第15話おまえが1番常識人だと俺は思うぞ、うん
微妙な空気の中、アリスが肉とレタスを口に突っ込みながら自分の考えを言葉にする。
「う〜ん、自分を軽くみているわけじゃなくて。
私自身にとっても一世一代の賭けに出た方がいいと感じたんです。
師匠に身を捧げたら、最低限生きて部隊に戻れるまで守り切ってくれそうな気がしますし。
それに師匠は情が湧くと、どんなことしても助けてくれそうだし」
当人は至って真面目に考えてそれなのだ。
それにはクララもセラも頷いている。
責任を取るかどうかの違いであって、そこは3人とも同じ考えなんだな。
ちょっと全力投入し過ぎな気もするが打算と言えば打算だが、そもそも……。
「俺はそういう『いいヤツ』じゃねぇぞ?」
まずあの出会いでそこまで全力で信じ切るのが問題で、クララの話の方がとてもよく納得できるんだが?
「う〜ん、ただの直感なので」
アリスはなんでもないように首を傾げる。
つまり、根拠らしい根拠はないと。
何度もいうが、直感に全力投球っておかしいよな?
そこで先ほどハシゴを1人外されたクララが言い訳の言い訳をする。
「先生、誤解しないでください!
私も誰にでもそう言うわけではなく、先生だからですからね!
こう見えて貞操はやたらと堅い自信がありますから。
ね、2人とも?」
戦争に関わるものは狂気と暴力に近づき、次第に命と自分自身を道具として考える。
そうでなくても貴族家は結婚に愛は求めず、家と家の同盟のために使われる。
クララが自身の身体を使った交渉を手段の1つとして考えるのも、その生まれによるものも大きいだろう。
貴族の考え方はともかく、俺たちのような戦争に近い狂気の世界の住人からすると、クララの考えの方が正しいわけだが……。
常識的で平和な世界であれば愛や恋などを楽しむ余裕もあるだろう。
アリスとセラはその人間性が残っているということだろうか。
そうであればなおのこと、こんなところでただの傭兵ごときに自らを安易に捧げるべきではないのだ。
せめて今後の全てを背負わすぐらいは必要だ。
遠慮するがな。
もしも、これが徹底した機械文明ならこの人間性が殺し合いの際に邪魔になる。
それを訓練で徹底的に削ぎ落とすのだ。
甘さを捨てるともいう。
魔導機というのはその点がタチが悪い。
戦場で摩耗されるレベルの兵士の場合、上官の死ねという命令に素直に従うために感情を捨てさせられる。
そうなった場合、魔導機はある一定以上の力を発揮しない。
技量は必須なのだが、徹底的に感情を破棄してしまえば一定の成果を出すプロにはなれても変革は起こせない。
反対に心の強さが魔導機に大きな影響を及ぼし、とんでもない成果をあげることがある。
己の信念のもと強さを発揮できる、それが魔導機だ。
魔導機の真の力は人間として心の強さという絶対条件があってこそといえる。
感情を捨てた兵士ではダメなのだ。
民間の研究所が造った魔導機がとんでもない力を発揮することがあるのもそのためだ。
かつてあった世界大戦でも、決着をつけたのは民間と軍の連合部隊だった。
もっともそれ以前に、戦争で人間性を保つというのは矛盾する問題ではあるのだが。
「……先生。
やっぱりいまの話なしで。
私も借金のカタではなく愛すべき嫁としてお願いします」
いや、今更言い直されても……。
微妙な空気のまま、食事を再開。
アリスとセラがチラチラと、クララの様子を伺いながら黙って食事を続けている。
うん、なんとも言えない空気である。
「そ、そういうことで私も先生のことを恋の相手として見ていますからね!?」
クララは先ほどの流れをフォローするようにアリスとセラに再度、同意を求めたが……。
「ははは……」
「どうかなぁ……」
アリスとセラは微妙な笑みで誤魔化した。
「信じてよぉおおおおおおお!?」
なんて麗しい友情だこと……。
おまえが1番常識人だと俺は思うぞ、うん。
ちょっと汚れすぎているかもしれないが。
あと、マジで恋愛相手に俺を選ぶのはやめてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます