第1話人は間違える生き物である
俺は今、ゲームの瞬間に立ち会っている。
主人公というべき3人が今、ここに現れるのを待ち受けていたというわけだ。
俺の役目はゲームの小物の悪党。
ことあるごとに主人公の前に立ち塞がり、ボコボコになって退散させられる。
ルート次第では一時的な仲間にもなるが、結局敵のままのライバルってところ。
だから試したかった。
俺がどこまでいけるのか、どこまで生きるってことに向き合えるのか。
その瞬間こそが最高に興奮する。
こんなあり得ねぇ記憶をぶち込まれたせいで、俺もどこかぶっ壊れたんだろ。
それとも元から、か。
漆黒の魔導機ハーバルトに乗って、俺は舌なめずりをする。
「さあて、主人公の仔猫ちゃんたち。
楽しませてくれよぉ〜?」
その言葉と共に俺はフットレバーを踏み込む。
遠くに見える3機の機影。
まさにゲームスタートだ。
……んで、今に至るわけだが。
俺は3人の小娘のすすり泣きを聞きながら、どうしたものかと改めて思案する。
そういえば初期は機体の性能も低く、数が多いとはいえはぐれ山賊にも苦戦してたな。
ここまでぼこぼこにしていながら今更思い出した。
なお、このマークレスト帝国には山賊が多い。
隠れる険しい山々も多く、反乱軍の拠点となる西側はほぼ山だ。
ちなみに盗賊は平野部や街の中にいる。
食糧事情の厳しい冬には村ごと盗賊となり、旅人や商人から案内役をつける代わりに通行料を取ったりする。
状況次第では根こそぎ奪う。
そこは山賊も同じだが。
「……おい、パーチカルツインブースターはどうした?」
「ううっ、死にたくな……えっ?」
ここに来る前に主人公機はチュートリアル的な山賊をぶちのめし、パーチカルツインブースターというパーツを手に入れ、そこで僅かながら機動性がアップしていたはずだ。
そうすれば初手ぐらいは避け切れた可能性はある。
……まあ、避けさせねぇけどよ。
「パーチクピーチクって……なに?」
俺の問いにアリスが問い返す。
モニターは繋げていないので姿は見えないはずだが、間抜け面でそう聞き返してきたのが簡単に想像できる。
「パーチカルツインブースターだ。
パーチしか合ってねぇじゃねぇか……いや、いいや」
多少の木々が点在した荒野。
街道からはやや外れた道なき道。
その中をひた走っていた彼女たちの立場は推して知るべし、といったところだ。
それもそのはず。
ゲームとやらによると、彼女たち3人はマークレスト帝国の反乱軍だ。
反乱軍とはいっても無法者の集団ってわけでもない。
一言でいえば、継承争いだ。
マークレスト帝国は大国である。
皇帝が病気で倒れ、宰相クーゼンが第3皇子ベルトを擁して実権を握った。
それに第1皇子ジークフリードが反旗を翻した形だ。
皇太子は決まっておらず正統性はどっちもどっちだが、勢力は圧倒的に宰相側だ。
しかしながら、宰相クーゼンは権力を掌握するために中枢のみならず、広く民衆にまで弾圧を行った。
第1皇子派のように宰相クーゼンを絶対に認めない派閥がいくつもあったために、権力を掌握するには必要なことではあった。
しかし、それがそのまま各地での火種となった。
当然だ。
権力争いは勝手にしてくれと思っていた民衆も、火の粉が自らに降ってくれば抵抗せざるを得ない。
かくしてマークレスト帝国は宰相クーゼンの東側と落ちのびた第1皇子の西側で内乱となった。
なお、人口や街の規模は東側が圧倒的で、西側は領地こそ広いが荒れた山々や森が広がり、東側の1/3以下の国力しかない。
いま俺たちがいる荒野は東側に位置するが、西側にもかなり近い。
この3人娘がここにいたのも、とある偵察任務で東側に取り残される形になったからだが……。
それを知っている理由は一切説明できない。
なので────。
「おまえら政府軍の者じゃないな?
政府軍じゃないとすると……すまん、間違えた」
襲撃は間違いだった、で誤魔化し切ろうと思う。
「へっ!?」
「えっ?」
「えぇ……」
通信越しでも3人娘がポカンと呆気にとられた雰囲気が伝わる。
そして3人を代表するようにアリスが尋ね返す。
「……ま、間違えた?」
「おう、政府軍だと思って迎撃した。
すまんすまん、誰も死んでないから良いだろ?」
自分で言っててあんまりな気もするが、他にどうこう言いようがない。
ゲームシナリオ通りに主人公3人とライバルキャラの遭遇戦かましたら、勝てるかどうか試したかったとか……言えねぇし。
通信越しにアリスがふるふる震えている感じが伝わる。
感度良いな、その魔導機。
そしてついにアリスは絶叫する。
「ま、ま、ま……間違えたってなんですかぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
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