第19話プレゼント
「私たちはすでに身も心もここにいる先生のものです。
なのでせっかくの申し出ですがお断りさせて頂きます」
クララはハクヒに丁寧に断りを入れた。
ハクヒの顔を見知っているわけではあるまいが、逃げて行った傭兵クズレたちや護衛兼愛人の雰囲気を読み取ったのだろう。
そのクララの後ろに隠れるようにしてセラも仕切りに大きく頷く。
アリスに至っては仁王立ちで腕組みしながら偉そうに頷いている。
それはいいが、なんで身も心も俺のものとか言ってんの?
……っていうか、おまえらの俺への信頼って一体なんなの?
「なぁんだ、男付きかよ。
俺は人のものには興味ねぇんだ」
そんなハクヒもたいして執着も見せず、あっさりと引いてみせる。
残念、ここでハクヒに付くようならそれはそれで3人娘のお守りはおしまいでもあるし、なんならハクヒごと敵に回すのも面白いと思ったんだが。
ハクヒはゲームでは仲間にはならなかったが、ルート次第では一時的なお助けキャラとして専用魔導機で3人娘に協力する。
そのときはなかなかの腕前で、敵にしたらさぞ潰しがいが……。
そう思い目を細めた瞬間。
目の前の人物から殺意が放たれた。
小柄な影が青龍刀の刃をきらめかせ、一足飛びに詰め寄って来たのだ。
いい〜反応だ。
だが……青い。
殺気という挑発に当てられ、護衛対象から離れるとは。
そうまでして先手を取ろうとするのもアリではあるが……。
加速してくる相手に懐に入り込むように俺から逆に踏み込む。
僅かに半身を交差し、青龍刀を突き出した手を添えるようにして手首を返す。
小柄な護衛兼愛人がくるっと跳ね飛ぶように回転する。
反動を利用し、地面に叩きつけられる前に身体を反転させて俺から距離を取り構える。
その彼だか彼女だかに……腰から抜き放った銃を突きつけ、ニヤッと笑う。
「ゲームセット」
「えっ、えっ!?
師匠、今なにしたんです!?」
アリスがなぜか直立不動のつま先立ちで驚きを表現する。
器用だな。
「青龍刀で斬りつけられたのを避けたまでは見えましたが……」
「……手首を返した、だけ?」
クララが呆然と呟き、セラが見えたままを口にする。
ま、セラが正解だな。
知らなけりゃ避けれねぇし、知ってても対処は難しい無手技ってやつだ。
護衛兼愛人はなおも殺気を消さずに、青龍刀を構えこちらに再度飛び込むような気配を見せる。
「おいおい、護衛がそれじゃあ駄目だろ?」
俺は目線を僅かにハクヒに向ける。
俺はこの銃口を即座にハクヒに向けるのも可能なのだと知らすために。
だが、そうやってハクヒに目を向けた途端、予想外の事態に内心でギョッとしてしまった。
先程まで驚きの声を上げていたはず。
なのにアリスが、いつのまにかハクヒに銃口を突き付けていた。
その表情はドキリとするほど真剣なものだった。
クララは俺と護衛兼愛人との間に飛び込めるように身構え、セラも護衛兼愛人に銃口を構えている。
この一瞬の変化にさすがに俺も驚きを隠せない。
先程のおとぼけはどこいった?
いや、そんなことよりも。
俺はあえてハクヒを攻撃対象にしなかったのだ。
こういうのは落とし所が大事だからだ。
ハクヒは攻撃されたわけではなく、あくまで愛人兼護衛がヤンチャしただけ。
そういうふうにしておかないと海運を
「おまえら、やめろ」
「タイカ、やめろ」
俺とハクヒの呼びかけに応じて、同時にアリスたちとタイカと呼ばれた護衛兼愛人が銃と剣を下ろす。
それに対し、ハクヒは俺の方に顔を向け苦笑いと共に肩をすくめて見せる。
「いい腕だな、俺の元に来ないか?」
俺も肩をすくめて返す。
「今はあいつらに雇われているんでね?」
なぜか俺のその返事にはハクヒは微妙な顔をする。
「……あいつらの方があんたに仕えているように見えるけど?」
……奇遇だな、俺もなぜかそう思う。
そう言いつつ、ハクヒは今度こそカラッとした笑みを浮かべる。
「喧嘩を売った詫びだ。
行きたいところがあれば手配してやるぜ」
「やけに親切だな」
喧嘩を売った経緯も少し無理矢理だ。
タイカがハクヒの指示で動いたのは間違いない。
いまも主人の傍らで油断なくこちらを見ている。
俺が挑発したように主人を危険に晒してまで動いた理由が、迂闊なだけとは言い切れないか。
「そうか?
こっちにも色々あってな」
ハクヒはそれにとぼけて見せたので、その反応であたりがついた。
「やはり知ってたのか?」
「さあ〜?
なんのことだか」
つまり、ハクヒは反乱軍からはぐれた3人娘について知っていたのだろう。
おおかた、部隊長である艦長コーラルと繋がりがあったか。
むしろ全く繋がりがないと考える方が不自然だ。
それがわかって、アリスたち3人娘と一緒にいる俺にちょっかいをかけた。
どういう存在か探るために。
実際のところ、こういう喧嘩を吹っ掛けたのは護衛兼愛人がどうのというより、ハクヒ自身に武においての自信があるせいだろう。
傲慢さとも取れる自信でもあるが、それに裏付けされた実力はあるし、武人としてそれで負けたらそれまでだという覚悟もあるのだろう。
だが、薄暗い闇はそれを越えるほど深いだけのこと。
その慢心がのちの悲劇を生むのだ。
ま、俺にはどうでもいいことか。
敵となるなら、本気で叩き潰すだけだ。
「やるよ」
俺はタイカに銃を放り投げ渡す。
それを受け取ったタイカは。
「……銃は趣味じゃない」
「それでもだ。
なにかを本気で護りたいなら主義主張にこだわる余裕なんかねぇぞ?」
それで運命が変わるとは言わない。
ただ、その可能性を引き寄せるも突き放すも自分次第ってだけ。
アリスがすすっと寄ってきた。
「師匠、私にもください。
指輪とか指輪とか指輪とか」
横でぴょんぴょんと跳ねるアリスをよそに、俺はどこか遠くを眺めながら言った。
「おう、魔物でも狩って自分で買ってこい」
魔物の狩りは少しは慣れただろ?
「ずぅるい〜!
私たちも師匠からプレゼントもらったことないのに!」
「クロ師匠のハジメテ奪われた……」
そこからセラまでもすすっと寄ってきた。
俺のハジメテってなんだよ?
おまえたちみたいなのを世話しているとハジメテ尽くしだよ。
俺の周りでぴょんぴょんと飛び回るアリスとセラにめまいを起こしそうになって、俺はポンコツ3人娘の最後の1人、クララに視線を向ける。
飛び跳ねはしないが、恥ずかしそうに俺のそばに近づき。
「……私もできれば」
おまえもかい。
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