第8話後をつける者

 朝食後、俺は3人にさらに休むように告げる。


「さ、昨夜はまことに申し訳ない所存でありマスデス……」

 ポンコツ娘アリスが昨日の痴態を、机に手を付き土下座するようにして俺に謝った。


 そこまで謝るぐらいなら最初から踏み止まれよと思わなくもなかったが、緊張し通しの強行軍は思っていた以上の疲労を心と体に与える。


 そこに酒を身体に入れたものだから、もう暴走は止まらなかったのだという。


 他の2人もアリスが部屋を出てから、色情魔に身体を奪われるアリスを想像して泣いていたそうで。


 いや、そもそもアリスはそんなことをして良い立場ではないのだが……。

 まあ、それがなければ助けられた代償に身体を差し出すというのはあり得なくはない。


 それを使うかどうかは別にしても、それも彼女たちの武器だ。


 手を出さなかった俺に対し、クララは。

「クロさんは男の方が好きなんですね?」


 安心したように胸を撫で下ろしながら、そう言ってきた。

「おまえ、今日の夜の相手な?」


 わざとらしくクララのあごを掴みこちらを向かせ宣言してやったら、ぷるぷると震えながら涙目になった。


 俺は慌てて手を離し、お手上げとばかりに両手を挙げる。


「冗談だ。

 言っておくが俺は男色家でもない。

 これから雇ってもらおうとする先の相手にいらない手出しをして、心象を悪くするのも得策じゃないだろ?」


 そう告げてやったんだが、どこまで信じたのやら。


 直感ではあるが、興味本位で3人娘に手を出してしまうと、面倒なことにしかならない予感がバシバシしている。


 この手の直感はまずハズレない。


 直感でなくても、ちょっと考えるだけでもこの3人娘は厄介ごとの塊にしか思えない。


 おまえら、見目は良いが実はモテないだろ?


 俺は3人に改めて休むように告げてから宿を出る。

 魔導機の整備状況の確認とここから先の移動や物資調達。

 なにより情報収集だ。


 ゲームでは政府軍に追われている描写はなかったが、現状もそうだという保証はない。

 なお、ゲームでも似たような理由でライバルである俺との遭遇戦が発生している。

 チュートリアルってやつだな。


 3人娘はライバルキャラである俺を撃退したあとは、そのまま街を素通りしている。


 3人は魔導機を隠して街に入り込む余裕もないし、街に入り込んだところで状況を改善するアテもなかったからだ。


 部隊に連絡を取って救助を待つにしても、どこにどのようにすれば政府軍にバレずに済むか知らないのだ。


 金に余裕があれば、信用できそうな伝手を探すことも可能だっただろうが、3人娘にはその金もなかった。


 あるのは根性だけ。


 ゲームではその根性のみで敵地からの帰還を果たすのだが、何日も緊張を強いられ、ゆっくり休む時間もなく満足な食事もない状況、見つかれば即殲滅される。


 現実に置き換えてみればそれがいかに過酷なことなのか分かろうというものだ。


 魔導機そのものは半永久機関が備わっているので、根性があれば動くには動く。


 武器も弾薬など実弾タイプのものは消費するが、サーベルや魔導エネルギータイプの魔導銃などは、魔導力エネルギー循環路のおかげで時間さえおけば回復する。


 精神感応路と呼ばれる装置がそれを可能にしているだとか。

 機械でありながら、半生物的な要素も持ち合わせているのが魔導機だ。

 まさに魔導力というのが力の源だ。


 そのあたりは魔導研究者の分野で、俺の知ったことではない。

 それでも即座に回復するわけでもないので、補給なしでは連続戦闘は無理だ。


 戦闘時装甲に微弱なバリアを張るエネルギーパックも消耗品であり、最終的には魔導銃の1発でも魔導機は大破してしまう。


 バリアを突破するのにはやはり実弾兵器が有効であり、そこも補給が無視できない理由でもある。


 金持ちの軍などはそのエネルギーパックを大量に供給できるうえに、外装も上質なものを使用できるので総司令官機などは無駄に硬く重装備だ。


 戦艦2隻の大隊100機VS総司令官機1機などというふざけた戦いも過去にはあったらしい。


 流石に100機の方が勝利したが、その戦艦ごと半数が大破という信じられない状況にまでなったらしい。


 そしてゲームでもアリスはそれと似たようなことをしている。

 それが彼女の死に方だ。


 まあ、そんなことはいいとして……。


 家の壁の影に張り付くようにして長い黒髪がチラチラ見える。

「いつまでついてくる気だ?」

 後ろからセラがついて来ていた。

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