、それを適正に扱うとなれば個人のパターンデータに合わせたものにしないと、まともに戦闘を行えない。


 たま〜に最初から魔導機と相性が良い例外はあるが。


「おまえら、魔導機の整備を自分でしないだろ?

 整備や修理を外部に出すには個人データの保護は必須だぞ。

 抜いといてやったから保管しておけ」


 これが一般の傭兵ならば個人データごと調整をしてもらうが、この3人娘はこれでも反乱軍の一員である。


 西側エリアなら、それでも大丈夫かもしれないが、ここは政府勢力圏の東側だ。

 敵地であまりにボケボケし過ぎた。

 新人であることを抜きにしても、お嬢様集団と言われても納得してしまう。


 とにかく、このデータで俺が3人のことを反乱軍のメンバーであることを知ったと誤認させられたはずだ。


 実際は元から知ってたわけだが、反乱軍だと確信した理由づけには十分だ。


 まあ、頼るはずの隊長がさっさと戦死して、根性だけを頼りに自力で敵地を抜けようというのだ。


 ゲームでは、この根性での帰還が評価されて部隊の中核として活躍していくことになるのだが。


 実際にはすでに精神的な疲労もギリギリで、ろくに頭も働いていない状態だ。


「いいから酒飲んで寝ろ。

 俺の要望はそういうことだから、明日にでも返事を聞かせてくれ」


 そう言って俺は解散を言い渡す。

 クララとセラは酒を見つめ、悔しげな表情。

 自分でも疲労し切っている自覚はあるだろう。


 それでもなお、騙されないように気を張っているのだ。


 性格はともかく、3人とも主人公らしく見目は良いからな、悪い男がいくらでも寄ってくることだろう。

 俺も悪い男だしな。


 俺の話を聞いて、1人だけなにかを考えるように腕組みしていたアリスは大きく頷き……。


「わかりました!

 早速、今日から夜伽を命じるわけですね!

 しかしながら、その役目は私だけでお許し……」


「おい、その酔っ払いのポンコツ連れてさっさと部屋に行け」


「もががっ!」


 クララとセラの2人はアリスを羽交い締めにして、引きずるように2階にある宿の部屋へと移動していった。


 それを眺め……。

「あいつら助けたこと、早まったかな?」


 俺はちょっと後悔した。

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