第11話ポンコツ3人セット

 文句を言いつつもクララは俺の横に並んだ。

 口でぶちぶち文句は言うが、男慣れしていないらしく緊張が丸わかりで手足が一緒に出ている。


 だが、どうだろう?


 昨日のセラと違ってクララの様子は、俺自身に対する警戒というより異性に対する緊張だけ。


 その理由がなにかを問う前にクララが口を開く。

「クロさんは傭兵なんですか?」


「傭兵……兼ハンターってところかな。

 ここから北西に少し行った先にあるジョウヨウという大きな街がハンターがやりやすくてな。

 そこでしばらくハンターをやっていたこともある。

 ハンターをやるならオススメだぞ」


 もっともジョウヨウは東側の重要拠点であり、西側の人間が正攻法で入れる街ではない。


 そうは言っても大都市なのでいくらでもやりようがある。

 人を隠すなら街の中だ。


 俺の魔導機乗りとしての始まりは、打ち捨てられた魔導機を修理してハンターから始めた。


 ちょこちょこと魔物を狩ってはツギハギだらけの補強を行なって。


 でっかいポカをやらかして愛機オンボロ1号が大破してしまい、仕方ないから魔導機を支給してくれた傭兵団に混ざって活動した。


 その傭兵団も隣国との小競り合いの際に全滅して、金が無くなった俺は借金を返すために研究所に身売りしたというわけだ。


「俺からも聞いていいか?」

「どうぞ」

「意思は決まったということでいいか?」


 クララの俺に対する態度は昨日よりもはっきりと柔らかい。

 俺がクララたちの味方になるという口実を受け入れたからだと思うが。


 それにクララはクスリと笑う。

 随分と魅力的な笑みだ。

 そこには戦場で多少は薄れたとはいえ、上流階級出の血筋を匂わせる。


「そもそも私たちに選択肢はないじゃないですよね。

 それもわからないようでは見捨てるということでしょう?」


 そう、実際のところ3人娘に選択肢はない。


 ひどく単純な話、3人娘が俺の味方になる宣言を受け入れないのであれば、俺が取れる選択はただ一つ。

 3人娘を政府軍に売ることだ。


 助けたのも気まぐれでしかない、その手を振り払ったあとも躊躇ためらう理由はない。

 俺の敵だ。


「ただいつまでも疑いの目で見られてまで助ける義理がないだけだ」


 もしもの話だが、3人娘が俺の予想を超えるほど手強かった場合、俺はあいつらを敵として完膚なきまでに潰したことだろう。


 そのときは魔導機も売り払い、当人たちも人買いか政府にでも売り払っただろう。


 ……その程度の気まぐれだ。


「そう、義理ですか……。

 だからアリスはあなたのところに行こうとしたのですね」


 それはアリスの行動への信頼が見てとれた。

 あんな突飛な行動なのに、だ。


 それは初日の盗聴で聞いたアリスの立場のこともあるだろう。

 それでも普段からあんなふうにポンコツなだけなら判断を任せたりはしないはずだ。


「……おまえたちは随分、アリスの判断を信用するんだな」


「そうですね……。

 アリスの直感はほぼハズレないですから。

 セラは移動の間、ずっと周囲を警戒してくれた。

 ……私だけがなんの力にもなれていない」


 クララは立ち止まり、ややうつむき加減で悲しげに微笑む。


 だから自分は疲労し過ぎず熱を出していないと。

 自分が役に立っていない気持ちが負い目となっているのだ。


 そんなことを突然、俺に言われてもな……。

 俺は困って自らの頭を掻く。

 俺、おまえらのライバルキャラで敵なんだけど?


 結局のところ、ゲームでもクララは2人に対しての負い目を持ち続けていたのだ。

 それがクララの死へと繋がる。


 クララがゲームでの死の直前に最期に笑ったのは、ようやく負い目から逃れられるのだという思いもあったのだろう。


 そして、それが3人の崩壊。

 2人を見ればわかる。

 クララの存在は2人を世界に繋ぎ止めていたのだ。

 生きることの大切さ。


 過酷な戦場でその意味は容易く消える。

 ゲームでのチュートリアルでしかない3人の強行軍。


 それがゲームにおける3人の運命を決めてしまっていた。


 俺はビシッとクララに指を突きつける。


「おまえらは3人でセットだ。

 自分だけポンコツ集団から抜け出せると思うなよ?」

「3人でセット、ですか?」


 クララは理解できていないのか、沈んだ目のまま小さく首を傾げる。


「そうだ。

 おまえがいなくなると、あのポンコツ2人はポンコツ過ぎてどうにもならんぞ?」

「あ……」


 クララの瞳に光が戻る。


 それから俺の顔を見る。

「……知ったようなことを言いますのね?」


 それに俺は深〜くため息を吐く。

「さあね。

 ともかく、俺よりもおまえの方があの2人のことをよく知ってるだろ?」


「……ですわね。

 変なことを言いました、忘れてください」


 クララはそう言って微笑んだ。

 そこからはもう暗い顔をすることはなく、俺たちは整備工場へとまた歩き出した。


 安易な自己犠牲なんて選ばず、成熟していってくれよ?

 いつか俺がぶっ潰すその日まで、な。

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