第14話俺たちは汚れている……

「師匠〜、元気ないですねぇ〜。

 どうしたんですかぁ〜?」


「あの……、やはり3人同時にお伺いしたのがいけなかったのでしょうか?

 今日は私だけでお部屋にお伺いしましょうか?」


「ダメ、クロ師匠の相手は私」


 かしましい3人娘に向けて、俺はテーブルを強く叩く。

「……どういうつもりだ?」


 昨夜も3人が枕を持って押しかけて来た。


 即座に追い返したら、俺の部屋の扉を叩くわ、廊下できゃいきゃい騒ぐわ。


 きっちり宿屋の親父に見つかってほどほどにと叱られていた。


 なお、朝一で宿屋の親父が生温い笑みで頷いて来た。

 昨日はお楽しみでしたかとか下世話なことを言わない分、この宿は質が良いが2度と来ないことを俺は誓う。


「あ〜……、ちゃんと口にすると、こう〜、なんかアレなんですけど……」

 そう前置きして常識人クララが代表で口を開く。


「私たち無一文ですわよね?」

「そうだな、だから自分で稼げと昨日から魔物狩りに連れて行っただろ?

 もっと稼いでもらうぞ」


 具体的には500万ガルド。


 それだけの金があればここから少し東に行ったコカの港町から、大河を下ってウラヒの街を経由して南に迂回しながら移動すれば、魔導機ごと船で西側反乱軍勢力地に入ることが可能になる。


 奇妙に思うかもしれないが、内戦中であっても西側への経路が遮断されているわけではない。


 それを止めてしまえば、経済が遮断され他国に侵略される隙を作ることになる。


 もしも他国の侵入があれば、その時点で政府軍と反乱軍は手を取り合い敵に対処することが約束されている。


 その場合、侵略者もこのマークレスト帝国もさらに酷いことになるのは間違いないが。

 少なくともゲームでは、この時点での他国の侵攻はない。


 国境に問題を抱える他国からすれば、放っておくだけでマークレスト帝国が内戦で弱まるのならば、それに越したことはないからだ。


 とにかく魔導機の修理に使ったのもあり、俺も金がほぼすっからかんだ。

 なので、その金は俺も含めてだが全員で稼ぐ。


 そう説明した。

 特にクララは金に苦労した経験もあるからか、金勘定はかなりしっかり行っている。


 没落前の貴族家でも少しは経営に関わっていたのかもしれない。


 昨日のような稼ぎを繰り返して、かつ生活費を度外視しても40日近くかかる。


 そこからようやく船で西側に帰還するための移動で5日程度。

 移動云々よりも金を稼ぐ時間の方が圧倒的だ。


 そこはなんとか上手くやらないといけない。


 ゲームでの時間軸がどうであったか不明だが、ゲームで起こった様々な戦場に主人公3人娘が間に合わないとなると反乱軍はかなりの窮地に追いやられることは間違いない。


 それだけ彼女らの活躍は目覚ましいものではあった。

 なので反乱軍の状況的にも、帰還への日数を少しでも縮めることは必須課題でもある。


「それらのことも含めて、なんだかんだ先生のお膳立てがあってですわよね」

「そりゃそうだが、俺にも打算があってだぞ?

 あとその先生とか師匠ってのは決定なのか?」


 決定です、と3人が強く頷く。

 そこはまあ……、これも俺なりの打算があるからいいが。


「打算があっても、実際私たちの借金があるみたいなものなので、借りを返すのにこの身体しかないのですわよ」

「……だから働いて返せばいいと言ってるだろ?」

「借りが大き過ぎるのです!」


 繰り返しになるが500万なら一般傭兵の命の値段と同等。

 なんの担保もなしにポンっと貸すなど怪しすぎるし、逆に怖いというものだ。


 没落貴族の末路などは特に借金取りなどで危ない目に遭ったことだろう。


 身売りされなかっただけマシなのか、それとも娼館に行く代わりに反乱軍に自ら身売りしたのか、そのクララに苦悩もわかるというものだ。


 まあ、だからこそ命は渡せないが、代わりに自分自身の身体を担保にしようという打算か。


 俺も打算なら、こいつらも打算か。

 それなら随分わかりやすいし、むしろポンコツなだけ、と疑った俺の方がボケていたな。


 むしろそういう打算の上なら、逆にこの3人娘に手を出してしまうのも悪くないようにも思う。


 冷たい言い方かもしれないが、それだけの交渉材料にできるだけの美貌を持っているのだ。


 商売や交換条件という契約の元でならそれに従うのはやぶさかではない。


 契約に縛られるということは、逆に契約外についてはハッキリと拒絶できることを意味するわけだからだ。


 なんらかの交渉のうえで命や身体を張ることは俺は否定しない。

 なぜなら、まさにそれこそが傭兵やハンターという仕事なのだから。


「ですわねっ?」

 そうクララは笑顔で2人に同意を求める。


「えっ……?」

「あ……、そうなんだ。クララはそういう意味で……」

 セラは少し引き気味にそう答える。


 なぜかアリスに至っては初めて聞いたように呆然として、目をぱちぱちさせる。


 この2人は打算のつもりは毛頭なかったようだ。

 まさか、本気で恋愛するつもりだったのか?


「……おい」


 話が違うじゃねぇか、と。


 打算じゃなければ、ちょっと重いものが発生するわけで、それこそ責任とか責任とか責任が発生する。


「あ、あれ……?」

 クララが額から汗を流し戸惑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る