第9話憧れる人を間違え過ぎている

 特に俺の行動を隠す必要もないから放っておいたが、後をつけられて好き勝手言われるのも面倒な気もした。


 なので、誘い出そうとわざと足を早めた。

 急にそんなことをしたものだからセラは慌てた。


 そしてセラは焦って俺を追いかけようとしたためか。

 道の端にあった木箱に足を引っ掛けて、腐った木箱をバキッと突き破りながら……派手にこけた。


 それでもまだ隠れるつもりなのか。

 足に木箱を履いたまま、壁の隅にジリジリと寄り手で頭だけを隠した。

 寝込んだ状態で。


 頭隠して尻隠さず……、木箱で足は隠れてるが。


 俺はなんとなく頭痛を感じつつ、昨日とは別のポンコツ娘に声を掛けた。

「2人はどうした?」

「アリスが熱を出したからクララがついてる」


 そこからしばし無言。

 やがて観念したようにセラは下から俺を見上げて言った。

「……よくぞ、私の尾行を見破った」

「やかましいわ」


 俺は過酷な旅を止めてしまったせいで、こいつらが人として成長する大切な機会を失わせてしまったのかもしれない。


 ……いや、まだクララがいる。

 あいつはまだゲームでも常識人のはずだ、多分。


「休んでおけと言っただろ?」

「……私はあなたをまだ信用していない。

 それに私はアリスとクララよりも働かないといけない」


 自責の念を滲ませた物言いに俺は思い当たるものがあった。

 他ならぬあのとき言った俺の挑発の言葉だ。


 大切な仲間を置いて逃げようとした、その自責の念がセラをこの行動に駆り立てた。

 疲れ切ってめまいでもしているのだろう、それに足を取られてこの惨状だ。


「あのときほんとは逃げ出そうとしたんじゃなくて、助けを呼ぼうとしたんだよな」


 セラはその言葉に下を向いてグッとなにかをこらえた。


 図星だろう。

 行動が仲間を見捨てて逃げ出そうとしか見えなかっただけだ。


 近くに味方はいなくても、遠くの仲間に連絡してでも、もしくは身体を使って誰かを雇ってでもなんとかして助けを呼ぼうとしたのだ。


 俺にはかなわないことが分かったから。

 1人でも逃げ出せれば、残った2人は人質として利用価値が生まれる。


 それにセラは遠距離狙撃型だ。

 距離を取ればまだ戦える可能性もあった。


 それがわかってて俺も挑発したんだがな。


「おまえ2人が大好きだもんな」

「昨日もアリスを行かせてしまった」


 昨日のアリスの奇行か。

 あれっておまえらマジで……いや、うん。


 俺が仲間になりたいとか言っても対価に見合ってないもんな、怪しいよな。

 ごめんな、思いつきだ。


「道中、ずっと警戒してたんだろ?

 索敵能力ではおまえが1番だからだろ?

 だったら、疲労具合は見た目以上だ。

 索敵しなくてよくなったら、意識を保つのも難しかったんじゃないか?」


 悔しそうに……しかし泣くのを必死に我慢するセラ。


「あいつらもおまえのその気持ちは理解しているさ。

 よく頑張ったな」

 その言葉でセラはついにほろほろと泣き出す。


 ゲームのスタートはこの強行軍から始まる。

 それは現実に置き換えてみればひどく困難な旅路であった。

 あるいはこの強行軍こそが彼女たちを兵士たらしめた理由だったのかもしれない。


 俺がその機会を奪ったともいえるのかもしれない。

 だが、兵士としては1流の道の登竜門といえたかもしれないが、魔導機乗りとしてはその限りではない。


 それというのも魔導機という存在の特殊性にあった。

 魔導機にはその精神の力が大きく影響する。


 つまり感情を安定に保つことは兵士として1流であっても、限界を超えることができなくなる。


 実験機や民間研究所が開発した魔導機が予想を遥かに超える戦果を叩き出すことがあるが、それはそういうことなのだ。


 主人公3人娘が2人死んでしまうのも自らの命すらも駒として利用する兵士としての精神性にあった。

 彼女たちは絶対に生きるのだと強い意志があれば生き残れたかもしれない。

 最後の1人が生き残ったのも、2人が命を賭けてまで守られた命だからだ。


 最後の1人は死んだ2人のために、絶対に死ぬものかという強い意志でオカルトマシーンを起動させた。


 そしてそのオカルトマシーンに2人の魂も乗り移り最後の敵を討ち果たすのだ。


「私も……逆境で笑っていられるアリスみたいになりたい」


「……アレにはなるな」

 いや、まじで。

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