第12話師匠爆誕

「今日にでも修理が完了する」


 ポンコツ3人娘を拾って3日目の朝。

 アリスとセラも熱が下がったらしく、元気な様子だ。


 2人ともパンにチーズにベーコンとレタスを口の中に次々と放り込んで、それをスープで流し込む。


 魔導機を動かす魔導力と精神力と体力が密に関係している。

 いわば心技体みたいな関係だ。


 それもあって魔導機乗りは太りにくい!


 3人も空腹というより半ば魔導力の欠乏状態だったので、それを無意識に取り戻そうとしているのだろう。


 単純に食べるのが好きなのかもしれないが。


 食べかすを散らかしたりはせず、美味そうに食うなぁ〜という印象だ。


 かすを飛ばしたりしないが、なぜかアリスの口の端にかすがついて、それを素早くセラが指でつまんで口の中に入れる。


 一昨日も見た一連の動作はいつものことなんだな?


 頬を膨らませながら食べているので、小動物が一生懸命食べている姿に見えるのは俺の幻覚か。


 それに対比してクララは今日もご令嬢のように丁寧に口に運ぶ。

 ポンコツではあるが3人の中で彼女だけはまだ人間なのだと俺は目頭を熱くする。


 なお、今日の支払いも俺である。

 朝食で5000ガルドはいくんじゃないか?


「金払え」

「身体で払います」

 口の中の食べ物をちょうど飲み干したアリスが素早くそう返事をした。


 ノータイムでいらないと返事をしそうになって、ふと考え直し。

「そうだな、身体で払ってもらおう」


「3人同時!?」

「わわわ、私ハジメテですが頑張ります」

「うわっ……、これが狙いだったんだ……」


 アリスは目を丸くして、クララはなぜか恥ずかしそうにしながら拳を握り、セラはドン引きしたと態度で示しつつ。


 そして、すぐにポンコツ3人娘は同時にモジモジしだす。


 俺はにっこり笑う。

「やかましいわ」





「もう〜、魔導機での魔物狩りなら早くそう言ってくださいよー。

 今日が初夜なんだって覚悟しちゃったじゃないですか。

 あ、私たち3人とも経験ないので、そのときはリードしてくださいね?」


 俺の魔導機に同乗したアリスがそんなことを言う。


 それは通信を繋げっぱなしの他の2人にも届いており、クララとセラがアリスの言葉に反応する。

「が、頑張ります」

「今日が私の少女の終わり……、悔いはない」


 俺は頭痛を感じて言葉を絞り出す。

「……頑張らんでいい」


 クララとセラの魔導機の修理が終わったので、俺たちは魔物狩りに来ていた。


 今回の魔物の大きさは魔導機とほぼ同じ、一般的にはアル型と呼ばれる。

 強さも大きさも中程度。


 強さ順に、イー型、アル型、サン型で地方により呼び方も変わる。

 オニと呼んだり、オーガとか、トロールなどなど。


 中には魔導機の数倍の大きさの個体も存在するが、そこまでになると軍が出動したりする。

 もしくはハンターに集団での討伐依頼が出たりもしている。


 強さでは3分類だが、その性質は当然個体により様々。

 ゲームならせいぜい武器と性能が数字で違うだけだったが。


「くっ……、飛び跳ねて狙えない」

「こんなに跳ねる魔物がいるなんて聞いてないですのよ!?」


 魔導機の頭を越すぐらいにピョンピョンと跳ねる魔物。


「ほらほら、相手の動きを予測してしっかり狙え。

 自分の体勢と相手の動きの先と仲間の位置を空間で把握して行動するんだよ、ほら、そこ!」


 俺は銃砲で、クララを飛び越えた魔物を着地直前で撃ち抜く。


 軍での戦いは集団戦が多い。

 なので集団でどれだけ統率された動きが出来るようにまず訓練させられる。


 対個人戦闘の訓練も行うが、内乱時ともいえる現在はその訓練に確保する時間が少ない。

 なので3人娘も対人戦や魔物戦に慣れていない。


 もちろん魔物と魔導機とは戦い方は多少は異なるが、魔物の動きに対応できるなら対人でもどうにかなる。

 今回もちょうど良い訓練になるはずだ。


 戦闘が始まるまでポンコツなことを調子良く喋っていたアリスだったが。

 いざ、戦闘が始まると、座席の後ろで食い入るようにモニターと俺の操作を眺めている。


 その真剣な表情は、こいつがポンコツ娘であることを忘れてしまいそうなほど綺麗だった。


「……なんですか?」

 俺の視線に気付き、アリスは自分の背後を振り返るが当然何もない。

 後ろじゃねぇよ。


「いや、黙ってると美人なんだなと思っただけだ」

「黙ってると、は余計です。

 あと、口説くなら戦闘が終わってからにしてください」

 調子に乗るかと思ったが、アリスは顔を真っ赤にしてそう返した。


 そういう顔をいつもしてるなら、こちらから口説くんだがなと思いつつ口には出さなかった。


 実際にそういうアプローチをかけられても困るからだ。


「このぐらいなら軽口言ってる方が調子が良いんだよ」


 どんな戦場であれ、軽口を言う余裕は残しておかなければいけない。

 人の心を磨耗させる戦場に人は長くは耐えられないからだ。


「無理そうだと思う状況でも、軽口叩いて意地を張れ。

 存外、強がりも口に出してしまえばそんな気がしてくるもんだ」

 それを3人にも教えてやる。


「……意外でした。

 戦闘中こそ、うるさく騒ぐなと怒るかと思ってましたが」

「……意外です」

 クララもセラも驚きを見せる。


「そんだけの余裕を持てってことだよ。

 余裕がない新米が集中力切らして軽口叩いてたらぶん殴るけどな。

 はい、おしまいっと」


 飛び回っていた最後の1匹をサーベルで真っ二つにする。

 魔物はアル型5体。

 あとは街のハンターギルドに手配して換金するだけ。


 クララとセラが倒した2体は状態が良くないので、せいぜい2万といったところで他の3体はその倍でしめて16万ガルド。


 何事も金がかかるもんだ。


 飛び回る厄介さの割にはあまり金にならない魔物だ。


 それというのもこの魔物から取れる素材で、魔導機に使える部位が少ないせいだ。

 こればかりは仕方がない。


 訓練にはなるが、この魔物の餌食になるハンターも多いので嫌われている。


 4人で飯代も合わせると宿代は1万ガルド程度。

 反乱軍であることをカモフラージュにもその数倍は金がかかる。

 これだけで3日分程度しか保たないというわけだ。


 定住せずに旅行しているようなものでもあるから、しっかり稼がないとすぐに金は尽きるな。


 軍は自由もきかないし、他人の都合で戦争をさせられるが、弾薬や補給に食事と宿とそれに給料と、様々な物が保障されている。


 自由な野良の傭兵やハンターとどっちがいいかは人それぞれだ。


「……師匠」

「これで今日のメシ代は十分だろ……って、師匠?」


 師匠ってなんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る