高橋先輩と(仮) ⑦ -バチバチ?-



放課後になって学生が減ってきた頃、高橋先輩の教室に行ってみる。



「ねぇ、高橋~。さっきの授業のさ微積が意味わかんなかったんだけど、教えてくれない~?」


「いいけど、僕今日は用事あるから明日じゃだめ?」


「いいけど~、明日になったら他にも聞きたい事出てくるかもよ~?」



今取り込み中かな、邪魔しちゃうといけないからしばらく教室の外で待ってよう。

でも先輩が茉希さん以外の女の人と親しそうに話しているの初めて見た。

なんかモヤっていうか嫌だなって…なんだろうこの気持ち…。



そういえば今思ったけど、高橋先輩って頭良かったんだ。

そもそもクラス聞いたときに気づけばよかった。

2年C組は理系の特進クラス…学校の中で頭のいいクラスだ。

うちの学校は2年から理系と文系が分かれていて、A・Bが一般理系でC組が理系特進、D~Eが一般の文系でF組が文系特進っていう特殊なクラス分けになってる。

私も今度勉強教えてもらおうかな、なんて。


そろそろ話し終わったかなと思って教室をのぞいてみると、高橋先輩と目が合っちゃった。



「あ、永祢ちゃん来てくれたんだ~、ありがとう。」


「あ、はい。約束だったので。」


「あー。高橋のペアの子じゃん。ふーん?」


「この子との用事あるから、明日でもいい?」


「あーね。いいよ。」


「ありがとう。」


「どいたま。じゃあねー。1年生、高橋いじめんなよー。」


「???はい?」


「もう、そう簡単に返事しちゃダメだってば~。」



いじめるってなんだろ?

全くそんなことしてるつもりないけど、もしかして知らない間にいじめてた…!?



「先輩…」


「あー、さっきのでしょ?気にしなくていいからね。」


「でも…いじめてるって」


「んー、確かに告白したのに2週間待つっていう意地悪はされてるかな~。」


「それは!先輩が…そうするって、言うからで…。」


「あはは、だから気にしなくていいんだよ。あ、そうそうここに呼んだのはね~。」



いきなり回り見渡してどうしたんだろう?

もうさっきの女の先輩が帰ったから教室には誰もいないけど。



「今日が仮での関係がラストでしょ?だから――」



そう言うと高橋先輩は距離をいきなり詰めてきて、腰に手をまわしてきた。


一瞬だった…

って、すっごく距離が近いのですが…?


コンテストの時も思ったけど、高橋先輩は細身だけど筋肉がすごい。部活やってるんだもんね。

逃げたくてもがっちりと腕でホールドされてるから逃げられないし、少し上を向くと先輩の顔がドアップだから恥ずかしくて思わず下を向いちゃった。



「ちょっと、なんで下向いちゃうのさ~。」


「だって近いんですもん…。」


「コンテストの時はこっち見てくれたのに~。」


「あの時は変なこと言うから思わず顔を上げちゃったんです。」


「変なんて言う子にはお仕置きかな。」



ちゅっ



!?


え…っと…?今、何が起きたの?

目の前には満面の笑みな高橋先輩がいて、ほっぺに柔らかい感触が…?



「あははっ、どうしたの?豆鉄砲くらった鳩みたいだよ。」


「いや、だって今!」


「だってさ、全然僕のこと意識してくれないな~と思って。キスしたら少しは変わるかなーとか。あとは、普通に好きな子が目の前にいたらしちゃうよね!」


「いや、高橋先輩の事意識してないわけないじゃないですか!あと好きな子って!もう!もうっ!!」


「そんなに怒んないでって。」


「なぁ隆貴、約束と違わねぇ?」


「あれ、…亘輝いたんだ~。」



さっきまでの和やかだった教室が一瞬にして殺伐とした空気に変わった。


いつの間に佐藤先輩が教室に来てたんだ。全く気付かなかった。

佐藤先輩に久しぶりに会ったけどすっごく怒ってるし、高橋先輩も声はお茶らけてるけど笑ってない。

何か前にもこんなことあったよね。

それにしても、いつから見られてたのか気になるし、約束ってなんだろう?



「僕との仮は今日までだから別に何してもいいよね?」


「いや、約束しただろ。」


「キスしちゃいけない、なんてものはないじゃん?」


「は?手を出すなに入るだろ。」


「わかったよ~、ごめんて。お詫びに僕はもう帰るから、永祢ちゃんのこと送ってあげて~。」



そういうと高橋先輩は私のことを腕の中から解放してそそくさと帰ってしまった。

なんか最後がこれだと後味が悪い気がする…。


佐藤先輩と2人っきりはまだ心の準備ができてないんだよね。



「おい隆貴!まじか、あいつ本当に帰りやがった。」


「あの、私も帰りますね。」


「いや、送ってく。」


「え?あ、ありがとうございます。」



佐藤先輩とは文化祭から会ってないから1週間ぶりぐらいなんだよね。

久々に会えてちょっとうれしいなんて、私何考えてるんだろう。



「佐藤先輩と会うの久々ですね。」


「そうだな。」


「元気でしたか?」


「あぁ。」



うぅ、会話が続かない。

学校から駅までの数十分無言はつらい。

元々佐藤先輩は口数が少ないから会話続けること自体大変なんだけど…。

そうだ!



「そういえば、さっき約束が違うって言ってましたけど、なんの約束ですか?」


「あー、気にしなくていい。」


「うっ…でもあんなに2人が言い合っていたら気になります。」



ちょっと突っ込みすぎちゃったかな?

でも今はこれぐらいしか会話がないからごめんなさい!



「隆貴と俺の約束だ。」


「先輩たち同士の約束、ですか。」


「内容も知りたいか?」


「先輩たちの約束なのに内容まで聞いていいんですか?」


「あぁ。別に隠す必要ないだろ。永祢も関係してるしな。」


「私も関係してるんですか!?」


「まぁ。仮の期間の互いの約束って事で、大まかに3つ。1、相手の仮期間は接触しない。2、どこに行った・何をした等の報告をしない。3、必要以上は触れない。ってな。」


「なるほど、だから佐藤先輩と1週間会ってなかったんですね。」


「そういうことだ。ほら、駅に着いたぞ。」


「送っていただきありがとうございます。」


「明日、7時45分に駅に迎えに来る。」


「わかりました。明日からお願いします。」


「あぁ、こちらこそ。」



佐藤先輩も高橋先輩と同じく私を送った後、来た道を戻って行ってる…。

そこまでしなくてもいいのに。


そっか、今日で高橋先輩との仮期間は終わりで、明日からは佐藤先輩との仮期間が始まるんだ。

結局私はまだ高橋先輩の事をどう思っているか分からないままだし、あと1週間でちゃんとどう思っているかわかるかな。

いや、それよりも明日から佐藤先輩と会話が続くかの方が問題かも…。





-つづく-








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