第2話努力と根性、そして少しの勢い
ゲームに主人公とライバルキャラが飯食ってるシーンなんてなかったよなぁ。
テーブルの上には俺が注文してやった大量の飯。
それを次から次へとかっくらう主人公3人娘の1人、アリス。
「まったくもう……んぐんぐ、間違えたって、はっぐ、酷い話ですよ、あんぐ、あぐ……」
輝かんばかりの艶やかな金の髪をポニーテールしたアリス。
文句を言いながら口の中に肉を詰め込み、その隙間にわざわざレタスを突っ込んで、ついにはむぐむぐとしか言わなくなった。
「……わかったから。
後で聞いてやるから食ってから話せ」
俺は手でそれ以上しゃべるなとアリスを制し、改めて3人娘を見る。
若い娘たちだ。
もっとも俺もそれほど歳は食っていない。
はっきりとした歳なんざ覚えていないが。
長い銀髪でどこかのご令嬢のような見た目のクララは、こちらの様子をチラチラと見ながら洗練されたナイフとフォーク捌きで肉を口に入れる。
クラリッサ・シェフィールド、愛称クララ。
銀髪と見た目でどこか妖精のような綺麗さも持つ。
どこかのご令嬢のような洗練された仕草。
見た目通りというか、元騎士貴族のご令嬢で宰相クーゼンが政権を奪ったことで、没落させられた。
両親もその際に処刑されて、クララだけが生き残り反乱軍に加わった。
目的は家の復興。
能力は中距離バランス型、貴族として魔導機を訓練していたせいか技量は3人の中で1番だ。
性格も3人のバランスを取るような常識人で心は聖騎士である。
次にじーっと半目でこちらを監視するように眺め、食事にも手をつけないのがセラ。
半目なのは眠くて仕方がないのだろう。
セラ・ニャムヒート。
見た目だけなら黒髪清楚な美人。
射撃が得意でスコープをのぞいて観察するタイプ
人との関わりが苦手で警戒心が強く、アリスとクララを大事にしている。
反乱軍に参加したのも、その2人が参加しているからという理由だとか。
どうでもよい情報だが、お茶の淹れ方が絶品で3人がお茶会をするときはセラが給仕を務める。
一般中流家庭で両親は健在、妹がいるはず。
大きな理由もない普通の家庭から反乱軍に参加するあたり、セラ自身がどこか歪んでいるのかもしれない。
最後がアリス、ただのアリス。
フルネームは不明。
3人娘の行動方針はなぜかアリスが決める。
髪を下ろし黙って大人しく着飾っていれば、女神と見紛う美貌をしているが、雰囲気がその全てを台無しにする女。
魔導機操縦の反応速度はピカイチだ。
いまも遠慮もなくガツガツと山積みの肉や魚、ときどき野菜、それを水で流し込む。
「酒も飲むか?」
「ムムー!(飲むー!)」
「ちょっとアリス!」
「じー」
3人の中で一際明るいアリスだが、国境問題のいざこざに住んでいた街が巻き込まれ、政府の特殊部隊に街も家族も友もなにもかもを焼き払われた過去を持つ。
反乱軍に入った理由も復讐であり、後半の政府軍との戦いの中で髪を下ろし、美しいがゆえに恐ろしい微笑みを浮かべて敵を蹂躙する。
こいつが1番壊れてる。
ま、この中で壊れていないやつはいないか。
俺も含めてな。
反乱軍は最終的に勝利するがこの3人娘の中で、必ず2人が死亡し残った1人の望みも叶わない。
そういう未来だ。
俺?
俺もだな、時には共闘して一緒に魔物退治したり、結局はラストの戦いで敵方に傭兵として雇われ、オカルトマシーンに乗った生き残った1人と戦い、死ぬ。
戦争ってのはそんなもんだ。
俺は店の看板娘を呼んで安酒を4人分頼む。
酒場兼食事処でもあるので酒の供給は早い。
それをアリスは迷いもなく受け取り、ゴッキュゴッキュと飲み干す。
「ぷはぁー、五臓六腑に沁みるー。
おかわり!」
言ってることはオヤジくさい。
飲みっぷりがいいので、酒に強いのかと思えば早速顔に赤みが出ている。
次の酒を待つまでの間に空のコップを片手で持ち上げて、アリスは目を細め俺を挑発するように言った。
「私をこんなに酔わせてどうするつもり〜?」
「黙ってろ、ボケ娘」
「ひどい!」
ぶちぶちと文句を言いながら、次の酒を受け取りアリスはそれをちびちび飲む。
クララは流石に酒まで手は付けず大量の肉の山を優雅に減らし、セラは相変わらずこちらを監視するように半目でじーっと……同時に腹の虫をぐ〜と鳴らしてる。
「酒飲みボケ娘、そこの無駄に監視している娘の口の中になにか放り込んでやれ」
セラの性格上、警戒している猫と一緒で信用している人からじゃないと飯は食わないだろう。
「はいは〜い」
「ちょっ、アリス!?
もがが」
1度口の中に食べ物を突っ込まれると、セラも空腹が耐えきれなかったのだろう、アリスと並んでがふがふと口の中に肉を突っ込む。
「セラ、警戒もわからんではないが店の食事に変な物混ぜたりしねぇよ」
俺は呆れながら、そのポンコツ2人の様子を眺める。
コトッとクララがフォークを置いた。
「……クロさん、でしたか。
どういうつもりです?
整備に500万ガルドもの大金を無償で注ぎ込んで」
どこの街でも郊外の方に魔導機の整備工場と保管場所が備えられている。
俺の魔導機も含め、俺の傭兵時代の登録番号を使い整備工場に修理を依頼している。
反乱軍の3人娘は偽造の登録番号も持っていなかったからだ。
伝手やテクニックさえあれば、こんなご時世なので、いくらでも偽造は可能だ。
もっともその伝手やテクニックがそうそう手に入るわけではないが。
今回は政府とも繋がりのある研究所のデータをいじれたので色々簡単だったが。
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