第6話 マスター衝撃の告白からの~最終回

「あのな、絶坊主ちゃん・・・ナツコのことなんやけど・・」


マスターは苦虫を噛んだような表情で続けた。


「実は・・・俺の子、妊娠して、もうちょっとしたら、店をしばらく休むねん・・・。だから・・・絶坊主ちゃん、ボクシングやんなよ!」


「へ・・・?」


マスターの子ってことは、つまり、そういう関係なわけで・・・。


突然の告白で、頭が真っ白になってしまった。


っていうか、何、便乗して「ボクシングやんなよ!」とか言うてんねん!全っ然、響かへんちゅうねん!


「あ、そう・・」


感激とショックで訳わからん状態だった。でも、今、やらなければならない事は明確にわかった。


「そうだ、俺はプロボクサーになるんだ!」


私は自分にケジメをつける為、なっちゃんに最後のお別れを言おうと思った。


次の日、私は“ひじり”に向かった。店には、いつもと変わらず、マスターとなっちゃんたちがいた。いつもと同じように、私の隣になっちゃんが座る。


「聞いたで~!妊娠したんやてな、おめでとう!」


普段の私は、なっちゃんが他の客に付いただけで、不機嫌になるような面倒くさい客だった。なっちゃんもそれをわかってたから、気まずい表情だったのだろう。


私の意外な反応に戸惑っていた。


「あ、ありがとう・・・」


「俺も夜遊び卒業して、プロ目指して頑張るわ!」


私の精一杯の強がり・・・


「が、頑張ってね・・・。応援してるから・・・」


「ありがとう!じゃあ、マスター、帰るわ!今までありがとう!」


私は一杯だけお別れの酒を飲みほし、会計を済ませて店を出た。


外に出て、振り返って扉をしばらく見つめていた。


「もう~、絶坊主ちゃんのバカっ!また来てね!待ってるよ!」


・・・・・・・・・・・・・・・。


もう、あの頃みたいに、なっちゃんは私を追いかけては来なかった・・


でも、なっちゃんには本当に感謝している。慣れない土地で、一人ぼっちで淋しかった私。一時だけでも、なっちゃんの存在があったから頑張れた。


そして、私はМさんとの約束を果たすべく20歳になる直前の19歳。


超満員の後楽園ホール。


人気の日本チャンピオンの前座。相手はアマチュアで数戦していた選手。方や、まったく試合経験のない私。


1R 1分16秒 KО勝ち


リングの中で勝ち名乗りの右手を上げられていた。


Мさん、約束守ったよ・・・


今でも、左手のタバコの火傷の痕、根性焼き・・・いや違うな。


さながら“なっちゃん焼き”ってとこかな。


その火傷の痕を見つめると、せつないあの頃の思い出が甦る・・・



長々と、私の昔話を読んで下さり、ありがとうございました!


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なっちゃん焼き 絶坊主 @zetubouzu

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