第10話クララ、おまえもか……
俺とクララは2人だけでカーマクラフト整備工場に足を運ぶため宿を出た。
昨日はセラで今日はクララ。
体調の問題もあるが、交代で俺に付くことで俺という人間を計っているのだろう。
出会いからして怪しいからな。
いきなり身体を捧げようとするアリスがおかしいのだ。
街の大通りを通るがスリはいない。
治安が良い証拠だ。
つまり警備が行き届いているので、3人娘だけなら街に入るだけで一苦労だっただろう。
整備工場に向かうが進捗を確認するだけで、特に他の心配は要らない。
何かあれば工場の方から連絡があるからだ。
整備士たちもいい加減なことはしない。
仕事に誇りを持っているし、なにより不正を働くようなら傭兵ハンター組合からソッポを向かれる。
傭兵や魔物専門のハンターたちは魔導機の整備で大量のお金を落としてくれ、魔物素材も回してくれる持ちつ持たれつの関係だ。
魔導機には魔物の素材が使える。
魔の素材で動く機体、それが魔導機だ。
「セラも熱を出してしまいました、すみません……」
「気にするな、安心して気が抜けたんだろう。
おまえは大丈夫か?」
これだよ、大人の落ち着いた会話。
3人とも同年代のはずだがな?
「だ、だだだ、だいじぶです」
だいじぶってなんだよ?
3歩後ろをロボットのように足と手を同時に出しながら、赤い顔でクララはついてくる。
見るからにガチガチで全身で緊張してます、を表現していた。
「お、おお、男の人と2人でデートなんてハジメテで。
け、研究はしてたんですが、いざそのときがくると、緊張してしまって。
ハジメテなので優しくしてください!」
常識人でまともな人なんていなかったんだ……。
拝啓、ゲームの中の俺。
おまえはどうやってこんなポンコツどもとライバルをできていたんだ、教えてくれ。
クララはアリスとセラと一緒にハジメテのデートシミュレーションを、幾度も繰り返し練習したことを聞いてもいないのに教えてくれた。
きっとゲームではこの強行軍が原因で、こんなポンコツぶりはかなり消え去っていたに違いない。
……俺はナンテコトをしてしまったのだ。
ゲームでクララが死ぬ場合。
3人の最終魔導機であるオカルトマシーンを敵基地から奪取する際に、最後まで敵基地に1人残りハンガーのシャッターを開け、オカルトマシーンに乗ったアリスを脱出させる。
基地の窓からクララの最期の笑顔が見えたところで、クララがいた操作室の部屋が爆発。
死体も残らず消え去ってしまう。
作戦のために自らの命すらも駒として使う兵士としての一面でもあり、仲間のために命を捨てる様子が描かれたシーンともなっている。
俺はなんとも言えない気分で頭を掻く。
その冷徹な兵士の心が良いと言う気にはなれない。
そうかといって今のクララは……。
「パンを
私たちの研究では頭をぶつけることで、ハジメテ見た人に恋してしまう刷り込みの原理が働くのではないかと……」
誰か!
誰か俺を助けてくれ!
ポンコツ空間が襲ってきて、ポンコツ空間に飲み込まれる!
クララが次第に話に夢中になり、同類2人と変わらぬポンコツぶりを発揮しだしている間も俺たちの距離は3歩開いたまま。
心の距離かな……。
俺は大きくため息を吐く。
「……話はわかったから隣並べよ?」
背後からのスニーキングは落ち着かん。
昨日のセラといい、背後を取るのが好きなのか?
確かに戦場でもバックアタックは基本だ。
相手が構えているところに真正面からただ突っかかるなど、ただの自殺志願だ。
突っ込むにしても相手の虚を突くために加速するとか。
……だとするとポンコツどもがポンコツを繰り広げ俺の虚を突くのは、ポンコツなりの戦略として
「ポンコツポンコツってなんですか!
私たちはポンコツじゃありません!」
クララがなぜか俺の心の声にツッコミを入れた。
「口に出ていたか!?」
「思いっきり!」
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