第3話生き残ったら勝ちはフラグです
クロというのは俺の偽名だ。
偽名ではあるが、以前の名前は改造実験の際に別の記憶をぶち込まれたせいで消えているので、今後はずっとクロで通す。
アルテイア計画と呼ばれる実験が行われた。
狂気に冒された研究者なんかは女神の祝福とか言ってたが。
なぁに、よくある強化人間を造る実験だ。
非合法……というわけじゃないのがこの実験のミソだが、だいぶアンダーグラウンドを走ってたことは否めない。
そのせいで俺への実験手術を最後に実験は中断。
俺も日常生活を送る分には支障がないことと実験前と大きな身体能力の変化は見られない……というか手術後だから、データとしては低下が見られたという結果。
つまるところ失敗作という烙印を押され、処分されかけたが施設と研究所ぶっ壊して逃げてやった、ざまぁみろ。
ついでと言ってはなんだが、俺に関する個人データだけじゃなくて、全実験データと資料全てを燃やし尽くしてやった、ほんのサービスだ。
本来ならお尋ね者になるところだが、そのデータ自体がないので無罪放免である。
逃げ出す際に実験機として使用していた機体を退職金代わりに貰えたから満足だ。
実験機にどういうイメージを持っているかは知らないが、十分なデータもない……言ってしまえば未完成品の不良品ってことだ。
そんなことを開発者のフロンタール女史に言わせれば、ハーバルトは成長機なんです!
可能性の塊なんですなどと主張したことだろう。
名前もダサいし未完成の機械なんて、どこで不具合が起きるかわかったものではない。
愛用してるけどよ。
実際、逃げ出して政府の特務隊と遭遇したけど、最新機であるデータ型20機の包囲をたった2機で突破できるぐらいには優秀だ。
まあ、大半は俺の能力が高いからでもあるし、俺と共闘した白い魔導機も能力が高かった。
互いに違う方向に逃げたから、その白い魔導機がどこに行ったかは知らない。
どうせ、どこかの戦場で会うだろう。
そのときは敵同士かもしれないが傭兵というのはそういうものだ。
それに付け加えもう一つ。
実験は実は成功していた。
多くの者は多少の身体能力の向上が見込めた程度だが、俺の場合、とんでもない能力を得た。
それは……未来予知。
具体的には違うんだが、大きくまとめるとそういうものだ。
その予知も限定的でだいぶ歪んでるけどよ。
俺には前世があって、この世界はその前世でやってたゲームと同じ、だとよ。
笑えるだろ?
ただまあ、それに対して俺が思うのはラッキーぐらいの感情。
2度目の人生だとかどうとか、大して悩もうとも思わない。
俺の中の客観的な部分がそれを異常なことだと冷めた目で見ているが、まあ、どうでもいい。
実験は成功したのかもしれないが、どうやらそれなりの副作用はあったということだ。
名前を失ったのもその一つだ。
傭兵で偽名なやつはザラにいるが、それでも名前というのは自己主体性というやつに直結しているらしい。
俺は自分が本当はこれからどうしたいという欲望が湧いてこない。
せいぜい、こいつら物語の主人公たちを
パン1個は150〜200ガルド、安酒1杯。300ガルド程度。
安宿は5000ガルドで並なら1万ガルドってところだ。
夕食で大体1人1000ガルド。
ただしアリスとセラが食いまくっているので、今日の食事代は1万ガルドを超えてしまうかもしれない。
食った分は身体のどこに消えていっているんだ……。
どうでもいい話だが、東方の海を挟んだ島国イーストエンドという国の通貨レベルもほぼ同じらしい。
民間傭兵の中古魔導機なら500万ガルドも出せば手に入る。
もっとも傭兵の年収が同じか、もしくは優秀ならその倍。
まあつまり、500万ガルドなら命の値段分といえなくもない。
無論、死んだらよっぽどできた依頼人以外は報酬はゼロだ。
傭兵は死んでくれた方がマシともいえる。
信用が無くなり、次回からは全ての傭兵が敵に回ることを覚悟のうえならな。
俺がぶち壊した3人娘の魔導機は2機が修理、1機が大破のため部品取りとなった。
アリスの反応が良すぎて狙いがズレた。
それが魔導機の致命的な損傷となったからだ。
もっとも3人娘が乗った魔導機は軍用なので掘り出し物でも800万はするので、それも整備代が高い理由だ。
「言ったろ?
詫びだってな。
なんにしろ生き残ったんだから良いじゃねぇか。
この世界は生き残ったら勝ちなんだからよ」
「……覚えておきます」
クララはそう言いながらも納得していない顔。
アリスは口いっぱいに食べ物を突っ込み、目を輝かせてふむふむと頷き、納得したと敬礼して見せる。
セラは無言で食うことに集中している。
そもそも、ただの気まぐれってことを説明しようがない。
クララは1番の常識人だ。
だからこそ理解できないだろう。
そりゃ、そうだ。
俺もいまの自分の現状が理解できん。
どうしてこうなったかなぁー?
「大丈夫だよ、クララ。
クロさんは信用していい」
「アリス……」
キリリとした表情でアリスはクララに言った。
アリスよ、おまえはもっと俺を疑え。
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